おはようございます。
さて、今日は、賃金減額の合意に関する裁判例を見てみましょう。
医療法人共生会事件(東京地裁平成23年4月28日・労判1037号86頁)
【事案の概要】
Y社は、医療法人であり、北海道にG病院を開設している。
Xは、医師である。 Xは、平成21年8月、Y社を退職した。
Y社は、Xに対し、平成19年9月分から平成20年5月分の賃金として、各月120万円を支払った。
Y社は、Xに対し、平成20年6月分から平成21年8月分の賃金として、各月75万円を支払った。
Xは、Y社に対し、平成20年6月分から平成21年8月分までの各月120万円の賃金と支払い済み額75万円との差額を請求した。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Y社は、平成20年6月、E及びDをして、Xの賃金を120万円から75万円に減額することの申入れを行い、Xは、その後、Y社から、同月分の賃金からXが退職する平成21年8月分の賃金まで一貫して月額75万円の支払を受け、その間、これらの賃金の支払額について、Y社に何ら異議を述べていないことが認められる。このことからすると、Xは、同日ないしその後同日に近い日に、上記申入れを受け容れたものと推認することができる。
2 この点について、Xの妻の陳述書等には、Xらは、賃金減額を承諾したことはなく、賃金減額に合意しないと
解雇される不安があり、退職後に請求をしようと考え、我慢することにした旨の陳述等がある。
しかし、この陳述等は、上記事実経過に照らして不自然であり、また、Xの雑記帳をみても、上記陳述等を裏付けるような記載はなく、かえって、同雑記帳の記載内容は、賃金減額を受け入れた後のXの気持ち等が書かれたものと解されることからすると、にわかに信用することができない。
以上により本件賃金減額合意の成立を認めることができる。
本件では、賃金減額の合意の有無が問題となっています。
Xは、Y社に対し、賃金減額について「何ら異議を述べていない」ことから賃金減額の申入れを受け入れたと判断されています。
実際には、いろいろな事情があったのだと思います。
ただ、それが証拠として残っていないというだけのことです。
X側が、錯誤無効や詐欺取消しなどの主張をしていることからもわかります。
会話が録音されていれば、状況は変わったでしょうか・・・?
兎にも角にも、賃金減額事案は、事前の対応を誤るとたいてい無効となります。必ず事前に顧問弁護士に相談をしましょう。