おはようございます。
さて、今日は、不更新条項と継続雇用に対する期待利益に関する裁判例を見てみましょう。
本田技研工業事件(東京地裁平成24年2月17日・労経速2140号3頁)
【事案の概要】
Y社は、四輪車、二輪車、耕うん機等の製造・販売等を目的とする会社である。
Xは、平成9年12月、期間契約社員としてY社に入社し、パワートレイン加工モジュールに所属して業務に従事した。
Xは、それ以降も、同業務に従事し、Y社との間で有期雇用契約の締結と契約期間満了・退職を繰り返してきたところ、平成20年12月末、1年間の有期雇用契約が満了したとしてY社から雇用契約の更新を拒絶された。
【裁判所の判断】
雇止めは有効
【判例のポイント】
1 Y社は、期間契約社員に対し、約1年ごとに有期雇用契約を更新せずに終了させ、慰労金や精算金を支払って一旦雇用契約関係を解消した上、再入社希望者について改めて選考した上で再度入社する機会を与え、改めて入社手続を行っていたこと、期間契約社員のほとんどが5年以内に雇用契約を終了させており、期間契約社員が一般的に長期間継続してY社に雇用されて勤務するという実態は存在しないこと、Xが長期間Y社で雇用されたのは、自らの意思に基づいてそれを望んだ結果でしかないこと、有期雇用契約の更新手続は、前契約期間中に新契約書を作成して取り交わす等新たな有期雇用契約の締結事実を明確にしており、自動更新とはいい難いこと、以上の事実が認められ、これらの事実によれば、X・Y社間の有期雇用契約が実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状態にあったと認めることはできない。
2 Xが、Y社との間で、自らの意思に基づいて不更新条項を定める本件雇用契約を締結したことは明らかであり、また不更新条項が公序良俗違反であるとはいい難い。
3 Xは、有期雇用契約に基づき、平成9年12月から平成20年12月末までの11年余もの長期にわたり、有期雇用契約の締結、契約更新、契約期間満了・退職、一定期間経過後の再入社・新規有期雇用契約の締結を繰り返してY社の業務に従事してきたこと、Y社は、平成20年9月、この頃既に一部の期間契約社員の雇止めを実施せざるを得ず、またリーマンショックによる深刻な世界経済の停滞等の事態が生じつつあったにもかかわらず、Xに対し、契約更新の上限期間を1年間から3年間に延長する本件直前雇用契約を締結したこと、XはこれまでのY社に再入社して同年6月から平成21年5月末ころまでの1年間の継続勤務ではなく、平成23年5月末ころまでの約3年間Y社での勤務を継続できると期待したこと等によれば、Xが、本件直前雇用契約を締結した平成20年9月の時点において、自動車業界の最大手の1つであるY社の経営状態に不安を覚えずに、安堵感を抱き、また本件直前雇用契約の満了日の翌日である同年12月1日以降もなお引き続き平成23年5月末日ころまでY社での勤務を継続できると期待したことは、やむを得ないというべきであって、Xが、本件直前雇用契約の期間中、Y社に対して抱いた有期雇用契約の継続に対する期待は合理的である。
4 Xが、本件雇止めになることについて、これを粛々と受け入れ、継続雇用に対する期待利益と相反する内容の不更新条項を盛り込んだ本件雇用契約を締結し、さらには平成20年12月には、本件退職届をも提出したのであり、本件雇止めに対して何らの不満や異議を述べたり、雇用契約の継続を求める等を全くしていないのであるから、Y社の説明会が開催された同年11月時点において、本件雇用契約の期間満了後における雇用契約の更なる継続に対する期待利益を確定的に放棄したと認められる。
5 Xが、本件雇用契約の期間満了後における雇用継続に対する期待利益を有しているとは認められないのであるから、本件雇止めについては、解雇権濫用法理の類推適用の前提を欠くものといわざるを得ない。
上記判例のポイント4は、非常に参考になります。
裁判所は、Xの雇用契約の期間満了後における雇用継続に対する期待利益を認めませんでした。
その理由として、契約更新できなくなった事情等をY社が真摯に労働者に説明し、労働者がそれを理解して不更新条項付き労働契約を締結したことをあげています。
本件では、Y社が、労働者に理解を求めるべく説明を尽くしたこと、相談窓口を設け、上司の面談を設定するなど、相応の手続を尽くしたという事情を評価したものだと思われます。
有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。
事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。