おはようございます。
さて、今日は、休職命令・休職延長命令の有効性と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。
クレディ・スイス証券(休職命令)事件(東京地裁平成24年1月23日・労判1047号74頁)
【事案の概要】
Y社は、総合的に証券・投資銀行業務を展開している会社である。
Xは、大学卒業後、複数の証券会社勤務を経て、平成16年、Y社に入社した。
Y社は、平成21年当時、通常の営業活動に基づく経営資源の投入コストを前提とした場合、コア・アカウント(重要顧客)のY社に対する評価が5位以内であれば、損益分岐ラインを十分に超える売上手数料を稼ぐことができ、収益を維持することができるものと考えていたため、Y社は、全コア・アカウントのY社に対する評価を5位以内にすることを、株式営業部の営業担当の必達の目標として設定し、全営業担当者に対し周知した。
同年5月、株式本部長Aは、平成21年度第1四半期のXが担当する4つのコア・アカウントのうちの2つのランキングが6位であったことから、Xに対して、役職に求められる成果が発揮できない場合に、改善すべき点を示した警告書を交付し、人事部を交えてそのパフォーマンスの改善を定期的に進捗確認し、必要に応じて指導を行うための業務改善命令を発令することとし、これを伝えるためにXと面談のうえ、人事部のBヴァイスプレジデントを通じて、Xに対して警告文を手渡した。
また、A本部長は、Xに対し、業務改善プロセス下で改善に至らず同じ結果に至のであれば、退職して別の道を進むという選択肢もあるのではないかと告げ、同席していたBヴァイスプレジデントが、Xに対し、一般的な退職手続について説明した。
これに納得しなかったXは、Y社内に入るためのアクセスカードを返却したうえで帰宅した。
Xは、弁護士を通じて、Y社に対し、復職を求めた後、交渉がなされたが、合意に至らず、Y社はXに対し、平成22年6月、解雇する旨を通知した。
解雇理由は、Y社の就業規則所定の「従業員の労働能力が著しく低下し、又は勤務成績が不良で改善の見込みなく就業に適さないと会社が認めたとき」に準ずるやむを得ない事由であった。
【裁判所の判断】
休職命令・休職延長命令は無効
解雇は無効
Y社に対して慰謝料100万円の支払を命じた
【判例のポイント】
1 本件休職命令が、その期間、原則として無給扱いとなり、勤続年数に通算されないという不利益が労働者側にあることに照らすと、Y社の就業規則の規定は、Y社に対し、無制限の自由裁量による休職命令権を付与したものと解することはできず、合理性が認められないような場合には、当該命令は無効である。
2 本件業務改善プロセス期間における一連のY社の対応がパワーハラスメントに当たるとのXの見解が一方的で事実無根であると評価することはできず、Xの同見解に基づく留保付きの職場復帰命令に従う旨の意思表示は、職場復帰命令が、就業規則の合理的な規定に基づく命令である限りという留保であって、パワーハラスメントに関する見解の相違問題とは切り離して、職場復帰問題を解決しようとするX側の姿勢をみて取ることができるので、このようなX側の態度をもって、実質的な職場復帰命令の拒否に該当するものと評価することはできないことから、本件休職命令・本件休職延長命令は無効である。
3 Xは、本件警告書の交付時点で平成21年代2四半期の評価期間が50日程度残っていた他の顧客については、評価が上昇し、5位必達の目標を達成することができていることに照らすと、4社のうち1社の同四半期におけるY社に対する評価が低いことをもって本件解雇の理由とすることは、改善可能性に関する将来的予測を的確に考慮した解雇理由であるということができず、合理性を欠く。
4 賞与請求権は、使用者が労働者に対する賞与額を決定して初めて具体的な権利として発生するものと解するのが相当であり、本件の賞与に関する定めは、極めて一般的抽象的な規定にとどまるものであるといわざるを得ず、個別具体的な算定方法、支給額、支給条件が明確に定められ、これらが労働契約の内容(Y社の債務)になっているものとは認められず、また、前記の賞与の定め方や、これまでのXに対する支給額の変動の激しさに照らすと、X主張のような賞与に対する期待が法的に保護されたものと認めることはできない。
5 Xのメールアドレスを抹消したことや、Xが長期休職するとの通知を顧客にしたこと、Xを解雇したとの告知を他の従業員にしたことについては、特に、Xが、本件業務改善プロセスに基づき2回目の面談から程なくして代理人を選任し、Y社と復職交渉をするに至っていることに照らすと、もう少し穏便な対応策やアナウンスの仕方があったと思われるのであり、その限りにおいて、違法性を有することから、Xは、上記認定の限りにおいて、精神的苦痛を被ったとして、慰謝料として100万円が相当である。
休職命令の合理性の判断は、とても難しいです。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。