解雇73(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年2月29日・労経速2141号9頁)

【事案の概要】

Y社は、JASRAQ上場会社で、データ通信サービス、テレコムサービス事業等を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員である。

Y社は、平成22年10月頃から、Xらを含む30数名の従業員に対し、個別に退職勧奨を行ったが、Xらは、これに応じなかった。

そこで、Y社は、就業規則64条3号に基づき、Xらを解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 就業規則にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」ものといい得るためには、(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(整理解雇の必要性)、(2)使用者は人員の整理という目的を達するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきと解するのが相当である。

2 人員の調整は、解雇以外の方法、配転・出向、一時帰休、採用停止、希望退職の募集、退職勧奨等によっても行うことができ、ここに解雇回避努力義務を尽くしたか否かという要素が問題になるところ、かかる使用者の解雇回避努力義務に対しては、上記比例原則のうち必要性の原則(最終の手段原理)が最もよく妥当し、使用者は、整理解雇を実施する以前において、当該人員整理の必要性の程度に応じて、客観的に期待可能なものであって、解雇よりも不利益性の少ない措置(解雇回避措置)をすべて行うべき義務を負っている

3 解雇回避努力義務は、単に一事業(プロジェクト)や事業部門に限定すべきではなく、企業組織全体を対象に(1)希望退職の募集や(2)配転・出向の可能性を検討するのが原則であるところ、Y社は、本件整理解雇(人員整理)の実行以前にY社組織全体を対象とした希望退職の募集や配転出向の可能性も検討していないが、これらはY社にとって受忍の限度を超えるものというべきことからすると、これらの点から、直ちにY社が解雇回避に向け社会通念上相当と評価し得る程度の営業上の努力を怠ったものということはできない

4 Y社は、Xらに対し、解雇回避措置の一環として可能な限り本件退職勧奨の対象者を絞り込むとともに、金銭面で有利な退職条件を提示することができるよう、社会通念上相当と認められる程度の費用捻出策等を講じるべき義務を負っていたものというべきところ、高額な役員報酬等のカット・削減分を原資として、本件退職勧奨の対象従業員を絞り込むとともに、金銭面で有利な退職条件を提示することができるよう一定の配慮を行った形跡は全く窺われず、本件退職勧奨において、100万円にも満たない程度の退職条件を示し、これに応じなかったXらに対して本件整理解雇を断行しているのであって、これではY社は、本件整理解雇手続において、社会通念上相当と認められる程度の費用捻出策を講じたものとはいえない

5 被解雇者選定の合理性は、被解雇者を選定するための整理基準の内容と基準の適用の2つの要素からなっているが、本件整理解雇においては、非採算部門に所属する従業員という極めて抽象的な整理基準が存在しただけであり、整理基準の合理性に関しても、本件退職勧奨に応じなかったXら3名を指名した上、その各人の個別具体的な事情に配慮することなく、本件整理解雇を断行したものということができ、被解雇者の選定手続きとしては余りに性急かつ画一的なものであって、慎重さに欠けるものといわざるをえず、本件整理解雇における被解雇者選定の合理性には疑問を挟む余地がある

6 本件整理解雇は、その必要性の程度こそかなり高いものということができるものの、解雇回避努力義務は十分に尽くされたものとはいい難く、また、被解雇者選定の合理性についてもやむなしとするほどの客観的かつ合理的な理由があるとは認められず、したがって、本件整理解雇は、就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」場合には当たらないものというべきであり、本件整理解雇は、労契法16条所定の「客観的に合理的な理由」を欠き、解雇権を濫用するものとして無効である。

3要素説ですね。 手続の適正については、考慮要素になっていません。

4要素説でも、手続面が不十分ということで整理解雇が無効になることはほとんどありません。

たいていは、解雇回避努力が足りないということで無効になります。

この裁判例は、総論部分(判例のポイント1)が充実しているので、参考になります。

また、被解雇者選定の難しさがわかります。 

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。