Monthly Archives: 8月 2012

本の紹介114 名言力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。

名言力 人生を変えるためのすごい言葉 (ソフトバンク新書)
名言力 人生を変えるためのすごい言葉 (ソフトバンク新書)

よくある類の本です。

いろんな人の「名言」が載っています。

中には、なるほど、と頷けるものが含まれています。

宝探しみたいなものですね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

不安とは、おそれの対象がなにか、よくわからないときに起きる感情だ。ひとつひとつ不安の原因をとりのぞいていけば、あれもこれも、自分で解決できることだとわかる。」(151頁)

「おひとりさまの老後」の著者である上野千鶴子さんのことばです。

「どうしよう。どうしよう。」と不安に陥ってしまうときって、ありますよね。

私もときどきあります。

でもそんなときには、一度、冷静になって、不安の元を分析します。

具体的に、何を恐れているんだろう、ということを分析します。

その後で、おそれの対象が対応可能なものか否かについて考えます。

たいてい、対応可能だということがわかります。

このようなことを繰り返していると、だんだん「抽象的な不安」というものに囚われなくなってきます。

抽象的な不安にかられたときは、とにかくその対象を具体的に突きとめ、対策を考えることに尽きます。

あとは、実践あるのみだと思います。

解雇79(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、データ通信サービス会社社員3名に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年2月29日・労判1048号45頁)

【事案の概要】

Y社は、データ通信サービス、テレコムサービス事業を行う、従業員数約100名(整理解雇前)の会社である。

Y社は、業績の悪化から、法人営業の拠点であった西日本支社を閉鎖するとともに、直ちに利益を生まないプロダクトマーケティング部と指定事業者準備プロジェクトを廃止することを決定し、廃止される部門の人員を主たる対象として、連結ベースで約50名、単体で32名に対して退職勧奨を行ったが、Xらはこれに応じなかった。

そこで、Y社は、Xらを整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 そもそも企業が、その特定の事業部門の閉鎖・廃止を決定することは、本来当該企業の専権に属する企業経営上の事項であって、これを自由に行い得るものというべきであるが、これを自由に行い得るものというべきであるが、ただ、このことは、上記決定の実施に伴い企業が使用者として当該部門の従業員に対して自由に解雇を行い得ることを当然に意味するものではない。わが国の労働関係が、いわゆる終身雇用制を原則的な形態として形成されたものであることは紛れもない事実ではあるが、そうした終身雇用制を前提とするか否かにかかわらず、労働者は、雇用関係が将来にわたって安定的に継続するものであることを前提として、自らの生活のあり方を決定するのが通例であるところ、整理解雇は、労働者に何ら落ち度がないにもかかわらず、使用者側の経済的な理由により、一方的に労働者の生活手段を奪い、あるいは従来より不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせるものであって、これを無制限に認めたのでは著しく信義に反する結果を招きかねないばかりか、労働者の生活に与える影響は深刻である

2 ・・・このように考えるならば、本件整理解雇の効力を判断するに当たっては、同解雇が、労使間の包括的な利益衡量により、就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある場合」に該当するか否かを判定する必要があるところ、整理解雇は、その特性等からみて、使用者は他の解雇にもまして労働者の雇用の維持をに努め、可能な限り、その不利益を防止すべき義務を負っているものというべきであり、そうだとすると上記判断には、いわゆる比例原則が妥当し、整理解雇(余剰人員の削減)という手段とその目的との間の「適合性」(整理解雇が期待された会社経営上の成果の実現を促進するか。適合性の原則)、「必要性」(整理解雇が目的を達成する上で最終的な手段か。必要性の原則)及び「適切性」(整理解雇が目的との関係で適切な均衡を保っているか。適切性の原則)の各観点からの検討が不可欠である。

3 そうだとすると、上記就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」ものといい得るためには、上記適合性の原則に基づくものとして(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(要素(1)=整理解雇の必要性)、上記必要性及び適切性の原則に基づくものとして(2)使用者は人員の整理という目的を達成するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(要素(2)=解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(要素(3)=被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきものと解するのが相当である。

4 なお、整理解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったときはもとより、そのような約款等が存在しない場合であっても、当該整理解雇がその手続上信義に反するような方法等により実行され、労契法16条の「社会通念上相当であると認められない場合」に該当するときは解雇権を濫用したものとして、当該整理解雇の効力は否定されるものと解されるが、これらは整理解雇の効力の発生を妨げる事由(再抗弁)であって、その事由の有無は、上記就業規則64条3号所定の解雇事由が認められた上で検討されるべきものであり、上記就業規則所定の解雇事由=「客観的に合理的な事由」(抗弁)の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはなり得ないものというべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介113 一生食べられる働き方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

一生食べられる働き方 (PHP新書)
一生食べられる働き方 (PHP新書)

元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長の村上さんの本です。

本の中にも、グーグルの話がたくさん出てきます。

村上さんのこれまでの経験をもとに、若い世代にアドバイスをしています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・こうした迷いのなかで出合ったのが、経済学者フリードリヒ・ハイエクの思想でした。自分の利益、自分の家族の利益、自分の会社、自分の地域社会の利益・・・と、自分の同心円上で、私利私欲で行動すればいいというのです。私欲から出た行動は、決して本人だけを利するわけではありません。市場を経由することで社会全体の利益につながるからです。ということは、自分のためにお金を稼ぐことが、最終的には最貧といわれる10億人の生活水準を少しでもよくしていくことでもある。だから罪悪感を持たなくていいと。ハイエクは私欲を擁護するのです。」(88頁)

私利私欲で行動することが、市場を経由することで社会全体の利益につながるという発想です。

経済的にはそうなのかもしれませんが・・・すぐには受け入れにくい考え方です。

私利私欲で行動することは否定しませんが、それに加えて、ほんの少しでも、奉仕の気持ちでみんなが行動することで社会全体が変わっていくのだと思っています。

解雇78(日本ユニ・デバイス事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本ユニ・デバイス事件(さいたま地裁平成24年4月26日)

【事案の概要】

Xは、平成18年8月、Y社と雇用契約を締結し、A社の工場内で製造業に従事していた。

Xは、形式的な6か月の更新を繰り返していたが、ある時更新をしなくなった。しかし、Xは、そのまま何ら変わることなく、労働に従事していた。

その後、Y社は、平成20年12月、Xら従業員に対し、平成21年3月末をもって辞めてもらう旨を口頭で通知した。

Xを含む従業員は、Y社と面接を行ったが、Xを含めて半数以上が不採用となり、Xは、平成21年1月末に整理解雇された。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 民法629条1項は、更新後の契約につき、民法627条による解約の申し入れが出来る旨を規定していることに加えて、賃貸借契約についても民法629条1項と同様の規定(民法619条1項)があるが、黙示の更新後の賃貸借契約は期間の定めのない契約になるものと解されていることからすると、条文の文言及び他の規定との整合性という観点からは、雇用契約が黙示に更新された場合においても、更新後の契約は期間の定めのない契約になるというのが自然の解釈といえる。さらに、当事者の意思についてみても、雇用契約において黙示の更新がなされるときとは、労働者は雇用期間が満了したにもかかわらず労務を継続する一方で、使用者は期間雇用という契約形態の基礎をなし、かつ通常容易になし得る更新手続きをしないまま労働者による労務の継続を黙認しているという点において、当事者間で期間の定めが重視されているとは言い難い。したがって、雇用契約につき黙示の更新がなされた場合における、更新後の契約は、期間の定めがない契約になると解するのが相当である
これに対してY社は、更新後の契約は期間の定めを含めて従前と同一の条件になると主張する。しかしながら、このような解釈は更新後の契約につき民法627条による解約の申し入れが出来るとされていることと整合しないし、賃貸借と雇用とで同様の規定について異なる解釈をすることを合理的に説明することも困難である。また、解雇権濫用法理等が雇用契約の拘束力に一定の変化をもたらしたことは否定できないにしても、そのことが直ちに民法の規定の解釈にまで影響を及ぼすものとは考え難い

2 整理解雇は、Xの責めに帰すべき理由によるものではないことに鑑み、本件解雇の有効性は、人員削減の必要性、解雇回避努力の履行の有無、被解雇者選定基準の妥当性、解雇手続の妥当性等を総合的に考慮した上で、本件解雇がY社の経営上の措置として社会通念上相当であるといえるか否かという観点から判断すべきである。

3 解雇回避努力については、確定的ではなかったにしろ、将来的に受注増加により、雇用を確保し得る可能性は否定されていなかったのであり、解雇をすることなくXら従業員の雇用を継続することができた可能性もあるにもかかわらず、解雇に先だってこのような可能性について具体的な検討がなされた事実は認められない。
その他に、Y社の経営上必要な人員削減の内容について、経営の見通しに関する数値等を根拠とした具体的な検討がなされた形跡は証拠上認められない
また、Y社は、解雇通告と同時に、Xら従業員に対して何ら具体的取り決めのないワークシェアリングの提示をしたが、ワークシェアリングの内容に関する具体的な検討や交渉が行われたものとは認められない。また、ワークシェアリングの提示は、解雇通告と同時ないしその後に行われており、本件解雇に先だって検討されたものとは認められない

4 被解雇者選定基準の妥当性については、Y社が重視したとする協調性や体力という点について、基本的には面接におけるやり取りに基づいて評価されているが、これらの資質は面接における短時間のやり取りの中で容易に判断し得るものではなく、その他客観的な資料が用いられたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、恣意的な判断が介在する余地があったものといわざるを得ず、その判断が客観的な基準に基づいて適正になされたものとは認められない

5 手続の妥当性については、経営状況等について説明会を開催したり、書面を示して説明するなどして人員削減の必要性等につきXら従業員の理解を得ようとした事実は認められない

6 ・・・Xが一貫してY社への復帰を求めていたのは当裁判所に顕著な事実であるところ、その間の生活を維持するためにXに一定の収入が必要であったことは明らかであるから、Xが新就労先に就職することは、XがY社への復帰を求めることと直ちに矛盾するものではない。

非常に参考になる裁判例です。

6か月の期間の定めのある契約が黙示の更新により、期間の定めのない雇用契約となるかについて、裁判所は、肯定しています。

整理解雇の有効性に関する判断についても、その判断方法は参考にすべき点がとても多いですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介112 いい人生の生き方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます なでしこのみなさん、お疲れ様でした! 

明日からお盆休みです。お盆休みは、明日11日から13日までの3日間です。よろしくお願いいたします。
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←先日、静岡に進出した「一蘭」に行ってきました。

まだまだ混んでいますね。すごいですね。

いつまでこれが続くのでしょうね・・・。

おいしかったですが、博多で初めて食べたときのような感動はありませんでした。

今日は、午前中は、事務所で打合せです。午後から、異業種のみなさんと、静岡夏まつり夜店市でお店を出します

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
いい人生の生き方 (PHP新書)
いい人生の生き方 (PHP新書)

「いい人生」ってなんだろう・・・?

健康で、仕事もプライベートも充実していれば、まあ「いい人生」なんじゃないかな、と考えてしまいます。

普段、あまり考えたことがないテーマですね。

考える間もなく、毎日が過ぎていきます。

むしろ死ぬときに、人生を振り返って「ああ、いい人生だったな」と思えればそれでいいと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

仕事は、主体的に取り組めば楽しくなる。そのためには、与えられた仕事にプラスアルファの仕事を自主的に加えることである。
・・・上司の指示どおりのことしかやらなければ、それは上司の仕事にしかならない。また、その範囲でしかその人は成長しない。上司から10の指示があれば、12にして返すことを心がける。・・・仕事を単に与えられた仕事として、取り組んでいては面白くない。期待以上に仕上げようとして工夫すれば、間違いなく面白くなる。
」(123頁)

この言葉は、是非、うちの事務所のスタッフに贈りたいと思います。

手前味噌ですが、私の事務所のスタッフは、とても優秀です。 これは、本当に自信があります。

私一人ではたいした仕事はできませんが、スタッフとのチームプレイでは、あまり負ける気がしません。

さて、そんなスタッフに贈りたいのが今回のことばです。

是非、仕事を通じて、日々、向上してほしいと思います。

10の指示をした場合、10の仕事ができれば、問題はありません。

でも、そこには感動は生まれません。

「お!やるねー!そこに気付いたの!」という感動が生まれるのは、指示を超えた仕事をしたときです。

また、こんなことを書くと、「こちとら、エスパーじゃないのであしからず」なんてコメントをいただくかもしれませんね(笑)

個人的には、エスパー伊東じゃなくても、繊細な感覚を持って仕事をしていれば、指示を超えた仕事はできるものだと信じています。

実際、スタッフの仕事ぶりに感動を覚えることがときどきあります。

感動の仕事、待ってるぜ!!

みんなで感動の仕事をしていこうぜ!!

競業避止義務17(関東工業事件)

おはようございます

さて、今日は、退職後の秘密保持義務、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

関東工業事件(東京地裁平成24年3月13日・労経速2144号23頁)

【事案の概要】

X社は、主に廃プラスチックのリサイクルを業とする会社であり、仕入先から廃プラスチック等を仕入れ、これを工場で粉砕するなどした上で、海外に輸出するのを業としていた。

Bらは、X社との間で雇用契約を締結し、営業職として勤務していた。

Y社は、平成22年3月設立された会社であり、X社と同じく廃プラスチックのリサイクルを業としている。Y社の代表取締役はBである。

X社は、Bらに対し、秘密保持義務違反、競業避止義務違反等を理由として、不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却
→秘密保持義務違反、競業避止義務違反にはあたらない。

【判例のポイント】

1 使用者は、労働者に対し、就業規則ないし個別合意等により業務上の秘密の不正利用を禁ずることができるが、このような条項には多かれ少なかれ労働者の自由な行動を制約する側面があり、しかも本来、雇用契約上の拘束を受けないはずである退職後の行動を制約することからすれば、何をもって秘密事項というかについては、本来、就業規則ないし個別合意等により明確に定められることが望ましいというべきであるし、かつ、労働者の行為(とりわけ退職後の行為)を不当に制約することのないよう、その秘密事項の内容も、過度に広汎にわたらない合理的なものであることが求められるというべきである

2 本件において、何をもって業務上の秘密とするかについて、就業規則上も本件通知上も具体的に定めた規定は見当たらないところ、不正競争防止法上の「営業秘密」については、いわゆる(1)当該情報が秘密として管理されていること(秘密管理性)、(2)事業活動に有用な技術的又は営業上の情報であること(有用性)及び(3)公然と知られていないこと(非公知性)という3つの要件が必要であるとされている(同法2条6項)。就業規則や個別合意による企業秘密の不正利用の防止が、不正競争防止法とは関係なく、あるいは、同法による規制に上乗せしてなされるものであることにかんがみると、これらにより保護されるべき秘密情報については、必ずしも不正競争防止法上の「営業秘密」と同義に解する必要はないというべきである。しかし、他方で、当該規制により、労働者の行動を萎縮させるなどその正当な行為まで不当に制約することのないようにするには、その秘密情報の内容が客観的に明確にされている必要があり、この点で、当該情報が、当該企業において明確な形で秘密として管理されていることが最低限必要というべきであるし、また、「秘密」の本来的な語義からしても、未だ公然と知られていない情報であることは不可欠な要素であると考えられる。このような点からすれば、就業規則ないし個別合意により漏洩等が禁じられる秘密事項についても、少なくとも、上記秘密管理性及び非公知性の要件は必要であると解するのが相当である

3 これを本件についてみるに、X社が業務上の秘密として主張する廃プラスチックの仕入先に関する情報については、「秘」の印が押されたりして管理されるわけでもなく、当該情報にアクセスすることができる者が限定されているわけでもなく、従業員であれば誰でも閲覧できる状態にあったことは、当事者間に争いがない。したがって、X社において、これらの情報が秘密として管理されていなかったことは明白である。また、本件訴訟におけるX社の主張をみても、当初訴状の段階では単に「顧客情報」と主張していたのに対し、その後「客先ごとの取引の種類、仕入量、価格といった営業上の重要な情報」(第1準備書面)、「具体的な値決めについてのノウハウ、取引先の存在、取引先がどのような品を欲しがるか、取引の可能となる価格」(第2準備書面)とその内容は必ずしも一定せず、このような主張内容が変転すること自体、X社においても、これらの情報の範囲を客観的に明らかな形で定義できていないことを示すものであって、これらが秘密として管理されていないことを示すということができる。
このように、X社主張にかかる情報は、秘密管理性の要件を充たさないものであるから、これが就業規則及び本件機密保持契約で保護されるべき秘密情報に当たると解する余地はないというべきである。

4 X社は、Bらが、X社を退職した後直ちにY社を設立ないし入社しているもので、就業規則59条2項に反する旨主張する。
このような就業規則や労使間の個別合意により、雇用契約関係終了後の労働者の職業選択の自由を制約できるかについては疑義もあるところであるが、労働者は、使用者の有する営業機密を使用してその業務を遂行したり、業務遂行の過程で営業機密を知ることもあるから、そのような場合には一定の範囲、期間内において退職後の労働者の競業を禁止することが正当化される場合もあり得る。しかし、他方で、労働者の立場からすれば、本来、退職後の職業選択に関し制約を受けるべき理由がないにもかかわらず、
使用者の利益確保のためにこれを制約されることを意味するものであるから、上記のような就業規則の競業避止条項や合意による競業避止特約が有効と認められるためには、使用者が確保しようとする利益に照らして、競業禁止の内容が必要最小限度に止まっており、かつ、十分な代償措置が施されることが必要であると解される。そして、そのような条件を満たさない場合には、上記条項ないし制約は、労働者の権利を一方的かつ不当に制約するもので公序良俗に反するとして、民法90条により無効となると解される

5 本件においては、Bらは、X社での業務遂行過程において、業務上の秘密を使用する立場にあったわけではないから、そもそも競業を禁ずべき前提条件を欠くものであるし、X社は、Bらに対し、何らの代償措置も講じていないのであるから、上記競業避止条項ないし特約は、民法90条により無効と認めざるを得ない。
したがって、Bらの競業避止義務違反をいうX社の主張については理由がない。

非常に参考になる裁判例ですね。

この分野は、原告側の会社は結構ハードルが高いので、注意が必要です。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

本の紹介111 仕事のアマ 仕事のプロ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます 男子サッカー、残念でしたね 3位決定戦、がんばってほしいですね。
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←先日、鷹匠の「水塩土菜」にお昼ごはんを食べに行きました。

いい値段をとります。

今日は、午前中は、事務所で打合せです。

午後は、東京で会議です

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
仕事のアマ 仕事のプロ──頭ひとつ抜け出す人の思考法(祥伝社新書227)
仕事のアマ 仕事のプロ──頭ひとつ抜け出す人の思考法(祥伝社新書227)

「仕事のアマ」と「仕事のプロ」を対比させて、どのように考えるのがプロなのかということが書かれています。

著者によれば、一般的な会社の社員構成は、

5%の社員:仕事のプロ。会社を背負っている社員。

40%の社員:仕事のアマ。「5%社員」の予備軍。

55%の社員:その他の社員。ぶら下がり社員。

過半数が「ぶら下がり社員」なんですか・・・?

そういうもんですかね・・・。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

実際は、いま売れている商品がある時こそ、次世代を担う新商品の開発をしたり、いまとは違った販売戦略を検討したりするなど、成長を続けていくための努力を熱心に行なうべきなのですが、それを怠ってしまう。どうしても目の前の成功に経営陣も社員も浮かれてしまいがちです。
・・・ですから経営者は、会社がうまくいっている時ほど、注意しなくてはならないわけです。社内に危機感が失われている黄色信号を見逃してはいけません。それが顕著に現れるのが、社員の時間に対する意識です。始業時間、会議の集合時間、レポートの提出期限、こういったものがルーズになってくると危ない。すぐにでも社内の引き締め、意識のテコ入れを始めるタイミングです。
」(192頁)

うまくいっているときほど注意しなければいけないという感覚は、独立して自分で事務所を構えるようになってから、よくわかるようになりました。

うまくいっているときは、その状態を変えたくないという思いに駆られるのですが、その時点から、すべてが守りに入ってしまうのです。

成功しようと失敗しようと、すべてを吸収して、向上し続けることが、生きている意義だと考えています。

成功も失敗もなく、チャレンジし続けることが大切なんだと思います。

解雇77(日本航空運航乗務員解雇事件)

おはようございます。

さて、今日は、会社更生手続中の航空会社の運航乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空運航乗務員解雇事件(東京地裁平成24年3月29日・労経速2144号3頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Y社は、平成22年1月、会社更生手続開始の申立をした。

管財人は、更生手続開始決定後終結前に、Y社の就業規則所定の解雇事由(「企業整備等のため、やむをえず人員を整理するとき」)に該当するとして、Y社の運航乗務員である機長、副操縦士を整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 会社更生法上、労働契約は双方未履行双務契約として、管財人が解除又は履行を選択し得る(同法61条1項)が、管財人は、労働契約上の使用者としての地位を承継している以上、管財人の上記解除権は、解雇と性格づけられるところ、権利濫用法理(労働契約法16条)は、管財人が行った本件解雇についても当然に適用され、本件解雇は使用者の経営上ないし経済上の理由によって行われた解雇なのであるから、上記の解雇権濫用法理の適用に当たっては、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、解雇対象者の選定の合理性の有無及び程度、解雇手続の相当性等の当該整理解雇が信義則上許されない事情の有無及び程度という形で類型化された4つの要素を総合考慮して、解雇権濫用の有無を判断するのが相当であり、このことは当該更生手続が、いわゆる事前調整型(プレパッケージ型)の企業再建スキームとして利用されたものであるか否かにより結論を異にする根拠はないのであり、本件更生手続が機構の支援と会社更生手続を併用して事業廃止を回避した事前調整型企業再建スキームであることは結論を左右するものではない

2 Xは、平成22年12月時点で、Y社は更生計画を大きく上回る営業利益を計上している等から本件解雇は回避することは経営上十分可能であったと主張するが、本件解雇は更生計画の遂行(会社更生法209条1項)として行ったものであり、更生計画を上回る収益が発生したとしても、このような収益の発生を理由として、更生計画の内容となる人員削減の一部を行わないことはできない

3 Y社は、本件解雇に先立ち、平成20年10月に賃金の5%減額を行い、平成22年4月~同年12月の間に基準内賃金及び代表的な手当の各5%減額等を行い、これによりJALIの運航乗務員の平成22年度の賃金水準は平成17年度の75%の水準まで低下したこと、平成22年3月~8月の間、2度にわたり特別早期退職を募集して約374名の運航乗務員が応募したこと、同年9月~同年12月9日の間に、4度にわたり希望退職を募集して、稼働ベースで279名の運航乗務員が応募したこと、同月10日~同月27日の間に、希望退職を募集して、稼働ベースで12名の運航乗務員が募集したことから、Y社は本件解雇に先立ち、一定の解雇回避努力を行ったことが認められる

4 Y社は、平成22年9月29日~同年12月24日の間、運航乗務員を組合員とする日本航空乗員組合及び日本航空機長組合との間で、それぞれ13回の団体交渉・説明を行ったこと、本件解雇の対象者に対しても、所定退職金の他に、平均約350万円の特別退職金と所定解雇予告手当の趣旨も含む賃金5か月分の一時金を支給して、その不利益を緩和する措置を採ったことを併せ考慮すると、本件解雇の過程において、整理解雇が信義則上許されないとする事情は認められない

先日、紹介した日本航空(整理解雇)事件と同じ結論です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介110 武器としての交渉思考(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます また一週間が始まりました。今週も一週間がんばっていきましょう!

今日で、34歳になりました さらにパワーアップしていきたいと思います。
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←先日、久しぶりに、「昭和ホルモン」に行きました

ここに行くと必ず唐揚げではなく「ガラ揚げ」を注文してしまいます。

てんこ盛りで出てきますが、あまり食べるところはありません(笑)

今日は、午前中、島田の裁判所で交通事故の民事調停が入っています

午後は、静岡で離婚調停です。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
武器としての交渉思考 (星海社新書)
武器としての交渉思考 (星海社新書)

以前、紹介をした「武器としての決断思考」の著者の本です。

「武器として」シリーズ第2弾ですね。

交渉において頭に入れておくべき考え方がまとまっており、参考になります。

日頃、私たち弁護士が、交渉時に、意識的、無意識的に行っていることが体系化されており、興味深かったです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『初めにロマンありき』 『ソロバンなくしてロマンの実現なし』
これは、大きな仕事を成し遂げたいと思うならば、常に念頭に置いておくべき事柄です。世の中には『良いことを言っているのにあまり世の中に影響を与えていない』『理念は立派だけれど、やっていることは大したことがない』という会社組織やNPOがたくさんあります。そういうダメ会社やダメNPOのほとんどは、このロマンとソロバンが両立していません。・・・世の中を大きく変えたいと思うならば、きちんとソロバンの計算をしながら、大きなロマンをずっと持ち続ける、その両方が必要となるわけです。
」(71~73頁)

若いうちは、「ロマン」ばかりが先行してしまいがちですよね。

だけど、「ソロバン」の計算をしておかなければ、長続きはしません。

「ロマン」を持つことは、実はそれほど難しいことではありません。

「ロマン」で飯を食うことが難しいのです。

ここを考えることこそが、「ロマン」を実現する大きな鍵になるのです。

配転・出向・転籍15(静岡県立病院機構事件)

おはようございます。

さて、今日は、病院の新生児科科長に対する配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

静岡県立病院機構事件(静岡地裁平成24年1月13日・労経速2136号11頁)

【事案の概要】

Y社は、一般医療機関では診断・治療の困難な小児患者を静岡県内全域より紹介予約制で受け入れる高度専門病院である。

Xは、平成4年からY社新生児科において勤務し、その後、新生児科科長として、NICUを初めとする新生児科のベッドをコントロールしてきた。

静岡県知事は、平成21年3月、Xに対し、静岡県立総合病院臨床医療部女性・小児センター新生児科主任医長への配転を内示し、Y社は、これを受け、Xに対し、同職への配転命令を発した。

Xは、本件配転命令以後、めまい等の症状で自宅静養し、反応性うつ状態と診断された。

Xは、その後、総合病院において勤務しないまま、Y社を退職する届けを提出した。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

【判例のポイント】

1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転命令は権利の濫用になるものではないというべきである。

2 ・・・これらの点に照らすと、Xは、こども病院が地域の病院で対応できない患者をその紹介により扱う高度専門病院でありながら、地域の病院と信頼関係を築くことができず、また、患者の受入数において、順天堂病院や聖隷浜松病院と比較して十分でない面があり、Xのベッドコントロールが適切で高度専門病院としての機能を十分に果たしていたか疑問があるとともに、こども病院内においても他科や新生児科の看護師らと十分な意思疎通を図れていないことがうかがえるのであるから、Xを新生児科科長から配転する業務上の必要性があったものと認めるのが相当である。そして、Xの配転先である総合病院における分娩数は年間400件ないし500件を超えるもので、産科医師も4人ないし6人というのであるから、Xが主任医長としてその能力を発揮できる職場であり、本件配転命令が他の不当な動機・目的でされたとは認めがたい。また、本件配転命令によりXは転居が必要となるものではないし、本件配転命令の前後でXの労働条件に特段の差異はないのであるから、本件配転命令が労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものということはできない。
したがって、本件配転命令が権利の濫用であり、違法であるということはできない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件配転命令に係る損害賠償請求は理由がない

3 なお、Xは、Dが本件配転命令について事前に全く説明しておらず、適正な手段を経ていないと主張するが、本件は配転命令について個別にXの同意を得なければならないものでないことは前記のとおりであるし、Dは本件配転命令前に新生児科科長としてのXの問題点について度々注意を与えていたのであるから、Xの上記主張は採用することができない。

地元静岡の裁判例です。

裁判所は、Xが本件配転により被る不利益は、通常甘受すべき程度を著しく超えるものではないと評価しています。

また、これまでの経緯から、不当な動機目的も認められないとしています。

どのような点を考慮して、配転命令の有効性を判断しているか、を研究すると、何が重要なのかがだんだんわかってきます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。