不当労働行為42(衛生事業所労組(街宣活動)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合の街宣活動と不法行為に関する最高裁判決を見てみましょう。

(なお、本件判例は、不当労働行為に関する判例ではありませんが、便宜上、不当労働行為のカテゴリーとしました。)

衛生事業所労組(街宣活動)事件(最高裁平成24年1月31日・労判1045号97頁)

【事案の概要】

A社の衛生事業所の代表取締役であるXが、その労働組合の組合員であるY1ら7名に対し、Y1らがした街宣活動とビラの配布によって平穏な生活を営む権利が侵害され、名誉を毀損されたとして、不法行為に基づき、Y1ら各自に対し、損害賠償請求をした。

なお、Y2を除くY1ら6名は、A社の従業員である。

1審は、本件街宣活動のうち本件和解前のものは、Xの平穏な生活を営む権利を侵害するものであったと認定し、また、Xの社会的評価を低下させるものであったと認定した。
そして、本件各表現による名誉毀損は、正当な組合活動として違法性を阻却されるものではないと判断し、慰謝料50万円及び弁護士費用5万円を損害として認めた。

2審は、本件街宣活動及び名誉毀損については、1審と同じ判断を下したが、正当な組合活動として違法性が阻却されるかについては、一審判決を取り消し、正当な組合活動としてY1らに不法行為は成立しないとした。

【裁判所の判断】

上告棄却、上告受理申立不受理
→街宣活動は違法とはいえず、不法行為は成立しない。

【判例のポイント】(原審の判断)

1 本件街宣活動のうち本件和解前のものは、A社周辺、市役所周辺及びX宅近辺区域を中心として、自動車を停止させることなく進行しながらなされたものであって、その態様からすると、A社の営業区域であるB市内において、地域住民に広く労使紛争の実態を訴え、有利な紛争解決を図ることを目的としたものであったと認められ、X宅の平穏をことさら害するような目的の下に、X宅を狙い撃ちにしたものであるとは認められない
また、上記目的を達成するのに必要な音量を超過し、Xやその家族に受忍限度を著しく超えるような騒音被害を与えたとも認められず、X宅近辺区域における街宣活動の継続時間がそれ程長いものであったとは考えられず、その時間帯も夜間や早朝に及ぶことはなかったこと、更には、X自身は労使紛争について第三者であるとはいえず、純粋な第三者に比して受任すべきは範囲はより広いといえることを総合すれば、本件和解前の本件街宣活動は、社会通念上、正当な組合活動の範囲を超えた違法なものであったとは認められない
したがって、本件街宣活動のうち本件和解前のものは、それがXの平穏な生活を営む権利を侵害したからといって、正当な組合活動として違法性が阻却され、Y1らは不法行為責任を負わない。

2 労働組合の活動として配布されているビラに通常見られる表現方法であるといえるし、その配布回数及び配布場所についても、正当な組合活動としての社会通念上許容される範囲を逸脱しているということはできない。したがって、本件各表現及び本件ビラ記載のいずれについても、少なくとも真実相当性の要件を充たすものということができるし、また、その表現方法等の点に照らしても、本件街宣活動及び本件ビラ配布による名誉毀損は、社会通念上正当な組合活動としての範囲を超えておらず、Y1らに不法行為は成立しないというべきである

組合活動として許容される範囲がよくわかります。

憲法上保障されている権利ですから、かなり広範に認められていることがわかります。

使用者側としても、組合活動として許容される範囲がかなり広いということを理解しておくほうがよろしいかと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。