Daily Archives: 2012年3月16日

解雇65(ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン事件)

おはようございます。 

さて、今日は、業績悪化等を理由とする退職勧奨と解雇の相当性に関する裁判例を見てみましょう。

ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン事件(東京地裁平成23年9月21日・労判1038号39頁)

【事案の概要】

Y社は、アメリカ合衆国を本拠とし、世界的に広告事業を展開するJWTワールドワイドの日本法人である。

Xの職務内容は、広告表現の企画と制作を担当するクリエイティブ部門において、クリエイターを統括するチームリーダーであった。

Y社は、平成18年3月、Xに対し、Y社の業績悪化およびXの勤務成績不良を理由として退職勧奨をし、同年7月頃からXを仕事から外した。

Xは、東京地裁に対し、Y社を相手方として、労働審判、仮処分、本案訴訟を申し立て、Xの請求を全て認める旨の判決を得た。

Y社は、その後も、Xに対し退職勧奨を行ったが、Xは、退職勧奨には応じられない旨を回答した。

Y社は、平成21年10月、Xに対し、解雇する旨の通知をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効

慰謝料として30万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 被告は、あくまで、人的理由と経済的理由が競合した普通解雇であり、仮に、本件が整理解雇と呼ばれる類型に該当する事案であるとしても、いわゆる「整理解雇の4要件(要素)」を本件に適用するのは相当でないと主張している。
当裁判所としては、整理解雇とその他の普通解雇とでは、相当程度性質が異なり、その判断要素ないし判断基準も異なる以上、基本的には本件解雇の有効性を立証すべき責任を有する被告の主張の力点の置き方を尊重することとし、まずは一般的な普通解雇の成否を検討することとし、整理解雇については予備的な主張と位置づけるのが適切であると思料する。なお、整理解雇の判断に及んだ場合の判断枠組みとしては、いわゆる要素説の観点から検討するのが相当であり、被告が指摘する事案の特殊性については、この判断枠組み自体を否定するほどの事情とはなりえず、あくまで諸要素の検討において考慮する余地があるにとどまるというべきである

2 Y社は、X側に対し、Y社の経営状況や本件退職勧奨の理由につき、一応の説明をしていることが認められるが、このうち、経営状況の説明については、本件訴訟において書証として提出された以上の説明はしていないものと推認される。また、Y社は、前件訴訟により、Xに関する雇用契約上の地位確認等につきほぼ全部敗訴の判決が確定したにもかかわらず、その後も約2年間にわたってXの出勤を許さず、したがって何ら成果を挙げる機会も与えられないまま、再び退職勧奨をするに至ったことが認められるのであり、これは、解雇の相当性に大きな疑問を生ぜしめる事情というべきである。

3 一方、整理解雇についてみると、・・・人員削減の必要性については、・・・こうした事情からは、本件解雇が、企業の収益性を回復すべく、組織再編等に伴う企業の合理的運営上の必要性から実施された人員削減策であるということはできるが、それを超えて、Y社の経営状況が客観的に高度の経営危機下にあることや、さらにY社が倒産の危機に瀕していることを認めるには足りない
また、解雇回避措置の相当性については、人員削減の必要性につき、企業の合理的運営上の必要性という程度にとどまるものと認定せざるを得ない以上、相当高度な解雇回避措置が実施されていなければならないと言うべきところ、本件で実施されたと評価できる解雇回避措置は、希望退職者を募集したことに加えて、せいぜい不利益緩和措置としての退職条件の提示を行ったという程度であって、甚だ不十分といわざるを得ない。
さらに、手続的相当性についても、必ずしも十分ではなく、また、本件解雇に至るまでの紛争の経緯については、本来、前件判決後にXを実際にY社で勤務させるなどして、X・Y社間の関係を一旦は原状に戻すという手続を踏むことが求められていたというべきであり、広い意味においては、これも本件解雇に至る手続的相当性を揺るがす大きな事情と評価するのが相当である。
結局、以上の要素を総合考慮すると、本件解雇は、整理解雇としても有効であるとは認められない。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。