Monthly Archives: 4月 2012

労働時間25(エーディーディー事件)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制に関する裁判例を見てみましょう。

エーディーディー事件(京都地裁平成23年10月31日・労判1041号49頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータシステムおよびプログラムの企画、設計、開発、販売、受託等を主な業務とする会社である。

Xは、Y社の立ち上げのときに誘われ、平成13年5月の成立当初から従業員であった。

Y社では、システムエンジニアについて専門業務型裁量労働制を採用することとし、平成15年5月、労働者の代表者としてXとの間で、書面による協定を締結し、そのときは労基署に届出をしたが、それ以降は届出をしていない。

協定によれば、対象労働者はシステムエンジニアとしてシステム開発の業務に従事する者とし、みなし労働時間を1日8時間とするものである。

Y社においては、平成20年9月に組織変更があり、その頃から、カスタマイズ業務について不具合が生じることが多くなり、その下人はXやXのチームのメンバーのミスであることが多かった。Xは、上司から叱責されることが続き、自責の念に駆られるなどして医院で受診したところ、「うつ病」と診断されたため、平成21年3月に退職した。

なお、Xは、うつ病について労災を申請し、労災認定され休業補償給付がされた。

Y社は、Xに対して、業務の不適切実施、業務未達などを理由に2034万余円の損害賠償請求訴訟を提起した。

これに対し、Xは、Y社に対し、未払時間外手当および付加金の支払等を求めて反訴した。

【裁判所の判断】

Y社のXに対する損害賠償請求は棄却

Y社に対し約570万円の未払残業代の支払を命じた。

Y社に対し同額の付加金の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、実際に働いた時間ではなく、労使協定等で定められた時間によって労働時間を算定する制度である。その対象業務として、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号において、「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」が挙げられている。そして、「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(1)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(2)入出力設計、処理手順の設計等のアプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(3)システム稼動後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうと解されており、プログラミングについては、その性質上、裁量性の高い業務ではないので、専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解される。営業が専門業務型裁量労働制に含まれないことはもちろんである。

2 Y社は、Xについて、情報処理システムの分析又は設計の業務に携わっており、専門業務型裁量労働制の業務に該当する旨主張する。
確かに、Xにおいては、A社からの発注を受けて、カスタマイズ業務を中心に職務をしていたということはできる。
しかしながら、本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは、システム設計というものが、システム全体を設計する技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに、A社は、下請であるXに対し、システム設計の一部しか発注していないのであり、しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると、下請にて業務に従事する者にとっては、裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。また、Y社において、Xに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは、Xがそれを損害として請求していることからも明らかである。さらに、Xは、部長からA社の業務の掘り起こしをするように指示を受けて、A社を訪問し、もっと発注してほしいという依頼をしており、営業活動にも従事していたということができる
以上からすると、Xが行っていた業務は、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号にいう「情報処理システムの分析又は設計の業務」であったということはできず、専門業務型裁量労働制の要件を満たしていると認めることはできない。

3 時間外手当の額について検討するに、平成20年5月以降は、タイムカードを廃止し、それ以前のものは廃棄しているので、Xの労働時間を証する客観的な証拠は存在しない。
Xは、平成20年10月以降の作業日報とそれに基づく労働時間表を提出する。この期間の作業日報は具体的なものであって、Xはそれに記載された労働時間につき労働したものと認めることができる
Xは、平成20年10月1日以前については、上記期間の平均労働時間の80%に相当する時間外労働をしていたと推定しているところ、上記認定のXの業務内容や労働災害認定においても毎月80時間を超える時間外労働があったと認定されていることなどからすると、この推定は一定の合理性を有しているということができ、X主張のとおりの時間外労働時間を認めることができる

上記判例のポイント1には注意が必要です。

入口部分で負けると割増賃金がどえらいことになります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介76 商売人の姿勢(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本ではなく、雑誌、日経ビジネスの昨年10月24日号の記事を紹介します。

伊藤忠商事 岡藤正広の経営教室 最終回 商売人の姿勢」という記事です。

伊藤忠商事の岡藤社長が、若者の質問に答えるかたちで、プロの商売人の心得を説いています。

さて、岡藤社長の言葉の中で「いいね!」と思ったのはこちら。

心構えとして、もう1つ皆さんに持っていただきたいのは、『まずは目の前の仕事に励む』ということです。・・・あまりにも目標がでかいと、普通の人は、途中でうまくいかなくなった時に、簡単に挫折してしまうんです。僕の尊敬する、京セラ創業者の稲盛(和夫・現日本航空会長)さんがこんなことを言っているんですね。彼が最初に京都で会社を創業した時、まずはその町でナンバーワンの会社を目指したそうです。実際にそれを達成すると、次は区内のナンバーワンやと。そうやって京都一、日本一とコツコツと目標を上げていきながら、今の世界企業、京セラを作り上げていったんですね。
だから、まずは手の届く目標を掲げて、達成していくのが、成長への確実な方法と違うかな。
」(71~72頁)

目標の設定方法について、非常に参考になりますね。

成功体験を繰り返すという観点でも、目標は、大きく持つのではなく、できるだけ小さく持つことが大切です。

小さい目標を1つ1つ、確実に達成していく。

その小さな成功体験が、より大きな目標を達成しようとする際の自信に変わるのだと信じています。

ものごとをやり遂げる「くせ」・「習慣」がついている人は、自分が設定した目標を達成してきたという自負があるため、「今度の目標も達成できるに決まっている」という自信が持てるのです。

目標をなかなか達成できずに、いつも途中であきらめている人は、目標をもっと小さく設定すればよいのです。

これは、仕事に限らず、子どもの勉強等についても同じことが言えますね。

自信をつけるためには、失敗から学ぶよりも、やはり成功体験をどれだけ積めるかが大切なんだと思います。

有期労働契約28(日本航空(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、期間雇用の客室乗務員に対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(雇止め)事件(東京地裁平成23年10月31日・労判1041号20頁)

【事案の概要】

Y社は、定期航空運送事業等を営む会社である。

Xは、平成20年5月、Y社との間で、雇用期間を平成21年4月末までとする雇用契約を締結し、客室乗務員として勤務した。

2年目の契約においては、雇用期間につき、勤務実績の総合評定が一定基準に達しない場合、Y社とX双方合意に基づき雇用期間を延伸することがあり、合意に至らない場合は雇止めとする旨の定めがあった。

Y社は、Xにつき、入社後4か月を得た時点で技術・知識の定着に危惧を抱いており、平成21年3月には、Xの業務への取組姿勢、業務知識、注意力、判断力、確実性等を問題視し、契約更新は実施するものの3か月を限度に経過観察期間と位置付けて「部長注意書」が交付されている。

その後、同年8月までの経過観察期間は延長された後、Y社は、Xの課題および職務遂行レベルのこれ以上の改善は困難と判断し、平成22年3月末、Xに対し、「会社の決定であなたの契約を終了する。今なら自己都合退職にしてあげることもできるので、4月5日までのなるべく早い段階までに気持ちをまとめて伝えて欲しい。」などと通告し、Xが就労の継続を希望すると、2年目の契約の雇止めの通知をした。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

本件退職勧奨は違法であり、慰謝料として20万円の請求を命じた

【判例のポイント】

1 本件雇用契約は、契約期間の存在が明記され、また、業務適性、勤務実績、健康状態等を勘案し、Y社が業務上必要とする場合に契約を更新することがあるという条件が明示され、契約の自動更新について何らの定めがない雇用契約であるから、契約社員の2年目契約が自動的に更新されることあるいは雇用期間が通算3年に達した後に正社員として雇用されることがXとY社間の雇用契約の内容となっているということはできない。したがって、契約社員の雇止めについて、当然に解雇権濫用法理の適用がある旨のXの主張は採用することができない。

2 確かに、雇用継続に対する合理的期待については、個別の雇用契約について検討されるべきものであるから、Y社が主張する事情が上記の点の検討に当たり無関係な事情とはいえない。しかし、それ自体が完成された一つのシステムであるといえる契約社員制度が問題となっている本件においては、上記合理的期待の有無の検討に当たっては、契約社員としての業務の性格・内容、契約更新手続の実態、Y社の継続雇用を期待される一般的な言動の有無などの事情を重視すべきものであって、当該契約社員の業務適性やこの点に関してY社とX間に生じた事情等を重視するのは相当ではない(本件は、Y社のXに対する勤務評価それ自体の相当性が争われている事案といえる。)。
以上検討してきたところからすれば、本件雇用契約において、その雇用期間経過によって、雇用契約が当然に終了するというのは相当ではなく、本件雇止めに当たっては、解雇権濫用法理が類推適用されると解すべきである。

3 客室乗務員は、緊急時の保安要員として乗客の安全に重大な責任を負う立場にあること、乗客に対して、高い水準のサービスを提供すべき立場にあることなどの同乗務員の職務内容を考慮すると、その基となったそれまでの評価・判断の妥当性を考慮した上で、Y社における最終的な評価・判断が不合理なものといえないとすれば、本件雇止めは相当なものであって、これが無効なものとなることはないというべきである

4 退職勧奨を行うことは、不当労働行為に該当する場合や、不当な差別に該当する場合などを除き、労働者の任意の意思を尊重し、社会通念上相当と認められる範囲内で行われる限りにおいて違法性を有するものではないが、その説得のための手段、方法が上記範囲を逸脱するような場合には違法性を有すると解される。
・・・同年9月14日及び15日の退職勧奨を趣旨とする言動は、Xが同月5日付け書面で明確に自主退職しない意思を示しているにもかかわらず、「いつまでしがみつくつもりなのかなっていうところ。」「辞めていただくのが筋です。」などと強くかつ直接的な表現を用い、また、「懲戒免職とかになったほうがいいですか。」と懲戒免職の可能性を示唆するなどして、Xに対して退職を求めているものであり、当時のXとAの職務上の関係、同月15日の面談は長時間に及んでいると考えられることなどの諸事情を併せ考慮すると、上記言動は、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱している違法な退職勧奨と認めるのが相当である

雇止めについては、有効と判断しています。

これに対して、退職勧奨については、一部、違法性を認めています。

従業員が自主退職しない意思を示しているにもかかわらず、「いつまでしがみつくつもりなのか」「辞めてもらうのが筋」などと発言したり、「懲戒免職になったほうがいいですか」などと自主退職を暗に強要する発言は、許容された退職勧奨の範囲を逸脱するというわけです。

気を付けましょう。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介75 人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。

人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない
人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない

幻冬舎社長の見城さんとサイバーエージェント社長の藤田さんの2冊目の本です。

1冊目の「憂鬱でなければ、仕事じゃない」は、以前、ブログで紹介しました。

今回も、題名だけでつかみはOKです(笑)

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

エイベックスの松浦勝人、GMOインターネットの熊谷正寿、グリーの田中良和、ネクシィーズの近藤太香巳、そしてもちろん藤田晋も、学生時代や起業する前は何者でもなかったはずだ。彼らはおのおの音楽、インターネット、ゲーム、飛び込み営業に、たった一人で熱中していただけだ。彼らの並はずれた熱狂が、やがて人の心を打ち、他人を巻き込み、自分の立ち上げた会社をそれぞれの分野のトップに押し上げたのだ。
・・・熱狂できることを仕事に選ぶべきだ。・・・大企業だからとか、安定しているからという理由で勤め先を決めるなど、馬鹿げている。見栄や安定で、熱狂できない仕事を選ぶことは、ひどく退屈で辛いことだ。熱狂は退屈も苦痛も、はねのけてくれる。そして、必ず、他の追随を許さない大きな実りをもたらしてくれる。
」(185頁)

これは、見城さんの言葉です。

最初は、みんな1人だけで走ってきたわけです。

1歩目、2歩目は、自分の足で歩く。

5歩目まで来れば、周りが助けてくれるようになるのです。

愚直さは人を動かす、ということがよくわかります。

仕事に熱狂できるということは、とても幸せなことです。

仕事に熱狂している人の周りには、仕事に熱狂している人たちが自然と集まってきます。

類は友を呼ぶわけです。

こういう人たちは、「この人と付き合うと、おもしろそうだな。」と肌で感じます。

会話をする際の口調、雰囲気、内容等で、無意識に見分けているように思います。

このような人たちの大きな特徴として、人の悪口を言わない、後ろ向きな発言をしないという点があります。

「そんなこと、どうでもいいよ」と心の中で思っているのです。

自分がやろうとすることに対して、反対意見や批判的な意見が出ることもあると思います。

それらは、「なるほど。参考になります。」とひとまず受けとめますが、基本的にはスルーします。

自分の人生ですから、自分がやろうと決めたことをどんどんやればいいんじゃないでしょうか。

少しくらい反対意見が出るくらいがちょうどいいのです。

これからも仕事に熱狂していきたいと思います。

労働災害51(A市役所職員・うつ病自殺)事件

おはようございます。 また一週間が始まりましたね。今週もがんばっていきましょう!
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←土、日に、気仙沼に行ってきました

被災者の方を対象とした法律相談と相続のセミナーをやりました。

今後も定期的に行きたいと思います。

今日は、午前中、裁判が2件入っています。

うち1件は、労働事件です。

お昼は、スタッフ全員で食事をします。

午後は、静岡で裁判が1件、その後、富士の裁判所へ行き、労働事件の裁判です

その後、すぐに静岡に戻り、月一恒例のラジオ出演です。

夜は、税理士K山先生、先輩弁護士の事務所、うちの事務所でお食事会です

今日は4件裁判が入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、うつ病自殺と労災に関する最高裁判例を見てみましょう。

A市役所職員・うつ病事件(最高裁平成24年2月22日・労判1041号97頁)

【事案の概要】

Xは、A市役所の職員であった。

Xの遺族は、Xのうつ病発症およびこれに続く自殺が公務に起因するものであると主張し、公務外認定処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

第1審(名古屋地裁平成20年11月27日・労判1013号116頁)・・・うつ病自殺の公務起因性を否定
第2審(名古屋高裁平成22年5月21日・労判1013号102頁)・・・うつ病自殺の公務起因性を肯定
最高裁・・・うつ病自殺の公務起因性を肯定(上告棄却、上告受理申立て不受理)

【判例のポイント】

1 (第1審)・・・その判断は、平均的労働者ないしは当該職員と同種の公務に従事し遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する職員を基準として、勤務時間、職務の内容・質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害を発症させられる程度に強度の心理的負荷を受けたと認められるかを判断し、これが認められる場合に、次に、公務外の心理的負荷や個体側の要因を判断し、これらが存在し、公務よりもこれらが発症の原因であると認められる場合でない限りは相当因果関係の存在を肯定するという方法によるのが相当である。
Xは、量的にはもちろん、質的にも過重な事務を行ったとは認めがたいこと、B部長の指導は、直ちに不当なものとはいえないこと等からすると、Xのうつ病は、Xのメランコリー親和型性格、執着性格といった個体側の要因により大きな発症の原因があることが窺えるから、Xの公務とうつ病発症等との間に相当因果関係が存在するとは認められない

2 (第2審)・・・基本的には同種の平均的職員、すなわち、職場、職種、年齢及び経験等が類似する者で、通常その公務を遂行できる者を一応観念して、これを基準とするのが相当であると考えられるが、そのような平均的職員は、経歴、職歴、職場における立場、性格等において多様であり、心理的負荷となり得る出来事等の受け止め方には幅があるところであるから、通常想定される多様な職員の範囲内において、その性格傾向に脆弱性が認められたとしても、通常その公務を支障なく遂行できる者は平均的職員の範囲に含まれると解すべきである。
Xは、これまで経験したことのない福祉部門の部署であり、重要課題も多く抱えた児童課に異動となったのみではなく、当時の児童課には本件保育システムの完成遅れ、ファミリーサポートセンター計画の遅れなどの重要問題を抱えており、しかも、それは事前に知らされていたわけではなく、異動の後に事情を知らされ、課長としては早急に対応を迫られる問題であったこと、しかも、当時のXの上司は、パワハラで知られていたB部長であり、現実に、Xが児童課に異動後すぐに課別の検討課題についての報告書の提出やヒアリングを求められたり、ファミリーサポートセンター計画に関する文案についてB部長の決裁がなかなか得られず、Xの部下であり担当者であるD補佐に対して大きな声で厳しく非難するような事態が生じたことなどによる心理的負荷が重なり、そのために、Xは、平成14年4月下旬ころから同年5月6日の連休明けころまでの間にうつ病を発症したものであることが認められ、発症後も、管理職研修での事前準備が間に合わなかった不全感、本件ヒアリングにおけるB部長からの厳しい指導や指示などにより、さらに病状を増悪させるに至り、それにより、Xは、自殺するに至ったものと認められる。そして、上記心理的負荷は、平均的職員を基準としても、うつ病を発症させ、あるいは、それを増悪させるに足りる心理的負荷であったと認めるのが相当である

地裁と高裁で、事実認定が異なったために結論がひっくり返りました。

最高裁は、高裁の判断の維持したので、公務災害が認定されました。

労災や公務災害の裁判(に限りませんが)では、事実を丁寧に主張することが求められます。

結果、必然的に、記録の量が膨大になります。

裁判官に判決を書きやすいようにいろいろと工夫をしなければいけません。

本の紹介74 最強の「ビジネス理論」集中講義(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日も昨日に引き続き本の紹介です。
最強の「ビジネス理論」集中講義 ドラッカー、ポーター、コトラーから、「ブルー・オーシャン」「イノベーション」まで
最強の「ビジネス理論」集中講義 ドラッカー、ポーター、コトラーから、「ブルー・オーシャン」「イノベーション」まで

題名のとおり、有名どころのビジネス理論をコンパクトにまとめて説明している本です。

日本の例が多く取り上げられている点がいいです。

最初の1冊としても、いいと思います。

これまでにドラッカーさんやポーターさんの本を読んだことがある人でも、新しい発見はありませんが、参考になる点はあります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

多くの企業は、いったん顧客とはこういうものだと決めつけてしまうと、なかなかその価値観を変更することがむずかしくなります。このような場合、イノベーションの芽を摘みかねないので注意が必要です。
たとえば、調味料というのはおかずの味を引き立てるものという価値観を企業側がもっているかもしれません。このような価値観に捉われていては、いつまでも調味料はそのカテゴリーから飛び出してイノベーションを起こすことはできないでしょう。
」(171頁)

「食べるラー油」ですね。

そうきたか!と感心したのを覚えています。

なかなか固定観念のスイッチをオフにするのは難しいですよね。

この商品・サービスは、当然、こうあるべきだ、という「常識」を無視しなければいけません。

ラー油は、ぎょうざをタレに少しだけ入れるものだ、という「常識」(?)を無視することがスタートです。

弁護士業界でいうとどういうことになるでしょうかね・・・。

たとえば、「顧問契約では、相談事があろうとなかろうと、毎月、一定の顧問料が発生する」ということ。

たぶん、これって業界の「常識」ですよね。

これをいったん無視します(無視すると多くの法律事務所は相当困りますが(笑))。

そして、ひとひねりしてみます。

たとえば、自動車保険と同じように、相談事があまりない会社の場合、徐々に顧問料が減っていく、とか、

自動車保険の弁護士特約のように、ある保険に顧問弁護士特約をつけてみる、とか、

社長の誕生日の月だけ、顧問料を無料になる、とか、

顧問契約の内容を、法律相談だけでなく、考えられるあらゆる相談(税務、保険、医療等)にも応じられるようにする、とか、

顧問料を、訴訟費用に充当できるようにする、とか・・・

なんだかんだ出てきます。

これからの時代、ますますサービス内容は進化し、多様化していくのは間違いありません。

世の中にあるすべての仕事はサービス業ですよね。

サービス業に携わる人(=働いているすべての人)は、日頃から、「今のサービスをどのようにしたら、もっといいサービスになるのかな」と考えるくせをつけるべきだと思います。

ただ単にやるべきことをやることだけが仕事ではないと思います。

「もっといいサービスってないかな」と考えることこそが、仕事の楽しみにつな

本の紹介73 Business Model Generation(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書
ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

横に細長い本です。 本棚から飛び出してしまいます(笑)

45カ国の470人の実践者の発想、考え方が紹介されています。

内容、てんこもりです。 この内容で2500円は、すばらしいです。

じっくり読む本ですね。 速読をするような本ではありません。

この本では、ビジネスモデルを「どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的に記述したもの」と定義しています。

そして、ビジネスモデルを検討する際に、9つの構築ブロックを見ていきます。

9つの構築ブロックを「ビジネスモデルキャンバス」という1枚の表の中に落とし込んでいくわけです。

なかなか使いこなすには、時間がかかると思いますが、参考になります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

新しいアイデアを作り出す作業は、クリエイティブ系の人だけのものだと思われがちです。しかし実際には、組織全体から集められた多様な参加者が必要です。・・・多様性があれば、新しいアイデアを生み出し、議論し、選ぶことが容易になります。外部の人、ときには子どもでさえも、チームに加わることを考えてもいいくらいです。」(143頁)

今日、さまざまな異業種交流会が存在していますね。

1つくらい、みんなで頭をつかって、新しいビジネスモデルを考える会があっても、おもしろいのではないかと思います。

過去の武勇伝を聞くよりも、未来を語るほうが、僕は好きです。

せっかくさまざまな業界の方が集まるのであれば、いろいろな視点、思考方法を結集させて、1つの全く新しいアイデアを形にする会って、刺激的ではないですか?

そんな会があったら、参加してみたいですね。

賃金45(アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止条項による退職金不払いに関する裁判例を見てみましょう。

アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件(東京地裁平成24年1月13日・労判1041号82頁)

【事案の概要】

Y社は、外資系生命保険会社である。

Xは、Y社の日本支店において元執行役員として勤務していた。

Xは、Y社を退社後、競合他社へ転職したところ、本件競業避止条項により退職金を支給されなかった。

そこで、XはY社に対し、退職金の支払いを請求した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、3037万余円を支払え

【判例のポイント】

1 一般に、労働者には職業選択の自由が保障され(憲法22条1項)ことから、使用者と労働者の間に、労働者の退職後の競業についてこれを避止すべき義務を定める合意があったとしても、使用者の正当な利益の保護を目的とすること、労働者の退職前の地位、競業が禁止される業務、期間、地域の範囲、使用者による代替措置の有無等の諸事情を考慮し、その合意が合理性を欠き、労働者の職業選択の自由を不当に害するものであると判断される場合には、公序良俗に反するものとして無効となると解される。
そして、上記競業避止義務を定める合意が無効であれば、同義務を前提とする本件不支給条項も無効となる。

2 Y社は、優秀な人材が競合他社へ流出することを防ぐため、本件競業避止条項を置いたものであり、その背景には、Y社のノウハウや顧客情報等の流出を避ける意図があるものと認められる。
ところで、Y社の主張によれば、ここでいうノウハウとは、不正競争防止法上の営業秘密に限らず、XがY社業務を遂行する過程において得た人脈、交渉術、業務上の視点、手続等であるとされているところ、これらは、Xがその能力と努力によって獲得したものであり、一般的に、労働者が転職する場合には、多かれ少なかれ転職先でも使用されるノウハウであって、かかる程度のノウハウの流出を禁止しようとすることは、正当な目的であるとはいえない。また、不正競争防止法上の営業秘密の存在については、Y社は特に具体的な主張をせず、これを認めるに足りる証拠もない
また、顧客情報の流出防止を、競合他社への転職自体を禁止することで達成しようとすることは、目的に対して、手段が過大であるというべきである
証人Bの証言によると、むしろ本件においては、競合他社への人材流出自体を防ぐことを目的とする趣旨も窺われるところではあるが、かかる目的であるとすれば単に労働者の転職制限を目的とするものであるから、当然正当ではない
結局、本件競業避止条項を定めた使用者の目的は、正当な利益の保護を図るものとはいえない。

3 ・・・以上から、Xの退職前の地位は相当高度ではあったが、Xの長期にわたる機密性を要するほどの情報に触れる立場であるとはいえず、また、本件競業避止条項を定めたY社の目的はそもそも正当な利益を保護するものとはいえず、競業が禁止される業務の範囲、期間、地域は広きに失するし、代償措置も十分ではないのであり、その他の事情を考慮しても、本件における競業避止義務を定める合意は合理性を欠き、労働者の職業選択の自由を不当に害するものであると判断されるから、公序良俗に反するものとして無効であるというべきである
そして、上記競業避止義務を定める合意が無効である以上、同義務を前提とする本件不支給条項も無効であるというべきである。

Y社は、控訴していますが、おそらく控訴審でも結論は変わらないと思います。

顧客情報の流出防止を、競合他社への転職自体を禁止することで達成しようとすることは、目的に対して、手段が過大であるというべきである」という点は、会社側としては参考にすべきです。

職業選択の自由という憲法上の権利を制限することから、あまり過度な制限は、無効になってしまいます。

兎にも角にも事前に顧問弁護士に相談する仕組みを作っておくことがリスクヘッジにつながります。

本の紹介72 日本マクドナルド社長が送り続けた101の言葉(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
日本マクドナルド社長が送り続けた101の言葉
日本マクドナルド社長が送り続けた101の言葉

日本マクドナルドホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長兼CEOの原田さんの本です。

・・・長いです。 

原田さんは、現職の前は、アップルの日本法人社長と米本社副社長をされていた方です。

2つのマックを救った経営者だそうです。 うまいこと言いますね。

「原田さん、仕事が大好きなんだろうな」と、読んでいて思いました。 

仕事の好きさでは、僕も負けていませんが(笑)

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『お客様に新商品の開発のヒント(ニーズ)を聞いた時点で、すでに経営の姿勢とビジネスマンとしてのあり方を誤っている』と私は思っています。
ビジネスでは市場調査は大切です。しかし、調査(リサーチ)の結果を分析して、それを中心に戦略を決めるのが、果たしてビジネスの基本でしょうか。もちろん違います。ビジネスも『ひらめき』が大切です。市場調査や分析は、ひらめいた発想の『検証』にすぎません。
」(106頁)

『自ら市場のトレンドをつくり、社会に変革をもたらす』 これがビジネスの基本であり、醍醐味でもあります。ビジネスでの発想の原点は、『世の中のトレンドがこうなるからついていくぞ』というものではありません。・・・ビジネスの本質は、お客様の期待を超える商品を開発し、提供し続けることです。」(107頁)

同意見です。

原田さんにこのように言われるとすっきりします。

ゲーム理論でビジネスがうまくいくとはとても思えません。

まずは、これまでの経験に基づく「勘」や「直感」を信じるところからはじまるのだと信じています。

頭のいい人たちは、あれやこれや調査して検証してからでないと出発できないでしょうか。

僕のような凡人は、どんどん行動に移して、不都合が出てきたら、そこで修正する方が性に合っています。

正直なところ、実際にやってみないとわからないことだらけです。 

やる前に調査して検証しても、結局、想定外の問題が出てくるわけですから、だったら、どんどんやったら方がいい、という考え方です。

原田さんは、こうも言っています。

決定したらすぐ実行しろではなく、決定しなくてもいいからすぐ実行だ!」(175頁)

いい言葉ですね。

実行力こそ、命です。

賃金44(スタジオツインク事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職した従業員による時間外割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

スタジオツインク事件(東京地裁平成23年10月25日・労判1041号62頁)

【事案の概要】

Y社は、記録映画・テレビコマーシャル等の企画・制作等を業務とする会社である。

Xらは、Y社と雇用契約を締結して勤務し、インフォマーシャル制作業務に従事していた。

その後、Xらは、Y社を退職し、Y社に対し、在職中である平成18年10月から19年6月までの間に行った時間外・深夜・休日勤務に対する時間外・深夜・休日出勤手当および付加金などの支払いを求めた。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し約110万円、X2に対し約98万円を支払うように命じた。

【判例のポイント】

1 時間外手当等請求訴訟において、時間外労働等を行ったことについては、同手当の支払を求める労働者側が主張・立証責任を負うものであるが、他方で、労基法が時間外・深夜・休日労働について厳格な規制を行い、使用者に労働時間を管理する義務を負わせているものと解されることからすれば、このような時間外手当等請求訴訟においては、本来、労働時間を管理すべき使用者側が適切に積極否認ないし間接反証を行うことが期待されているという側面もあるのであって、合理的な理由がないにもかかわらず、使用者が、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な計算方法により労働時間を算定することが許される場合もあると解される。もちろん、前記のとおり、時間外労働等を行った事実についての主張・立証責任が労働者側にあることにかんがみれば、その推計方法は、当該労働の実態に即した適切かつ根拠のあるものである必要があり、推計方法が不適切であるが故に、時間外労働等の算定ができないというケースもありえようし、逆にいえば、労働実態からして控え目な推計計算の方法であれば、合理性があると判断されることも相対的に多くなると思われる

2 Y社においては、従業員の労働時間を把握する資料として従業員にタイムカードを打刻させるほかに、月毎に月間作業報告書を作成させていたところ、少なくとも、本件訴訟係属前の平成21年1月ころまでは、本件請求期間中に係るXらの月間作業報告書は存在していたにもかかわらず、Y社がそれを破棄したなどとして提出しないことが推認されるのは、既に指摘したとおりである。月間作業報告書は労働時間管理に関する書類であって、Y社が主張するように会計処理が終わり次第、随時廃棄するという性質の書類ではない上、Y社は平成20年に別件訴訟を提起し、両者間に紛争が生じていたことからすれば、仮に他の従業員の月間作業報告書を廃棄する必要があったとしても、Xらの同報告書については証拠を保全するために残しておくのが通常であって、そのような状況下で廃棄したというのは著しく不自然である。このように、Y社において、労働時間管理のための資料を合理的な理由もなく廃棄したなどとして提出しないという状況が認められる以上、公平の観点から、本件においては、推計計算の方法により労働時間を算定する余地を認めるのが相当であると解される

3 Xらが従事していた業務は、インフォマーシャル制作業務という性質からしても、プロデューサー、ディレクターというその役割に照らしても、それ自体、相当な時間と作業量を要する業務であったと推認される。また、Xらは、同時並行の形で、複数のインフォマーシャル制作業務を担当することも多い上、仮編集や本編集といった過程で徹夜作業を行うことも頻繁にあるなど、そのスケジュールに照らし相当に多忙であったと認められる。さらに、当時、Xらは、自らが時間外手当の支給を受けうる立場にないと認識しており、始業時刻が早いときあるいは終業時刻が遅いときだけ、意図的にタイムカードの打刻をしたとは考えにくい上、Xらが、Y社側から出勤時刻が遅いことを注意されていた状況もなかったことからすれば、出勤時刻が遅い日にタイムカードの打刻を怠っていたとも推認できないのであって、Xらのタイムカードに打刻のある日時が、全体の平均値から逸脱しているということもできない。したがって、Xらの主張にかかる上記推認方法は、基本的に合理的な方法であると認めるのが相当である。
結果的にも、X1については、時間外労働が月30時間台から60時間台、深夜労働が10時間以内に収まり、X2についても、時間外労働が月30時間台から60時間台、深夜労働が多いときでも月10時間台に収まっているものであるから、Xらの業務実態に照らすと、むしろ控え目な推計であるというべきである(Xらが徹夜作業を行っていることを考慮に入れれば、実際の労働時間、とりわけ深夜労働はもっと多い可能性が高い。)。

上記判例のポイント1は非常に重要です。是非、しっかり理解しておいて下さい。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。