おはようございます。
今日は、工場操業休止に伴う希望退職募集、整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。
東亜外業事件(神戸地裁平成23年11月14日・労判1042号29頁)
【事案の概要】
Y社は、大口径溶接鋼管の製造及び据付並びに各種管工事等を業とする会社である。
Xらは、Y社東播工場に勤務する従業員である。
Xらは、平成23年6月、整理解雇された。
【裁判所の判断】
整理解雇は無効
【判例のポイント】
1 整理解雇は使用者側の事情による解雇であり、労働者側に責めに帰すべき事由がなく、他方で、終身雇用を前提とする我が国の企業においては、解雇回避のために企業としてもそれ相応の努力をすべきであるのに、何の努力もしないで解雇することは労働契約における信義則に反するといえる。
したがって、整理解雇が合理的なものとして有効とされるためには、人員削減の必要性があったかどうか、使用者が解雇回避努力を尽くしたかどうか、解雇の対象者の人選が合理的なものであるのかどうか、解雇の手続が相当であるかどうかなどの観点から、慎重に検討する必要があるといえる。
2 業績不振や業務縮小を理由とする整理解雇は、専ら使用者側の事情に基づく自由によるものであり、労働者に責任のない事由により失職させるものであるから、使用者は整理解雇をできるだけ避けるべく、希望退職者の募集、労働時間の短縮、一時帰休、配転等なしうる解雇回避努力を検討することが必要である。
東播工場においては、人員削減として、社外工の削減を行ったほか、休業の実施、新規採用の取り止め、希望退職者の募集を行っていた事実(もっとも、全社的規模では行っていないようであるが、全社的規模でこれを行うことの費用面や業務効率面、時間面、人心の混乱などのマイナス面を勘案すると、必ずしもこれを全社的に行うべきとすることもできない。)が認められる。
また、Y社においては、希望退職者に対しては、再就職のあっせんを行ったほか、社内他部門に対して、受入打診を行ったが要員充足のため今以上は受け入れることができないとの反応があったことが一応認められる。
もっとも、使用者が労働者に対して、解雇回避義務を負っていることに鑑みれば、これら要員充足という返事が、東播工場からの配転可能性を全く否定するものかどうかは疑問の余地があるのであって、個別的に、配転の希望の聴取や具体的な配転交渉が行われた形跡がない本件においては、解雇回避義務が尽くされたとはいい難いものというべきである。
・・・Y社においては、(一部は非常勤だというが)いぜん9名の社外工を残しているところ、Xらの中にもこれらの仕事に従事することが可能な者があること、東播工場以外においては、新入社員7名の採用を行っていること、給与や賞与面で、経費削減が徹底されているかどうかは疑問の余地もあることからすれば、予め整理解雇基準を定めた上で対象者に対してこれを説明し、個々の従業員らに対して、配転先の打診などをきめ細かに行うことが必要であったといえ、本件で、組合側がこれを拒否しており不可能であったという事情も明確には認められないことからすると、Y社が解雇回避努力を尽くしたものとは認められない。
3 整理解雇は、余剰人員を企業の再建という観点から削減するために行われる解雇であるから、誰を整理解雇の対象とするかは、企業の再建にとって必要な人材かどうかという相対的判断によって行うことになる。
・・・しかしながら、ここに記載された以外の、解雇の対象となった従業員らについてどのような評価がされたのかは必ずしも明らかではないこと、たとえば「事業の遂行にとって必要な有資格者を残す」などの整理解雇の基準が従業員らに対して明示されていたとはいい難いことからすれば、人選の合理性が十分に裏付けられたとはいい難い。
4 整理解雇は労働者に何らの帰責事由がないにもかかわらず解雇されるものであるから、使用者は、雇用契約上、労働者の了解が得られるよう努力する雇用契約上の義務を負っているというべきであり、使用者は、整理解雇にあたり、労働者や労働組合に対し、整理解雇の必要性、規模、時期、方法等について説明し、十分に協議する義務があり、これに反する解雇は無効となるものというべきである。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。