Daily Archives: 2012年3月23日

有期労働契約26(エヌ・ティ・ティ・コムチェオ事件)

おはようございます。 

さて、今日は期間雇用の営業社員に対する雇止めの成否に関する裁判例を見てみましょう。

エヌ・ティ・ティ・コムチェオ事件(大阪地裁平成23年9月29日・労判1038号27頁)

【事案の概要】

Y社は、NTTコミュニケーションズ株式会社の100%子会社で労働者派遣事業の他、インターネット検定の運営や電気通信サービスに関する販売受託等を行っている。

Xは、平成13年4月から、A社との間で期間3か月の労働契約を締結・更新していた。

14年5月、A社の会社分割により同社の業務を引き継いだB社にXとの労働契約も引き継がれ、以降、期間3ヵ月の労働契約を17回更新した。

平成18年7月、B社がCに吸収合併され、それに伴ってXの労働契約もC社に承継された。

同年9月以降、XはC社との間で労働契約を締結し、以降10回更新された。

その間、19年12月時点でC社とXは労働者派遣契約を締結し、20年1月からY社勤務後の就労場所と同じ勤務地で勤務した。

Xは、21年1月、C社から同年3月末をもって派遣契約を終了する旨の告知を受けた。

Y社は、平成21年2月、Xを含むC社の従業員に対し契約社員の募集を行った。XはC社の同僚とともにこれに応募し、同年4月からY社との間で期間6ヵ月の有期契約を締結し、同年10月に22年3月末まで更新された。

平成21年4月以降、Xは、データ入力の遅れや行動計画表の未提出があった。また、同年11月、Y社はXの旅費の不正請求や不要な時間外勤務の疑いを持ち、Xの行動を監視したところ、Xの報告に不備があり、報告どおりに取引先を訪れていないことが判明した。

Xは、平成22年2月、同年3月末の契約満了後の更新はしない旨の説明を受け、退職予告通知書、雇止め理由説明書の交付を受けた。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

未払賃金額は、雇止め前の賃金額を基礎にし、インセンティブ給を3分の1として算出した額の1ヶ月当たりの平均額を、雇止め後の賃金月額とするのが相当である

【判例のポイント】

1 確かに、Y社は、Xとの間で本件労働契約を締結したのち、1回、労働契約を更新し、同更新時、事前に、Xに対して更新意思の確認をしている上、更新後の雇用契約書も取り交わしている。
しかし、Xが従事していた業務内容は、コミュニケーションズの商品であるフリーダイヤルやナビダイヤルの営業で恒常的な業務であって、Y社自身もX採用時、Xの関西以前での業務経験を踏まえて採用していること、X更新も同労働契約が更新されるとの認識を持っていたこと、同更新時取り交わした契約書のうち、X保持分については作成日付も抜け、Xの記名捺印もなく厳格になされたことが窺えないことがある。以上の事実を踏まえると、Xは、本件雇止め当時、同労働契約が更新されるとの合理的期待を有していたことが推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすると、Xに対する本件雇止めには解雇権濫用法理が類推適用されるとするのが相当である。

2 Xに対して一定の責任を問う余地は十分あるが、本件雇止めが正当化されるまでの事由があるか、疑問といわざるを得ず、その他、同雇止めを正当化させるに足る事由があると認めるに足る証拠はない。
そうすると、本件雇止めは、濫用があり無効といわざるを得ない。

3 本件雇止めが無効とすると、原則として、期間を含めて同雇止め時までの労働条件で更新されたと解するのが相当である。
Xが、労働契約の更新が認められて平成22年4月以降勤務を継続したとしても、同更新時の新たな契約によって上記改正されたインセンティブ給制度の適用を受けるため、同更新後受給できるインセンティブ給は同改正後のインセンティブ給制度の範囲内であるというべきである

本件では、裁判所は、雇止めの合理性を判断するにあたり、データ入力の送れや個人行動計画表の未提出、虚偽報告と旅費の不正請求を認定しつつも、個人成績に特段問題があるとは認められないこと、顧客から一定の評価を受けていること、旅費の不正請求が認められるものの、その不正受領額は2190円であること、データ入力ではY社から指導を受けているものの、処分までは受けていないことを指摘し、雇止めは濫用であると判断しています。

こういうケースは、よくありますね。

従業員側としても、全く落ち度がないわけではない場合であっても、解雇や雇止めの効力が否定されることはよくあります。

結局、総合判断なので、解雇や雇止めをする時点で、間違いなく有効になるとか無効になるという判断はほとんど不可能だと思います。

会社としては、「できるだけ慎重に行う」というのが限界だと思います。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。