Monthly Archives: 7月 2012

本の紹介108 ラクして成果が上がる理系的仕事術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。

ラクして成果が上がる理系的仕事術 (PHP新書)
ラクして成果が上がる理系的仕事術 (PHP新書)

少し前の本ですが、とてもいい本です。

京大大学院の火山学の教授が書いた本です。

火山とは全く関係のない「仕事術」の本ですが、薄っぺらい仕事術とは一線を画す内容となっています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

世の中の仕事の8割は、すでに存在する良質な内容を組みなおして、新しいレポートを作成することで通用する。たいていの新知見は、先人の蓄積の上に成り立っている。」(168頁)

最初からオリジナルな仕事をめざすのは危険でさえある。むしろコピーペーストに徹して、クリエイティブな作業を倦むことなく積み重ねることに集中したほうがよいのだ。部分部分で自分なりの新しいまとめを提示できるようになれば、それで十分である。・・・クリエイティブな仕事とは、極端なことをいえば、引用文献の多さに比例するといってもよいかもしれない。」(173~174頁)

これは、常に頭の中に入れておくべきことです。

仕事をする上でも、同じことが言えるのではないでしょうか。

私も、事務所のスタッフに対して、同じようなことをよく言います。

まず、「何を模倣するか」という点です。

模倣の対象が適切かどうかという観点です。

これがおかしいと、どれだけ忠実に模倣しても、結果としては、よくわからないことになってしまいます。

次に、「どのように模倣するか」という点です。

模倣の正確さの問題です。

中途半端に模倣すると、結果も中途半端になってしまいます。

「クリエイティブな仕事とは、極端なことをいえば、引用文献の多さに比例する」という切り口は、おもしろいですね。

確かに組み合わせの数が多ければ多いほど、クリエイティブに見えますよね。

質の問題を量の問題として捉えるという発想の転換ができるかどうかが鍵だと思います。

不当労働行為45(東急バス事件)

おはようございます。

さて、今日は、増務割当差別に対する不当労働行為の成否と救済方法に関する裁判例を見てみましょう。

東急バス事件(東京地裁平成24年1月27日・労判1047号27頁)

【事案の概要】

X組合およびその組合員13名は、Y社が残業扱いとなる乗務(増務)の割当てに当たって、平成17年3月以降の期間につき、他の従業員との間で差別があり、労組法7条所定の不利益取扱いおよび支配介入に当たるとして、労働委員会に対し救済命令の申立てを行った。

これを受けて、都労委は、Y社に対し救済命令を発した。

Y社は、これを不服として、中央労働委員会に再審査を申し立てた。

中労委は、一部内容を変更した上で、救済命令を発した。

Y社は、本件中労委命令取消しを求めた提訴した。

【裁判所の判断】

増務割当差別は不当労働行為にあたる

【判例のポイント】

1 本件中労委命令は、組合員らに対する差別的取扱いの禁止を命じた本件初審命令を維持したが、初審命令後も同様の差別的取扱いが継続していること等にかんがみれば、改めて差別的取扱いの禁止を命じる高度の必要性が認められるから、かかる救済方法を定めること自体に裁量の逸脱・濫用があると認めることはできない。

2 Y社は、本件中労委命令における差別取扱いの禁止命令は、極めて抽象的かつ不明確な命令であり、救済命令としての特定を欠くものであって、このような救済命令を発することは違法であると主張する。
しかし、先になされた不当労働行為が単なる一回性のものでなく、将来再び繰り返されるおそれが多分にあると認められる場合においては、不当労働行為制度の目的に照らし、その予想される将来の不当労働行為が、過去の不当労働行為と同種若しくは類似のものである限り、労働委員会はあらかじめこれを禁止する不作為命令を発することを妨げないと解するのが相当である(最高裁昭和37年10月9日判決、最高裁昭和47年12月26日判決)。本件においては、Y社が同種の不当労働行為を継続しており、今後も同じ増務割当差別が繰り返されるおそれが多分にあると認められるから、かかる不作為命令を発することは何ら妨げられないというべきである。

3 その不作為命令の特定性の程度については、それが罰則で強制されるものである以上、ある程度具体的に示されるべきであるが、これをあまり厳格に要求することは、将来の不当労働行為の予防という観点に照らし合目的的とはいえないことから、この点については、労働委員会に相当の裁量があるものというべきである。本件においては、X組合員らを他の乗務員と増務割当てに関して差別して取り扱ってはならないことは、通常人においても理解可能な内容であるといえるし、Y社において、勤務交番表その他の増務割当時における取扱いの合理性を確保し、各組合の増務時間数の相当程度の均衡が保たれているかを適宜確認して必要な調整を行えば、同主文の履行は可能であることからすれば、本件差別禁止条項における不作為命令の特定の程度は相当であり、この点で、本件中労委命令が、労働委員会に与えられた裁量を逸脱・濫用していると認めることはできない。

4 不当労働行為審査手続は、処分権主義を採用する民事訴訟手続とは異なり、職権再審査制度もおかれていること(労働委員会規則52条)、さらに不当労働行為審査手続の審査の対象は、不当労働行為の存否であって、申立ての趣旨は、その救済方法の指定という意味を有することも考えると、再審査申立人の再審査申立ての趣旨に完全に拘束されるという意味での、厳格な処分権主義が採用されたと解することは相当でない

不当労働行為に関する一般論について参考になる点がたくさんあります。

内容としては、本件増事割当差別が不当労働行為にあたることは明らかです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介107 「交渉上手」は生き上手(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今日で1週間も終わりですね。
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←先日、「焼肉食堂(卸)静岡食肉センター」に行ってきました。

活気があって、雰囲気のいいお店でした。 ホルモンが充実しているお店です。

今日は、午前中は、裁判が1件入っています。

午後は、浜松で裁判です その後、浜松で夜まで会議です。

明日は、ペガサートで特定社労士の先生方を対象としたセミナーです

お題は、「弁護士の視点+社労士の視点で考える労務トラブル実践的対処法」です。

ケーススタディで、実践的な対処法をみなさんと一緒に探っていきたいと思います。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
「交渉上手」は生き上手 (講談社プラスアルファ新書)
「交渉上手」は生き上手 (講談社プラスアルファ新書)

弁護士の久保利先生の本です。

いわゆる交渉術についての本ではありません。

タイトルのとおり、「交渉とは人生そのもの」ということを前提に、テクニックにとどまらない内容となっています。

2年程前に出版された本ですが、もう一度読んでみました。とてもいい本だと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・美空ひばりの名曲『柔』の一節、《勝つと思うな 思えば負けよ》が頭をよぎる。勝とう勝とうとするから、負ける。勝つことばかりに固執するからだ。逆に、本当にほしいと思ったら、ほしい素振りをするなということ。そういう意味で言うと、どうでもいいやと捨ててかかっている人が、いちばん強いということである。『金も名誉も生命さえもいらぬ』という人に勝つ方法を私は知らない。誰も知らないだろう。」(59頁)

勝つことばかりに固執すると、勝てなくなるという感覚はよくわかります。

何かに固執すると、柔軟性が失われてしまいます。

固執するというのは、言い方を変えると、「こだわる」というような感じでしょうかね。

「こだわる」「こだわりがある」というのは、一般的には、良い意味で使います。

しかし、あまりにも何かにこだわると、それは、「こだわり」ではなく、「かたくな」になってしまうように思うのは僕だけでしょうか。

「かたくな」は、漢字で「頑な」と書きます。

「頑固」の「頑」という字を使います。

この言葉、柔軟であることの対極にあるものではないでしょうか。

特定の主義や思想等に固執すると、頑固なまでに考え方を変えることができなくなってしまいます。

そうすると、もう思考の身動きみたいなものがとれなくなってしまう。

生きていくうえで、過度なこだわりは捨てたほうがいいんじゃないかな、と思っています。

解雇75(日本航空(整理解雇)事件)

おはようございます

さて、今日は、会社更生手続中の航空会社の客室乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(整理解雇)事件(東京地裁平成24年3月30日・労経速2143号3頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Y社の会社更生手続中である、平成22年12月、更生管財人は、Xらに対し解雇予告通知をしたが、その際の整理解雇対象者は客室乗務職108名であったが、その後希望退職の募集等を行い、最終的には、客室常務職員数は84名となった。

Xらは、更生管財人を被告として(会社更生手続終了後に被告が受継した)、本件解雇の無効を主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社は、会社更生手続下でされた本件解雇については、会社清算・破産手続下でされた整理解雇の場合と同様に、いわゆる整理解雇法理を機械的に適用すべきではないと主張する。
しかしながら、(1)会社更生手続は、窮境にある株式会社について、更生計画を策定するなどして、債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする再建型の倒産処理手続であり、更生手続開始の決定時点で破綻した更生会社を観念的に清算する手続であるとはいっても、清算型の倒産処理手続である会社清算・破産手続とは異なり、事業の継続を前提としており、直ちに労働社の就労が拒否されるわけではないこと、(2)清算型の倒産処理手続下において労働者を解雇する場合であっても、当該解雇には解雇制限規定(労働基準法19条)及び解雇予告規定(同法20条)の適用があると解される上、会社更生手続や民事再生手続のような再建型の倒産処理手続においては、労働社の労働基本権に配慮する趣旨で、更生管財人が労働協約を解除することができない旨の特則(会社更生法61条3項、民事再生法49条3項)が置かれていること、(3)(2)と同様の趣旨で、労働契約は、継続的給付を目的とする双務契約であるにもかかわらず、反対給付不履行の場合の履行拒絶禁止規定が適用されない旨の特則(会社更生法62条3項、民事再生法50条3項)が置かれていることに鑑みると、会社更生手続下でされた整理解雇については、労働契約法16条(解雇権濫用法理)の派生法理と位置付けるべき整理解雇法理の適用があると解するのが相当である。もっとも、整理解雇法理適用の要件を検討するに当たっては、解雇の必要性の判断において使用者である更生会社の破綻の事実が、重要な要素として考慮されると解すべきである

2 本件解雇の効力を判断するに当たっても、本件解雇にいわゆる整理解雇法理の適用があるとの前提で、以下、(1)人員削減の必要性の有無、程度、(2)解雇回避措置の有無、程度(解雇回避措置実施の有無、内容等)、(3)人選の合理性の有無(本件人選基準の合理性等)、(4)解雇手続の相当性(労使交渉の経緯、不当労働行為性等も含む。)を具体的に検討し、これらを総合考慮するのが相当である。

3 整理解雇による被解雇者(本件Xらを含む客室乗務職及び運航常務職ら約160名)を残すことが経営上不可能ではなかった旨の当時のY社の代表取締役会長の発言は、苦渋の決断としてやむなく整理解雇を選択せざるを得なかったことに対する主観的心情を吐露したにすぎないものと評価するのが相当であって、客観的状況に照らせば、会長の発言があったことをもって、人員削減の必要性を否定することはできない。

4 Y社は、再三にわたる希望退職措置の方法で任意の退職者を募集し、一連の希望退職措置においては、一旦倒産状態に陥った更生会社であるにもかかわらず、退職金の割増支給を含む非常に手厚い退職条件を提示した上、併せて、その当時、採用可能な各種の解雇回避措置を実施する等、Y社が本件解雇に先立ち行った解雇回避措置は、いずれも合理的なものであり、総合して破格の内容のものであるということができるから、Y社は、本件解雇に当たって十分な解雇回努力を尽くしたものと認めるのが相当である

5 本件解雇に当たって採用された本件人選基準((1)休職者基準、(2)病欠日数・休職日数基準、(3)人事考課基準、(4)年齢基準を併用し、(1)から(4)までを順に適用するもの)のうちの病欠日数・休職日数基準、年齢基準は、いずれも使用者であるY社の恣意の入る余地の少ない客観的なものであったし、人事考課基準についてはそもそも該当者がなく、休職者基準、病欠日数・休職日数基準については、過去の 病欠歴を基にY社に対する将来の貢献度を推定する基準として合理的であるということができるし、年齢基準についても、若年層に厚い人員構成への転換を図るべく、Y社に対する将来の貢献度とともに、解雇対象者の被害度を客観的に考慮した結果として設定されたものであって、合理性があるものと評価される。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介106 自分の中に毒を持て(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか (青春文庫)
自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか (青春文庫)

1993年に出版された本です。

岡本太郎さんが亡くなられたのが1996年ですから、亡くなる3年前に出されたものです。

タイトルと表紙の写真がまたいいですね。

岡本太郎さんの考え方がこの本全体ににじみ出ています。

とにかく発想が個性的です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自由に、明朗に、あたりを気にしないで、のびのびと発言し、行動する。それは確かにむずかしい。苦痛だが、苦痛であればあるほど、たくましく挑み、乗りこえ、自己をうち出さなければならない。若い時こそそれが大切だ。この時代に決意しなければ、一生、生命はひらかないだろう。
挑みつづけても、世の中は変わらない。しかし、世の中は変わらなくても自分自身は変わる。世の中が変わらないからといって、それでガックリしちゃって、ダラッと妥協したら、これはもう絶望的になってしまう。そうなったら、この世の中がもっともっとつまらなくみえてくるだろう。
だから、闘わなければいけない。闘いつづけることが、生きがいなんだ。
」(124頁)

岡本太郎さんらしいアドバイスです。

「闘いつづけることが、生きがいなんだ」。 いい言葉ですね。

同感です。

何と闘うか。 闘う対象は、常識であったり、固定観念だったりするんだと思います。

多くの人が、忙しい毎日を過ごしていて、新しいことにチャレンジしなくても、まあ、なんとかなっているし、そもそもチャレンジする時間的・精神的余裕がないのではないでしょうか。

闘いつづけるためには、意識的に新しいことにチャレンジする時間的・精神的余裕をつくりださなければいけませんね。

スケジューリングや仕事のやり方をもっともっと工夫しなければいけないんでしょうね。

退職勧奨7(日本アイ・ビー・エム(退職勧奨)事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。

日本アイ・ビー・エム事件(東京地裁平成23年12月28日・労経速2133号3頁)

【事案の概要】

Y社は、企業体質強化を目的とし、退職者支援プログラムを用意しつつ、一定層の従業員をターゲットにして、全社的に退職勧奨を実施した。

Y社は、平成20年10月頃から、Xらに対する退職勧奨ないし業績改善のための2回ないし7回にわたる面談を行った。

Xら4名の従業員は、Y社が行った退職勧奨が違法な退職強要に当たるとして、Y社に対して不法行為による損害賠償請求を行った。

【裁判所の判断】

請求棄却
→本件退職勧奨は違法ではない。

【判例のポイント】

1 退職勧奨は、勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが、これに応じるか否かは対象された労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。したがって、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて、当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず、そのようなことがされた退職勧奨行為は不法行為を構成する

2 本件において、業績不振の社員が、退職勧奨に対して消極的な意思表示をした場合、それらの中には、これまで通りのやり方で現在の業務に従事しつつ大企業ゆえの高い待遇と恩恵を受け続けることに執着するあまり、業績に係る自分の置かれた位置づけを十分に認識せずにいたり、業務改善を求められる相当程度の精神的重圧(高額の報酬を受ける社員であれば、なおさら、今後の更なる業績向上、相当程度の業務貢献を求められることは当然避けられないし、業績不良により上司・同僚に甚だ迷惑をかけている場合には、それを極力少なくするよう反省と改善を強く求められるのも当然である。)から解放されることに加えて、充実した退職支援を受けられることの利点を十分に検討し又は熟慮したりしないまま、上記のような拒否回答をする者が存在する可能性は否定できない。また、Y社は、充実した退職者支援策を講じていると認められ、また、当該社員による退職勧奨拒否が真摯な検討に基づいてなされたのかどうか、退職者支援が有効な動機付けとならない理由は何かを知ることは、Y社にとって、重大な関心事となることは否定できないのであり、このことについて質問する等して聴取することを制約すべき合理的根拠はない

3 そうすると、退職勧奨対象社員が消極的な意思を表明した場合でも、Y社に在籍し続けた場合におけるデメリット、退職した場合におけるメリットについて、更に具体的かつ丁寧に説明又は説得活動をし、また、真摯に検討してもらえたのかどうかのやり取りや意向聴取をし、退職勧奨に応ずるか否かにつき再検討を求めたり、翻意を促したりすることは、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でなされたものでない限り、当然に許容されるものと解するのが相当であり、たとえ、その過程において、いわば会社の戦力外と告知された当該社員が衝撃を受けたり、不快感や苛立ち等を感じたりして精神的に平静でいられないことがあったとしても、それをもって、直ちに違法となるものではない。したがって、当該社員が退職勧奨のための面談には応じられないことをはっきりと明確に表明し、かつ、Y社(当該社員の上司)に対してその旨確実に認識させた段階で、初めて、Y社によるそれ以降の退職勧奨のための説明ないし説得活動について、任意の退職意思を形成させるための手段として、社会通念上相当な範囲を逸脱した違法なものと評価されることがあり得る、というにとどまる

4 以上に基づき検討すると、Y社がした退職勧奨には違法があるとは認められない。また、Y社がした業績評価及びそれに基づく面談における説明等についても、業績評価に係る裁量権の濫用又は逸脱の違法があるとは認められず、面談における説明等の方法や態様につき社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するような違法があるとも認められない。

退職勧奨が有効と認められています。

この裁判例によれば、退職勧奨が違法となるには、前提として、従業員が退職勧奨のための面談には応じられないことを「明確に」表明することが求められています。

退職勧奨に関して「消極的な意思表示」をしているだけの場合に、翻意を促すことは許容されるとのことです。

退職勧奨の際は、顧問弁護士に相談しながら慎重に進めることが大切です。

本の紹介105 近代文明はなぜ限界なのか(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
近代文明はなぜ限界なのか (PHP文庫)
近代文明はなぜ限界なのか (PHP文庫)

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

稲盛さんと梅原さんが、人類の今後について熱く語っている本です。

お二人曰く、人類の崩壊が始まったそうです。

「欲望の無限解放」という近代文明の反省、「進歩」から「循環」への思想の転換など、今後の人類の生存のために、いくつかの視点を与えてくれています。

稲盛 西郷隆盛(南州)は、まさに無私を貫いた人です。『己を愛するはよからぬことの第一なり』と述べていて、私もリーダー論を説くとき、『自分をいちばん大事にし、自分ばかりかわいがる人はリーダーとして失格であり、部下にとってたいへん不幸である』ということをつねに第一に述べています。リーダーは自分を犠牲にしても、組織のため、部下のために働ける人でなければなりません。それが大原則です。」(220~221頁)

この本の題名からは少しそれる内容ですが、稲盛さんがリーダー論について語っている部分です。

リーダーは「自分を犠牲にしても、組織のため、部下のために働ける人」でなければならないと言っています。

また、「無私」という言葉を使っていますね。

自分のことを最優先し、組織や部下のことを後回しにするような人は、リーダーに向いていないということです。

世の中には、多くのリーダーがいますが、稲盛さんが言うところの「リーダー」である人は、そのうち、どのくらいいるのでしょうか。

今以上に本物の「リーダー」を目指して、ステップアップしていきたいと思います。

まわりに多くのお手本となる社長がいるということは、とても幸せなことです。

解雇74(学校法人尚美学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、前勤務先でのパワハラ等不告知を理由とする普通解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人尚美学園事件(東京地裁平成24年1月27日・労判1047号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y大学の教授である。

Xの経歴は、昭和50年、厚生省(当時)に入省し、その後、環境庁などを経て、平成15年8月、厚労省を辞職し、16年から財団法人A財団常務理事兼事務局長の職にあった。

Xは、Y大学に対し、以前に勤務先においてパワハラ及びセクハラを行ったとして問題にされたことを告知しなかったことなどを理由に、Y大学が、Xを解職(普通解雇)した。

Xは、転職の理由について、「役所の仕事がもう限界である」「理事会がないと辞めることができるかどうか分からない」と話したが、Y大学から、事件を起こしたことはないかとか、パワハラ・セクハラ等の問題はないか等の質問はなかった。

【裁判所の判断】

解雇は無効

慰謝料請求は否定

【判例のポイント】

1 ・・・しかしながら、採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は、その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。大学専任教員は、公人であって、豊かな人間性や品行方正さも求められ、社会の厳しい批判に耐え得る高度の適格性が求められるとのY社の主張は首肯できるところではあるが、採用の時点で、応募者がこのような人格識見を有するかどうかを審査するのは、採用する側である。それが大学教授の採用であっても、本件のように、告知すれば採用されないことなどが予測される事項について、告知を求められたり、質問されたりしなくとも、雇用契約締結過程における信義則上の義務として、自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない

2 Xは、転職の理由につき「役所の仕事がもう限界である。」と述べたことが認められるが、転職の理由は、その本質からして主観的であり、仮に客観的には辞職しなければ更に責任を追及されるような状況にあったとしても、これを虚偽と言い切ることは困難である。また、Xが「自分は辞めたいが平成18年2月か3月の理事会がないと辞めることができるかどうか分からない。」と述べたことについても、手続上の問題や業務上の必要性を述べたものと回することもできなくもなく、仮に客観的には既に辞職が決まっていたとしても、これを虚偽と言い切ることはできない。
このような言辞や、健康上の理由である旨の言辞がXからあったのであれば、心身とも職務に耐え得る健康状態なのかや、現在の仕事の状況を聞いたり、Y社がXに内定を出してもXが本件財団を退職できずに辞退されるかもしれないという問題があるのであるから、Xが辞職を望んでいるのに辞職できない可能性がある理由を質問するなりして、職場の人間関係のトラブルによる可能性はないかなどといった見地から検討したりすることも考えられたのであって、そのような質問をした上でその回答内容に虚偽があれば格別、これらの言辞のみをもって、信義則に違反するものということはできない

3 Xが、Xの言動につき、それがセクハラ・パワハラに該当するのではないかと申し立てられたことをY社に告げなかったことなどにつき、信義則上の義務違反は認められず、社会的評価の低下等は採用以前から存在した可能性が現実化したもので、Y社が採用時に看過し又は特にそのことを問題にしなかった問題から派生して、問題が生じたとしても、「簡単に矯正することもできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因して、その職務の円滑な遂行に支障があり、または支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合」に該当するとして、専任教員勤務規程第18条3号の事由の存在を理由に、Xを普通解雇することはできないといわざるを得ない

4 解雇された従業員が被る精神的苦痛は、当該解雇が無効であることが確認され、その間の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実があったときに初めて慰謝料請求が認められると解するのが相当である
・・・Xは縷々主張するが、手続が不公正であるとか、処分が恣意的なものであるとかということもできないのであって、その他本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、賃金の支払以上に慰謝料の支払を相当とする特段の事情があるとはいえないから、本件解雇につき、Y社の不法行為に基づく損害賠償債務は認められない。

この裁判例では、採用面接等で前職でのセクハラ・パワハラ問題等を申告しなかったのは、労働者の信義則上の告知義務に違反しないとされています。

会社の方が、質問しない項目について、労働者が積極的に自己に不利益な事項について告知することまで求められていないそうです。

この裁判例を前提とする限りでは、会社のほうで、面接時に労働者に質問する事項をたくさん用意しておく必要がありますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介104 スイッチ・オンの生き方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
スイッチ・オンの生き方
スイッチ・オンの生き方

以前、紹介しました「幸せの遺伝子」の著者の本です。

遺伝子が目覚めれば、人生が変わる」そうです。

なんだかよくわかりません。

著者の考え方はこうです。

人間という存在を遺伝子レベルで見れば、学校の成績が良かろうが悪かろうが、身体が強かろうが弱かろうが、99.5%以上は誰でも同じです。能力に差があるとすれば、遺伝子を眠らせているか、目覚めさせているかの違いだけです。その違いは、心のありようや環境などによって生じます。」(63頁)

あえて遺伝子を持ち出す必要があるのかどうかはよくわかりませんが、心のありようや環境によって結果が変わってくるというのはそうなんでしょうね。

個人的には、結果の違いは、能力の差ではなく、情熱の差や準備の差だと思っています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

何が人を新しいことに挑戦させるかといえば、外から絶えず入ってくる刺激です。精神的に守りに徹していたのでは、決して新しいものを取り入れることができません。『守り』の姿勢が遺伝子をオンにすることは、まずありません。守りとは現状維持であり、いま働いている遺伝子だけで十分事足りるということだからです。
眠っている遺伝子は強く必要とされなければ目覚めてくれません。だから、『守り』ではなく『攻め』で新しい刺激を求めていくことが大切なのです。
」(115頁)

特に若いうちは、どんどん攻めていくべきだと思います。

無難、現状維持というのが一番いやです。

生きている心地がしません。

同世代の若くて勢いのある経営者を見ると、応援したくなります。

私の事務所の顧問先会社には、若くて勢いのある経営者がたくさんいます。

みなさん、パワーがみなぎっています。

誰一人、現状維持でいいなんてことを言っていません。

誰一人、不景気のせいだなんて不細工なことを言っていません。

みなさん、現状維持では、徐々に衰退していくことを知っているからです。

こんな時代だからこそ、「守り」ではなく「攻め」の姿勢でチャレンジすることが必要なんだと思います。

不当労働行為44(カネサ運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合員である長距離トラック運転手に対する配車差別と不当労働行為・不法行為に関する裁判例を見てみましょう。

カネサ運輸事件(松山地裁平成23年10月31日・労判1047号91頁)

【事案の概要】

Y社は、一般区域貨物自動車運送事業などを目的とする会社である。

Xは、平成8年、Y社において運転手として勤務していたAとともに労働組合を結成し、その後、執行委員長となった。

本件組合結成後、Y社は、XおよびAに対して、長距離トラックの配車をほとんどしないようになったため、組合は、愛媛県の労働委員会に対してあっせんの申請をし、XおよびAに対する配車を、他の従業員と同様に原則として輪番制とする旨の協定をした。

しかし、Y社は、その後も、Xに対し、配車について他の従業員とは異なる取扱いを継続しており、Xは、現在長距離トラックの配車を受けていない。

Xは、Y社に対し、本件配車差別は不当労働行為に該当するとして、不法行為に基づき、Xが平等に配車されれば受けられたはずの賃金等の不足分として約550万円、慰謝料として100万円の支払を求めた。

【裁判所の判断】

配車差別は、不当労働行為にあたり、不法行為を構成する
→約550万円の財産的損害及び慰謝料として30万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社がXに対し配車に関してAを除く他の従業員と異なる取扱いをするようになったのは、Xが本件組合を結成し、本件組合がY社に団体交渉を申し入れるようになった後のことであり、XがD会長にその意に反する発言をするたびにXに対する不利益な取扱いが顕著になっていったことは明らかである。したがって、Y社の取った上記取扱いは、Xが本件組合の組合員であることや、労働組合の正当な行為をしたことの故をもってされたものというべきであり、労働組合法7条1号に反するものとして違法性を有し、Xに対する不法行為を構成するものと認めるのが相当である。

2 Y社は、Xが高齢であり、体力的・能力的に長距離運転は困難であると判断されるから、Y社がXに配車をしないのには合理的な理由があると主張する。しかし、加齢に伴う体力、能力の低下には個人差があることは明らかであり、Xは、Y社による上記不利益な取扱いを受けるようになった平成18年5月ころは53歳であったと認められるところ、当時Xが長距離トラックの運転手として通常要求される体力、能力において不足していたことを窺わせる合理的な根拠、証拠は見当たらない。かえって、Xは、配車上の不利益な取扱いを受けるについて、Y社から体力的・能力的にみてどのような問題があるのか具体的な指摘を受けたことはないこと、Xはこれまでに大事故を起こしたり、行政処分を受けたことはないことが認められるから、Y社の上記主張は採用できない

3 そのほか、Y社は、Xに配車をしない理由として、Xが車両整備やトラックの駐車方法や荷物の返品処理などで仕事上問題を起こしており、今後荷主や取引先等に対する会社の信用を失墜しかねないこと、Xが他の従業員らとの協調性に欠けるためY社の業務に支障をきたしかねないことなどを挙げるが、いずれも十分な根拠、証拠を欠き、採用できない。むしろ、証人Dは、Xに配車しなかった一番の理由はXの人間性であり、人間性とは、職場において協調性がないということであると供述する一方、Xに協調性がないということは最近になって気付いたと供述しており、供述態度(原告代理人の質問に対し、押し黙って答えない。)にも照らすと、D会長がXに不利益な取扱いをするようになったのは、Xが本件組合を結成し組合活動を開始したことを嫌悪したことによるものであることは明白であるというべきである

4 Y社は、電話代手当と食事手当は、それぞれ使途目的を定められて支給されるものであり、労働の対価たる賃金ではないと主張するが、弁論の全趣旨によれば、Y社は、従業員に対し、これらについてその支給を明らかにするために領収書を提出させたり、精算を求めたりしたことはないことが認められるから、これらも所定の地域への乗務に就いた場合には決まった額を当然に支払うことが予定されている性質のものとみることができ、Xの損害を算定するに当たっての計算の基礎となる手当に含ませるのが相当である

Xに対する配車上の不利益取扱いに関する会社側の主張するは、いずれも合理性がないということで、採用されていません。

また、会社側の証人(会長)の証言も反対尋問で崩されています。

全体的に見て、不当労働行為性を否定することはなかなか難しいと思います。

電話代手当と食事手当に関する争点については、上記判例のポイント4が参考になります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。