おはようございます。
今日は、専門業務型裁量労働制に関する裁判例を見てみましょう。
エーディーディー事件(京都地裁平成23年10月31日・労判1041号49頁)
【事案の概要】
Y社は、コンピュータシステムおよびプログラムの企画、設計、開発、販売、受託等を主な業務とする会社である。
Xは、Y社の立ち上げのときに誘われ、平成13年5月の成立当初から従業員であった。
Y社では、システムエンジニアについて専門業務型裁量労働制を採用することとし、平成15年5月、労働者の代表者としてXとの間で、書面による協定を締結し、そのときは労基署に届出をしたが、それ以降は届出をしていない。
協定によれば、対象労働者はシステムエンジニアとしてシステム開発の業務に従事する者とし、みなし労働時間を1日8時間とするものである。
Y社においては、平成20年9月に組織変更があり、その頃から、カスタマイズ業務について不具合が生じることが多くなり、その下人はXやXのチームのメンバーのミスであることが多かった。Xは、上司から叱責されることが続き、自責の念に駆られるなどして医院で受診したところ、「うつ病」と診断されたため、平成21年3月に退職した。
なお、Xは、うつ病について労災を申請し、労災認定され休業補償給付がされた。
Y社は、Xに対して、業務の不適切実施、業務未達などを理由に2034万余円の損害賠償請求訴訟を提起した。
これに対し、Xは、Y社に対し、未払時間外手当および付加金の支払等を求めて反訴した。
【裁判所の判断】
Y社のXに対する損害賠償請求は棄却
Y社に対し約570万円の未払残業代の支払を命じた。
Y社に対し同額の付加金の支払を命じた。
【判例のポイント】
1 専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、実際に働いた時間ではなく、労使協定等で定められた時間によって労働時間を算定する制度である。その対象業務として、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号において、「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」が挙げられている。そして、「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(1)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(2)入出力設計、処理手順の設計等のアプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(3)システム稼動後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうと解されており、プログラミングについては、その性質上、裁量性の高い業務ではないので、専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解される。営業が専門業務型裁量労働制に含まれないことはもちろんである。
2 Y社は、Xについて、情報処理システムの分析又は設計の業務に携わっており、専門業務型裁量労働制の業務に該当する旨主張する。
確かに、Xにおいては、A社からの発注を受けて、カスタマイズ業務を中心に職務をしていたということはできる。
しかしながら、本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは、システム設計というものが、システム全体を設計する技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに、A社は、下請であるXに対し、システム設計の一部しか発注していないのであり、しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると、下請にて業務に従事する者にとっては、裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。また、Y社において、Xに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは、Xがそれを損害として請求していることからも明らかである。さらに、Xは、部長からA社の業務の掘り起こしをするように指示を受けて、A社を訪問し、もっと発注してほしいという依頼をしており、営業活動にも従事していたということができる。
以上からすると、Xが行っていた業務は、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号にいう「情報処理システムの分析又は設計の業務」であったということはできず、専門業務型裁量労働制の要件を満たしていると認めることはできない。
3 時間外手当の額について検討するに、平成20年5月以降は、タイムカードを廃止し、それ以前のものは廃棄しているので、Xの労働時間を証する客観的な証拠は存在しない。
Xは、平成20年10月以降の作業日報とそれに基づく労働時間表を提出する。この期間の作業日報は具体的なものであって、Xはそれに記載された労働時間につき労働したものと認めることができる。
Xは、平成20年10月1日以前については、上記期間の平均労働時間の80%に相当する時間外労働をしていたと推定しているところ、上記認定のXの業務内容や労働災害認定においても毎月80時間を超える時間外労働があったと認定されていることなどからすると、この推定は一定の合理性を有しているということができ、X主張のとおりの時間外労働時間を認めることができる。
上記判例のポイント1には注意が必要です。
入口部分で負けると割増賃金がどえらいことになります。
労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。