賃金48(スリー・エイト警備事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇された従業員からの未払残業代等請求に関する裁判例を見てみましょう。

スリー・エイト警備事件(大阪地裁平成24年1月27日・労判1050号92頁)

【事案の概要】

Y社は、警備業務等を主たる業務とする会社である。

Xは、平成19年4月から平成21年2月まで、Y社の営業部門で勤務した。

XとY社との間では、雇用契約書は作成されず、労働条件通知書等の書面も作成されなかった。

Y社では、出退勤時刻をタイムカードで管理していた。

本件は、Y社に解雇されたと主張するXが、残業代および解雇予告手当が未払いであるとして、Y社に対し、それらの支払いおよび付加金の支払いを求めた事案である。

Y社は、Xとの間の雇用契約は名目上のものであり、時間外労働の事実も解雇の事実もないなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社との間で、所定労働時間や休憩時間の合意がなくとも、Xは通常、朝礼に間に合うように出社し、9時頃から外回りに出ており、かつ外回りから帰社する時刻は、帰社後に管制業務に従事する場合は午後3時頃、それ以外の場合は午後5時ないし5時30分であり、また適宜休憩を取っていたことから、XはY社の指揮命令の下、営業等の業務に従事し、その対価として賃金の支払いを受けていたと認められ、XとY社との間には雇用契約が成立していたことは明らかである

2 Xが、Y社の従業員として営業等の業務に従事していたことは認められるものの、その労働時間を客観的に裏付ける証拠は存在しない(Xの週間予定表は提出されているが、これにも時刻の記載はなく、実際にどの程度の営業活動がなされていたのかは判然としない。)。かえって、XとY社との間では、所定労働時間に関する合意も、休憩時間に関する合意もなく、Xは外回りに出た際には、適宜休憩を取っていたというのであるから、Xが法定労働時間を超えて労務を提供したか否かは、結局のところ不明であるといわざるを得ない
この点、Aは、同人が午後7時以降まで残業をした際は、Xは必ず在社していたと証言するが、仮にXがY社の事務所に在社していたとしても、そのことから直ちに、実際に労務を提供していたと認められるものではない。Y社は、XがY社の事務所にいる際、仕事をせずに携帯ゲームで遊ぶなどしていたと主張し、Bは、Xが携帯ゲームをしているのを何度か見た旨、これに沿う証言をしている。Bは、Y社申請に係る証人ではあるが、すでにY社を退職しており、また、Xに有利な証言もしていることに照らすと、その証言には一定の信用性が認められるから、Xが、Y社の事務所に在社していた際、実際にどの程度労務を提供していたのかは、必ずしも明らかでないといわざるを得ない。

3 ・・・仮にXのタイムカードが残存していたとしても、タイムカードは、あくまでXの出退勤時刻を示すものにすぎないところ、本件では、前記のとおり、Xの営業のために外出し、適宜休憩を取っていたこと、事務所に在社している時間のうち、実際に労務を提供した時間がどの程度であったのかが不明であることからすると、タイムカードの記載から直ちにXの労働時間を認定することはできない。
以上によれば、XのY社に対する未払残業代請求については、Xによる時間外労働の事実が立証されていないといわざるを得ないから、認めることができない

判例のポイント3のように判断してもらえて、会社側としてはラッキーでした。

毎度毎度、どの裁判官も、タイムカードについてこのように判断してくれるとは限りません。

ですから、あまり先例として鵜呑みにしないほうがよろしいかと思います。

会社側とすれば、タイムカードの記載からそのまま労働時間を認定されないようにしなければなりません。

そのための準備をする必要があるわけですね。 詳しくは顧問弁護士に聞いてみて下さい。