おはようございます。
さて、今日は、退職した従業員による時間外割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。
スタジオツインク事件(東京地裁平成23年10月25日・労判1041号62頁)
【事案の概要】
Y社は、記録映画・テレビコマーシャル等の企画・制作等を業務とする会社である。
Xらは、Y社と雇用契約を締結して勤務し、インフォマーシャル制作業務に従事していた。
その後、Xらは、Y社を退職し、Y社に対し、在職中である平成18年10月から19年6月までの間に行った時間外・深夜・休日勤務に対する時間外・深夜・休日出勤手当および付加金などの支払いを求めた。
【裁判所の判断】
Y社は、X1に対し約110万円、X2に対し約98万円を支払うように命じた。
【判例のポイント】
1 時間外手当等請求訴訟において、時間外労働等を行ったことについては、同手当の支払を求める労働者側が主張・立証責任を負うものであるが、他方で、労基法が時間外・深夜・休日労働について厳格な規制を行い、使用者に労働時間を管理する義務を負わせているものと解されることからすれば、このような時間外手当等請求訴訟においては、本来、労働時間を管理すべき使用者側が適切に積極否認ないし間接反証を行うことが期待されているという側面もあるのであって、合理的な理由がないにもかかわらず、使用者が、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な計算方法により労働時間を算定することが許される場合もあると解される。もちろん、前記のとおり、時間外労働等を行った事実についての主張・立証責任が労働者側にあることにかんがみれば、その推計方法は、当該労働の実態に即した適切かつ根拠のあるものである必要があり、推計方法が不適切であるが故に、時間外労働等の算定ができないというケースもありえようし、逆にいえば、労働実態からして控え目な推計計算の方法であれば、合理性があると判断されることも相対的に多くなると思われる。
2 Y社においては、従業員の労働時間を把握する資料として従業員にタイムカードを打刻させるほかに、月毎に月間作業報告書を作成させていたところ、少なくとも、本件訴訟係属前の平成21年1月ころまでは、本件請求期間中に係るXらの月間作業報告書は存在していたにもかかわらず、Y社がそれを破棄したなどとして提出しないことが推認されるのは、既に指摘したとおりである。月間作業報告書は労働時間管理に関する書類であって、Y社が主張するように会計処理が終わり次第、随時廃棄するという性質の書類ではない上、Y社は平成20年に別件訴訟を提起し、両者間に紛争が生じていたことからすれば、仮に他の従業員の月間作業報告書を廃棄する必要があったとしても、Xらの同報告書については証拠を保全するために残しておくのが通常であって、そのような状況下で廃棄したというのは著しく不自然である。このように、Y社において、労働時間管理のための資料を合理的な理由もなく廃棄したなどとして提出しないという状況が認められる以上、公平の観点から、本件においては、推計計算の方法により労働時間を算定する余地を認めるのが相当であると解される。
3 Xらが従事していた業務は、インフォマーシャル制作業務という性質からしても、プロデューサー、ディレクターというその役割に照らしても、それ自体、相当な時間と作業量を要する業務であったと推認される。また、Xらは、同時並行の形で、複数のインフォマーシャル制作業務を担当することも多い上、仮編集や本編集といった過程で徹夜作業を行うことも頻繁にあるなど、そのスケジュールに照らし相当に多忙であったと認められる。さらに、当時、Xらは、自らが時間外手当の支給を受けうる立場にないと認識しており、始業時刻が早いときあるいは終業時刻が遅いときだけ、意図的にタイムカードの打刻をしたとは考えにくい上、Xらが、Y社側から出勤時刻が遅いことを注意されていた状況もなかったことからすれば、出勤時刻が遅い日にタイムカードの打刻を怠っていたとも推認できないのであって、Xらのタイムカードに打刻のある日時が、全体の平均値から逸脱しているということもできない。したがって、Xらの主張にかかる上記推認方法は、基本的に合理的な方法であると認めるのが相当である。
結果的にも、X1については、時間外労働が月30時間台から60時間台、深夜労働が10時間以内に収まり、X2についても、時間外労働が月30時間台から60時間台、深夜労働が多いときでも月10時間台に収まっているものであるから、Xらの業務実態に照らすと、むしろ控え目な推計であるというべきである(Xらが徹夜作業を行っていることを考慮に入れれば、実際の労働時間、とりわけ深夜労働はもっと多い可能性が高い。)。
上記判例のポイント1は非常に重要です。是非、しっかり理解しておいて下さい。
残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。