Daily Archives: 2012年5月18日

労働時間26(ドワンゴ事件)

おはようございます。

今日は、専門型裁量労働制に関する裁判例を見てみましょう。

ドワンゴ事件(京都地裁平成18年5月29日・労判920号57頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータ及びその周辺機器、ソフトウェア製品の企画、開発、製造、販売、輸出入及び賃貸などを業務内容とする会社である。

Xは、平成15年9月、Y社との間で雇用契約を締結し、平成16年7月、退職した。

Xは、Y社に対し、未払い残業代を請求した。

Y社は、専門型裁量労働制が適用されると主張した。

【裁判所の判断】

専門型裁量労働制の適用はない。

【判例のポイント】

1 専門型裁量労働制について、労基法38条の3第1項は事業場の過半数組織労働組合ないし過半数代表者の同意(協定)を必要とすることで当該専門型裁量労働制の内容の妥当性を担保しているところ、当事者間で定めた専門型裁量労働制に係る合意が効力を有するためには、同協定が要件とされた趣旨からして少なくとも、使用者が当該事業場の過半数組織労働組合ないし過半数代表者との間での専門型裁量労働制に係る書面による協定を締結しなければならないと解するのが相当である。また、それを行政官庁に届け出なければならない(労基法38条の3第2項、同法38条の3第3項)。
同条項の規定からすると、同適用の単位は事業場毎とされていることは明らかである。ここでいう事業場とは「工場、事務所、店舗等のように一定の場所において、相関連する組織の基で業として継続的に行われる作業の一体が行われている場」と解するのが相当である。
Y社の大阪開発部は、その組織、場所からすると、Y社の本社(本件裁量労働協定及び同協定を届出た労働基準監督署に対応する事業場)とは別個の事業所というべきであるところ、本件裁量労働協定はY社の本社の労働者の過半数の代表者と締結されたもので、また、その届出も本社に対応する中央労働基準監督署に届けられたものであって、大阪開発部を単位として専門型裁量労働制に関する協定された労働協定はなく、また、同開発部に対応する労働基準監督署に同協定が届け出られたこともない。そうすると、本件裁量労働協定は効力を有しないとするのが相当であって、それに相反するY社の主張は理由がない。
そうすると、Xに対しての裁量労働制の適用がない。したがって、Y社は、Xに時間外労働や休日労働があれば、それに応じた賃金をXに支払うべき義務を負っているというべきである。

2 Y社は、Xが深夜労働の申告承認の手続をとっていなかったため、同人の深夜労働に係る割増賃金支払義務を負っていない旨主張する。しかし、Y社は、Y社のタイムカードの記載からXが深夜に労働をしていたことを認識することができ、実際にもXが上記認定した範囲で深夜労働をしていたことからすると、上記手続の成否は深夜労働に係る割増賃金請求権の成否に影響を与えないものというべきである。そうすると、Y社の上記主張は理由がない

裁量労働時間制に関する珍しい裁判例ですが、内容としては形式的な要件をみたしていないからダメよ、という話だけです。

上記判例のポイント2については、よくあるパターンですね。

残業に関して許可制を採用し、仮に従業員が許可をとらずに残業をしていたとしても、会社が、従業員の残業を認識し得た場合には、このような結論となります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。