おはようございます。
さて、今日は、60歳定年後の定時制乗務員の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。
鈴蘭交通事件(札幌地裁平成23年7月6日・労判1038号84頁)
【事案の概要】
Y社は、タクシー事業を営んでいる会社である。
Xらは、平成21年12月当時、定時制乗務員としてY社に勤務していた。
定時制乗務員に対する給与は、稼働率の50%という完全な歩合給であった。
Y社は、平成21年12月、書面をもって、Xらに契約期間満了を理由に雇止めとする旨通知した。
なお、X1は、正社員として14年間勤務した後、平成18年11月に満60歳の定年となったが、改めて定時制乗務員として労働契約を締結し、2回の契約更新を経ていた。
Xらは、本件雇止めは解雇権濫用法理により無効であると主張し争った。
【裁判所の判断】
雇止めは無効
【判例のポイント】
1 Y社が本件雇止めにおいて前提とした必要な人員削減数は、平成21年12月中旬時点での乗務員数と、その時点での車両数を20台減車した場合の必要な乗務員数を比較して決せられたものであり、乗務員の自然減が一切考慮されていないことは明らかである。
しかして、本件事業譲渡による10台の減車のみでは、遊休状態にあった営業車を削減すれば足り、本件雇止めの必要は全くない。そして、新法減車は、平成21年12月の段階では減車の時期や台数は具体化していなかったのであるから、Y社としては、協議会での議論の推移や他社の動向、例年25名ほども出る自主的な退職者の状況を勘案しつつ、減車の時期と台数が具体化した段階で、必要な措置をとれば足りたはずである。平成21年12月の段階で、しかも自発的な退職者が出ることを一切考慮しないまま行われた本件雇止めは、必要性と合理性を欠いていたものといわざるをえない。
2 現に、Y社においては、本件雇止めが完了した平成22年12月までに、24勤の乗務員22名が退職し、24勤者換算で29.5名が不足する状態になったのであり、結果的に見れば本件雇止めは、少なくとも余剰人員対策としては無意味であったことになる。この点、証拠中には、実際の自然退職者数がY社の想定より多かったとするものがあるが、Y社は、もともと自然数を全く考慮しなかったのであり、採用できない。
3 なお、乙第68号証によれば、事業譲渡と新法減車で17台の削減をした平成22年4月の段階では、遊休車両が0.5台となって、乗務員の過不足がほぼなくなり、その時点では本件雇止めが功を奏した形にはなっている。しかしながら、本件雇止めに伴い、Y社は乗務員募集を停止し、年末年始の繁忙期を、遊休車を抱えたまま、増員をしないばかりか、かえってXらを雇止めにすることで機会損失を増加させたのであり、札幌におけるタクシー事業の閑散期である4月に遊休車を最小化したとしても、これをもって本件雇止めの結果が合理的であったと評価することはできない。
4 以上によれば、本件雇止めは、利益の向上の見込みがあるとした判断に合理的裏付けが欠けていた上、新法減車の時期や台数が不確定な中、自然退職者が出ることを一切考慮せずに行われたものであり、必要性と合理性を欠くものであったといわざるをえない。これは、解雇であれば解雇権の濫用に相当するものである。
5 Xらの労働契約が期間1年の有期雇用であるとのY社の主張を前提としても、解雇権濫用法理の類推によって、XらとY社との契約期間満了後における法律関係は、従前の労働契約が更新されたものと同様のものとなる(最判昭和61年12月4日判決)。このことは、本件雇止め後、再度契約期間が満了した後においても同様と解される。したがって、XらとY社とは、定時制乗務員としての地位を現在まで継続して有していることとなり、本件雇止め以降の得べかりし賃金についても、労働の提供はしていないものの、これは無効な本件雇止めをしたY社において責めに帰すべき事由があるので、これを請求することができる(民法536条)。
上記判例のポイント1や4を読むと、結論としてはこうなりますね。
有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。
事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。