Daily Archives: 2012年8月16日

解雇79(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、データ通信サービス会社社員3名に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年2月29日・労判1048号45頁)

【事案の概要】

Y社は、データ通信サービス、テレコムサービス事業を行う、従業員数約100名(整理解雇前)の会社である。

Y社は、業績の悪化から、法人営業の拠点であった西日本支社を閉鎖するとともに、直ちに利益を生まないプロダクトマーケティング部と指定事業者準備プロジェクトを廃止することを決定し、廃止される部門の人員を主たる対象として、連結ベースで約50名、単体で32名に対して退職勧奨を行ったが、Xらはこれに応じなかった。

そこで、Y社は、Xらを整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 そもそも企業が、その特定の事業部門の閉鎖・廃止を決定することは、本来当該企業の専権に属する企業経営上の事項であって、これを自由に行い得るものというべきであるが、これを自由に行い得るものというべきであるが、ただ、このことは、上記決定の実施に伴い企業が使用者として当該部門の従業員に対して自由に解雇を行い得ることを当然に意味するものではない。わが国の労働関係が、いわゆる終身雇用制を原則的な形態として形成されたものであることは紛れもない事実ではあるが、そうした終身雇用制を前提とするか否かにかかわらず、労働者は、雇用関係が将来にわたって安定的に継続するものであることを前提として、自らの生活のあり方を決定するのが通例であるところ、整理解雇は、労働者に何ら落ち度がないにもかかわらず、使用者側の経済的な理由により、一方的に労働者の生活手段を奪い、あるいは従来より不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせるものであって、これを無制限に認めたのでは著しく信義に反する結果を招きかねないばかりか、労働者の生活に与える影響は深刻である

2 ・・・このように考えるならば、本件整理解雇の効力を判断するに当たっては、同解雇が、労使間の包括的な利益衡量により、就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある場合」に該当するか否かを判定する必要があるところ、整理解雇は、その特性等からみて、使用者は他の解雇にもまして労働者の雇用の維持をに努め、可能な限り、その不利益を防止すべき義務を負っているものというべきであり、そうだとすると上記判断には、いわゆる比例原則が妥当し、整理解雇(余剰人員の削減)という手段とその目的との間の「適合性」(整理解雇が期待された会社経営上の成果の実現を促進するか。適合性の原則)、「必要性」(整理解雇が目的を達成する上で最終的な手段か。必要性の原則)及び「適切性」(整理解雇が目的との関係で適切な均衡を保っているか。適切性の原則)の各観点からの検討が不可欠である。

3 そうだとすると、上記就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」ものといい得るためには、上記適合性の原則に基づくものとして(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(要素(1)=整理解雇の必要性)、上記必要性及び適切性の原則に基づくものとして(2)使用者は人員の整理という目的を達成するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(要素(2)=解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(要素(3)=被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきものと解するのが相当である。

4 なお、整理解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったときはもとより、そのような約款等が存在しない場合であっても、当該整理解雇がその手続上信義に反するような方法等により実行され、労契法16条の「社会通念上相当であると認められない場合」に該当するときは解雇権を濫用したものとして、当該整理解雇の効力は否定されるものと解されるが、これらは整理解雇の効力の発生を妨げる事由(再抗弁)であって、その事由の有無は、上記就業規則64条3号所定の解雇事由が認められた上で検討されるべきものであり、上記就業規則所定の解雇事由=「客観的に合理的な事由」(抗弁)の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはなり得ないものというべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。