おはようございます。
さて、今日は、スタッフ職社員の出退勤時刻虚偽入力等と退職意思表示の錯誤に関する裁判例を見てみましょう。
富士ゼロックス事件(東京地裁平成23年3月30日・労判1028号5頁)
【事案の概要】
Y社は、カラー複合機などのオフィス機器の製造・販売等を主たる業とする会社である。
Xは、平成元年3月に短大卒業後、同年4月にY社との間で雇用契約を締結し、営業職等として稼働していた。
Xは、出退勤の情報につき虚偽の申告等を行っており、そのことが発覚後、Y社は、事情聴取を重ねる中で、Xに対し、Y社の懲戒規程を確認するように指示し、Xは、平成21年3月6日の事情聴取後には、本件懲戒規程を読み、懲戒解雇になるかもしれないと考えた。
その後もY社が調査を進めたところ、Xは他にも、外出旅費、通勤交通費の二重請求や生理休暇日にまで旅費を請求していること等が判明したため、Y社は、Xに対し、自主退職をするか、懲戒手続を進めるか尋ねたところ、Xが、自主退職をする旨を回答した。
【裁判所の判断】
退職の意思表示は錯誤により無効
【判例のポイント】
1 Xは、3月11日事情聴取において、「100パーセント辞めたくない。」「減給でも出勤停止でも受けるので、解雇されると保険のこともある。」「できれば解雇は避けたいと正直そう思っている。仕事の重いのでも良い」「会社だけは辞めさせないで下さいと言いたい」「数か月間、無給で働かせてもらうというのでは」などと在職したい意向が強いことを述べた上で、自主退職をするか決断するのに「今週末まで時間を欲しい。自主退職、解雇で退職金が違うということや、冷静に考えたい」と要望したこと、Xは、懲戒解雇と自主退職といずれが得かをY社人事担当者らに尋ね、Y社人事担当者らは「天と地の差がある。重みも、傷も違う。世間の認め方も違う」などと言ったこと、Xは、本件退職意思表示直前に、「私の場合は懲戒解雇があって、2種の選択の中で自主退職をということで、言い出した」と発言したことからすると、Xは、Y社に対し、本件退職意思表示の動機は、懲戒解雇を避けるためであることを黙示的に表示したものと認められる。
2 そして、Xは、在職の意向が強かったことに加え、Xは、短期大学卒業直後から、20年間にわたりY社において勤務していたこと、本件退職意思表示当時、40歳の女性であったことが認められ、再就職が容易であるとはいないことも考慮すると、Y社が懲戒解雇を有効になし得ないのであれば、本件退職意思表示をしなかったものと認められる。したがって、Y社が有効に懲戒解雇をなし得なかった場合、Xが、自主退職しなければ懲戒解雇されると信じたことは、要素の錯誤に該当するといえる。
3 この点、Y社は、懲戒にかかる調査の過程で、従業員が、懲戒解雇のおそれがあることを意識し、処分が確定する前に退職を願い出て、当該おそれが具体化することを避けたいと希求する場合、使用者がこれを承認するに当たって、その時点までに判明した事実から懲戒解雇が相当であると認められることを常に求めるとすると、使用者は、懲戒にかかるすべての調査を完了して、懲戒処分の内容が確定した後でない限り、上記承認をすることができなくなり、不当な結果をもたらすことととなるから、退職の意思表示が錯誤により無効となるのは、懲戒解雇のおそれがない場合に限られる旨主張する。
しかし、錯誤の有無は、客観的に判断すべきものであるし、また、使用者が懲戒解雇を選択する可能性があるというだけで、錯誤が認められないとすると、当該懲戒解雇が解雇権の濫用に該当し無効である場合も、労働者は、退職の意思表示をした以上、当該意思表示の錯誤無効を主張できないということになり、不当である。懲戒にかかる調査の過程において、労働者から自主退職の申し出があった場合、使用者は、労働者が錯誤に陥らないよう、処分内容は不確定であり、懲戒解雇以外の懲戒処分が科されることになる可能性もある旨説明した上で、改めて労働者の自発的意思を確認し、自主退職を認めればよいのであるから、使用者に不当な結果を強いるものでもない。
4 Xは、平成21年7月以降も、毎年7月末日及び毎年12月末日限り、少なくとも、上記各賞与額から業績賞与分(Y社の業績に応じて支給される賞与)を控除した金額と同額の賞与が支給される旨主張するところ、Y社は、上記賞与額及び支給条件等について争わない。
以上によると、Xは、Y社に対し、平成21年7月以降、毎年同月末日限り、106万4800円、毎年12月日限り、107万6700円の賞与請求権を有するものと認められる。
非常に参考になる裁判例ですね。
会社としては、上記判例のポイント3を是非、参考にすべきです。
ほんの少しの表現の違いで、結果が違ってきます。
また、本件では、めずらしく解雇後の賞与についても認められていますね。
懲戒処分を行う際は、必ず顧問弁護士に相談することをおすすめします。