おはようございます。
さて、今日は、増務割当差別に対する不当労働行為の成否と救済方法に関する裁判例を見てみましょう。
東急バス事件(東京地裁平成24年1月27日・労判1047号27頁)
【事案の概要】
X組合およびその組合員13名は、Y社が残業扱いとなる乗務(増務)の割当てに当たって、平成17年3月以降の期間につき、他の従業員との間で差別があり、労組法7条所定の不利益取扱いおよび支配介入に当たるとして、労働委員会に対し救済命令の申立てを行った。
これを受けて、都労委は、Y社に対し救済命令を発した。
Y社は、これを不服として、中央労働委員会に再審査を申し立てた。
中労委は、一部内容を変更した上で、救済命令を発した。
Y社は、本件中労委命令取消しを求めた提訴した。
【裁判所の判断】
増務割当差別は不当労働行為にあたる
【判例のポイント】
1 本件中労委命令は、組合員らに対する差別的取扱いの禁止を命じた本件初審命令を維持したが、初審命令後も同様の差別的取扱いが継続していること等にかんがみれば、改めて差別的取扱いの禁止を命じる高度の必要性が認められるから、かかる救済方法を定めること自体に裁量の逸脱・濫用があると認めることはできない。
2 Y社は、本件中労委命令における差別取扱いの禁止命令は、極めて抽象的かつ不明確な命令であり、救済命令としての特定を欠くものであって、このような救済命令を発することは違法であると主張する。
しかし、先になされた不当労働行為が単なる一回性のものでなく、将来再び繰り返されるおそれが多分にあると認められる場合においては、不当労働行為制度の目的に照らし、その予想される将来の不当労働行為が、過去の不当労働行為と同種若しくは類似のものである限り、労働委員会はあらかじめこれを禁止する不作為命令を発することを妨げないと解するのが相当である(最高裁昭和37年10月9日判決、最高裁昭和47年12月26日判決)。本件においては、Y社が同種の不当労働行為を継続しており、今後も同じ増務割当差別が繰り返されるおそれが多分にあると認められるから、かかる不作為命令を発することは何ら妨げられないというべきである。
3 その不作為命令の特定性の程度については、それが罰則で強制されるものである以上、ある程度具体的に示されるべきであるが、これをあまり厳格に要求することは、将来の不当労働行為の予防という観点に照らし合目的的とはいえないことから、この点については、労働委員会に相当の裁量があるものというべきである。本件においては、X組合員らを他の乗務員と増務割当てに関して差別して取り扱ってはならないことは、通常人においても理解可能な内容であるといえるし、Y社において、勤務交番表その他の増務割当時における取扱いの合理性を確保し、各組合の増務時間数の相当程度の均衡が保たれているかを適宜確認して必要な調整を行えば、同主文の履行は可能であることからすれば、本件差別禁止条項における不作為命令の特定の程度は相当であり、この点で、本件中労委命令が、労働委員会に与えられた裁量を逸脱・濫用していると認めることはできない。
4 不当労働行為審査手続は、処分権主義を採用する民事訴訟手続とは異なり、職権再審査制度もおかれていること(労働委員会規則52条)、さらに不当労働行為審査手続の審査の対象は、不当労働行為の存否であって、申立ての趣旨は、その救済方法の指定という意味を有することも考えると、再審査申立人の再審査申立ての趣旨に完全に拘束されるという意味での、厳格な処分権主義が採用されたと解することは相当でない。
不当労働行為に関する一般論について参考になる点がたくさんあります。
内容としては、本件増事割当差別が不当労働行為にあたることは明らかです。
組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。