おはようございます。
さて、今日は、塾長に対する期間途中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。
学校法人東奥義塾事件(仙台高裁秋田支部平成24年1月25日・労判1046号22頁)
【事案の概要】
Y社は、学校法人であり、Xは、Y社が設置する高校の校長(塾長)であった。
Xは、塾長就任後、運営方針等に関してY社理事会とたびたび衝突した。
平成22年3月、Y社理事会において、Xを会食する旨の緊急動議が提出され、これが可決された。
これを受けて、Y社は、翌日、Xを解職する旨の通知をし、解雇予告手当を支払った。
Xは、Y社に対し、本件解職処分の理由を明らかにするよう求めたところ、Y社は、XがY社の理事会を非難し、高校、生徒および教員を誹謗し、寄附行為に違反した行動や塾長としての品位に欠ける行動をとることにより、高校内の秩序を乱したとの理由でXを解職した旨通知した。
【裁判所の判断】
解雇は無効
【判例のポイント】
1 法17条1項は、やむを得ない事由がある場合でなければ、期間の定めのある労働契約について、契約期間が満了するまでの間において解雇ができない旨規定する。同条が、解雇一般につき、客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性がない場合には解雇を無効とするとする法16条の文言をあえて使用していないことなどからすると、法17条1項にいうやむを得ない事由とは、客観的に合理的な理由及び社会通念上相当である事情に加えて、当該雇用を終了させざるを得ない特段の事情と解するのが相当である。
2 以上の諸点を総合的に検討すると、Xは、卒業祝賀会や平成22年3月の礼拝に際し、学校関係者への配慮を欠いた発言をしており、また、事業部が炭酸飲料の撤去に直ちに応じないのに対し、事業部の管理に係る自動販売機に無断で張り紙をするなど、やや乱暴で思慮に欠くというべき行動をとっており、校務をつかさどり、所属職員を監督する塾長としての見識が十分でない面があることは否定できない。
しかしながら、清涼飲料水の自動販売機などに張り紙を貼るなどした行為については、東奥義塾高校の生徒の健康を図る目的があり、卒業祝賀会における発言については、父兄の労苦をねぎらうなどの意図でなされたものと認められ、極めて不適切とはいえず、平成22年3月の言動は、Xが、東奥義塾高校から排除される懸念を抱いたことによりなされたものとも推測され、その後、実際に本件解職処分が行われたことも踏まえると、同様に極めて不適切とはいえない。そして、Xの塾長としての活動により、職員会議への職員の出席率が向上し、学生の態度に良好な変化があったと認められ、Xは、4年の任期の初年度において、すでに、塾長として一定の成果を出していたことに照らすと、Xが、塾長として、教職員らからの一定の信頼を得ていたと認められる。これに加え、Xには、そもそも管理職経験はおろか国内における一般的な教職経験もなかったものであり、乙山理事長をはじめとする理事会がこれを承知であえてXを塾長として採用したと認められるのであって、各理事、理事会においても、これを踏まえて、Xの経験不足の点を保管すべきであったと解されるところ、理事会がこれを全うしたとは認められない。
以上の諸事情を勘案すると、本件解職処分には、法17条1項にいうやむを得ない事由があったとは認め難い。したがって、その余の点を判断するまでもなく、本件解職処分は法17条1項により無効であり、Xは、Y社に対して、労働契約上の地位を有すると認められる。
総合考慮の結果、期間途中に解雇するやむを得ない事由までは存しないという判断です。
労働契約法16条と17条の比較については、他の裁判例でも同様の判断が示されていますね。
事実を根気強く主張し、視点を示すというのは、訴訟における弁護士の基本的な仕事ですが、本件でも、Xの各行為について、代理人がXに有利な視点を示せたことが勝訴につながったのだと思います。
有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。
事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。