おはようございます。
さて、今日は、病院の新生児科科長に対する配転命令に関する裁判例を見てみましょう。
静岡県立病院機構事件(静岡地裁平成24年1月13日・労経速2136号11頁)
【事案の概要】
Y社は、一般医療機関では診断・治療の困難な小児患者を静岡県内全域より紹介予約制で受け入れる高度専門病院である。
Xは、平成4年からY社新生児科において勤務し、その後、新生児科科長として、NICUを初めとする新生児科のベッドをコントロールしてきた。
静岡県知事は、平成21年3月、Xに対し、静岡県立総合病院臨床医療部女性・小児センター新生児科主任医長への配転を内示し、Y社は、これを受け、Xに対し、同職への配転命令を発した。
Xは、本件配転命令以後、めまい等の症状で自宅静養し、反応性うつ状態と診断された。
Xは、その後、総合病院において勤務しないまま、Y社を退職する届けを提出した。
【裁判所の判断】
配転命令は有効
【判例のポイント】
1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転命令は権利の濫用になるものではないというべきである。
2 ・・・これらの点に照らすと、Xは、こども病院が地域の病院で対応できない患者をその紹介により扱う高度専門病院でありながら、地域の病院と信頼関係を築くことができず、また、患者の受入数において、順天堂病院や聖隷浜松病院と比較して十分でない面があり、Xのベッドコントロールが適切で高度専門病院としての機能を十分に果たしていたか疑問があるとともに、こども病院内においても他科や新生児科の看護師らと十分な意思疎通を図れていないことがうかがえるのであるから、Xを新生児科科長から配転する業務上の必要性があったものと認めるのが相当である。そして、Xの配転先である総合病院における分娩数は年間400件ないし500件を超えるもので、産科医師も4人ないし6人というのであるから、Xが主任医長としてその能力を発揮できる職場であり、本件配転命令が他の不当な動機・目的でされたとは認めがたい。また、本件配転命令によりXは転居が必要となるものではないし、本件配転命令の前後でXの労働条件に特段の差異はないのであるから、本件配転命令が労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものということはできない。
したがって、本件配転命令が権利の濫用であり、違法であるということはできない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件配転命令に係る損害賠償請求は理由がない。
3 なお、Xは、Dが本件配転命令について事前に全く説明しておらず、適正な手段を経ていないと主張するが、本件は配転命令について個別にXの同意を得なければならないものでないことは前記のとおりであるし、Dは本件配転命令前に新生児科科長としてのXの問題点について度々注意を与えていたのであるから、Xの上記主張は採用することができない。
地元静岡の裁判例です。
裁判所は、Xが本件配転により被る不利益は、通常甘受すべき程度を著しく超えるものではないと評価しています。
また、これまでの経緯から、不当な動機目的も認められないとしています。
どのような点を考慮して、配転命令の有効性を判断しているか、を研究すると、何が重要なのかがだんだんわかってきます。
実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。