有期労働契約27(E-グラフィックスコミュニケーションズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、クリエイティブディレクターに対する雇止めの効力に関する裁判例を見てみましょう。

E-グラフィックスコミュニケーションズ事件(東京地裁平成23年4月28日・労判1040号58頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車のカタログやパンフレット等の企画制作や印刷等を目的とする会社である。

Xは、美術大学を卒業後、数社での就労経験をした後、Y社に、平成18年4月から嘱託契約社員として、契約期間を9か月とする有期雇用契約を締結した。

Xは、当初はコピーライターとして入社応募したが、採用過程では、それまでの就労経験を考慮して、より統括的で重要な職種であり、当時欠員が生じていたクリエイティブディレクター(CD)での採用を打診され、業務内容をCDとすることで契約を締結するに至っている。

XとY社との間では、契約期間を1年とする有期契約が合計3回更新されてきたところ、Y社は4度目の契約期間満了の際、Xに対し、本件有期雇用契約は更新しない旨を通告した。

なお、Y社は、これに先立って、本件雇止めの理由を詳細に記載した書面をXに交付して納得を得ようとしたが、Xはその受領を拒否していた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件各更新手続の回数は3回に過ぎず、本件有期雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に同視することができる状態にないことは明らかであるから、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるためには、本件有期雇用契約による雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性があることが必要であると解されるところ、この合理性の有無は、(1)当該雇用の臨時性・常用性、(2)更新の回数、(3)雇用の通算期間、(4)契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる言動・制度の有無などを総合考慮し、これを決するのが相当である。

2 確かにXは、コピーライターとして入社応募したところ、その経験や意欲等が買われ、CDというワンランク上のポジションで採用されたものであって、その年齢等を併せ考慮すると、Y社との雇用契約が長期かつ安定的に継続されることに対して、それなりの期待を抱いていたということはできる。
しかし、(1)CDは資質として自由な発想等に基づく創造性、専門性を持った人材が求められることから、その職務は、本来常用というよりも、むしろ臨時的な性格を有しているものと認められること、(2)現にY社は、CD業務につき1年ごとの嘱託契約社員向きの業務であると位置付け、Xに対しても、その採用面接時はもとより入社直後のオリエンテーション等においても、その旨を明確に説明し、雇用継続に対する期待利益を抱かせるような言動をした形跡はうかがわれないこと、(3)本件各更新手続の回数は僅か3回にとどまっており、その通算期間も4年に満たないこと、(4)Y社は、本件各更新手続に先立って、各契約期間の成果等に関する評価資料に基づき、Xとその上長との間において面談を実施した上、これを踏まえ年俸の額等を決定し、Xとの間において有期雇用契約書等を取り交わしており、本件各更新手続の管理は厳格に行われていたものといい得ることなどの事情を指摘することができる
これらの事情を総合すると本件有期雇用契約による雇用継続に対するXの期待利益に合理性があるとはいい難く、本件雇止めに解雇権濫用の法理を類推適用する余地はないものというべきである。

非常に参考になる判例です。

会社側とすれば、有期雇用契約を締結する場合には、更新手続きをしっかりやること、雇用継続の期待を持たせる言動は慎むことなどの対策をとることになります。

ただ、これまでの多くの裁判例を見ればわかるとおり、解雇しやすくするために、あえて有期雇用にし、更新を続けてきたというような場合には、たいてい解雇権濫用法理を類推適用されます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。