おはようございます
さて、今日は、懲戒処分と雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。
北海道宅地建物取引業協会事件(札幌地裁平成23年12月14日・労判1046号85頁)
【事案の概要】
Y社は、宅地建物取引業法74条に基づき北海道知事の認可を受け設立された公益法人である。
Xは、平成22年4月、Y社の嘱託職員として採用された。また、Xは、税理士登録し、北海道税理士会に入会している。
Xは、平成22年6月、Y社代表者から出頭命令を受け、Y社本部へ出頭したところ、Y社役員数名から、本件税理士登録等が本件兼職禁止規定に反することを理由として税理士業を廃業するように求められたが、これを拒否した。
Y社は、平成23年2月、Xについて、雇用契約を更新しない旨を決議し、3月末をもって期間満了となる旨を通知した。
【裁判所の判断】
懲戒処分は無効
雇止めは無効
Y社はXに対して慰謝料10万円を支払え
【判例のポイント】
1 本件兼業禁止規定及び本件履歴書規定の文言の通常の意味に照らせば、本件税理士登録等が本件兼職禁止規定に該当し、また本件履歴書に本件税理士登録等を記載しなかったことが本件履歴書規定に違反すると解するにはいささか無理がある反面、本件処分に至る経緯において、Xに何らかの落ち度があるとは言い難い。・・・以上の事実に照らせば、本件処分は、Y社によるXに対する嫌がらせとして行われた側面があるといわざるを得ないから、Y社が本件処分を行ったことは、本件処分が無効である以上、Xに対する不法行為を構成するというべきである。そして、かかる不法行為によってXが被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は、本件処分がY社の懲戒処分における最も軽い戒告であること等本件に現れた一切の事情を考慮すれば、10万円が相当である。
2 本件嘱託細則3条1項において、「嘱託職員の委嘱契約期間は、原則として1年以内とし、業務の必要に応じて契約期間を更新するものとする。」と規定されていること、Y社は、本件雇止めが行われるまで、Xを除く嘱託職員を雇止めしたことはなかったこと、Xを含むY社における嘱託職員は、採用に際し、Y社との間で、本件契約書と同様の書式を用いた「嘱託職員雇用契約書」を作成していたこと、Y社は、嘱託職員との雇用契約の期間満了時において、契約更新のために同職員との間で上記「嘱託職員雇用契約書」を新たに作成するものの、他にY社内部において特段の手続は行われていなかったこと、Xは、Y社小樽支部において、会計処理、資料作成、資料送付及び電話応対等といった恒常的かつ常用的業務を担当していたこと並びに、Y社代表者自身、少なくともXが採用される前に採用されたY社の嘱託職員については、雇用期間の限定がないか、少なくとも雇用契約が更新されることが原則であるとの認識を有していたと認められることからすれば、本件契約による雇用継続に対するXの期待利益に合理性があるというべきである。
3 本件契約による雇用継続に対するXの期待利益に合理性がある以上、本件契約に解雇に関する法理を類推すべきである。そして、本件処分は無効であること、そもそも事務局業務の効率化の観点からY社小樽支部の嘱託職員を削除しようとする計画が存在したこと自体極めて疑わしいこと及びXの就業態度その他適格性等について、Y社は何ら具体的に主張立証しないことからすれば、本件雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないから、無効である。
4 雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する判決が確定した後に支払期が到来する賃金については、上記判決確定後もなお賃金の支払いがされない特段の事情のない限り、「あらかじめその請求をする必要がある」ということはできないところ、Xの本判決確定後に支払期が到来する賃金に係る訴えについては、上記特段の事情があることは窺われないから、将来請求の訴えの利益を欠くものとして不適法であるといわざるをえないから、これを却下する。
期待利益の合理性に関する事実認定は、勉強になりますね。
代理人としては、こういう事実をどれだけ取りこぼさずに主張できるかが大切ですね。
履歴書の問題は、今回のケースでは、それほど大きな問題ではないと判断されています。
有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。
事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。