解雇63(河野臨床医学研究所事件)

おはようございます。

さて、今日は、職員の非違行為等に対する懲戒解雇と割増賃金に関する裁判例を見てみましょう。

河野臨床医学研究所事件(東京地裁平成23年7月26日・労判1037号59頁)

【事案の概要】

Y社は、クリニックや研究所を有する文部科学省・厚生労働省認可の財団法人である。

Xは、平成2年、Y社と雇用契約を締結し、13年から電算課における課長心得という地位にあった。

Y社は、平成20年12月、Xの行為につき、(1)無断欠勤、緊急の欠勤に当たり速やかな連絡がないこと、(2)私物パソコンを大量に持ち込み私的行為を行ったこと、(3)病院事務部のAに対するパワハラ、(4)職制の指示命令に従わないこと、(5)以上の行為について反省がないこと、再三の繰り返しがあり悪質であることにより懲戒事由に該当するとして、懲戒委員会を開催し、弁明の機会を設けた上で、Xを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

時間外・休日・深夜手当333万余円の支払いを命じたが、付加金の支払いは命じなかった。

【判例のポイント】

1 使用者による懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由該当事由が存する場合であっても、具体的状況に照らし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になる(労働契約法15条)。

2 Xについては、(1)本件穿孔行為、(2)上司の承諾を得ない欠勤、(3)新医療システム導入委員会における議場からの不退出、(4)Aに対するパワーハラスメントというべき言動という懲戒事由が認められるところ、既にみたように、(1)は、Y社所有建物の躯体部分に損傷を加えるものでそれ自体重大な非違行為というべきであるし、(4)についても、後輩職員に対し心ない攻撃を加え、精神的に多大なダメージを与え長期間の欠勤に追い込んだものであって、重大な非違行為といえる。また、(2)及び(3)についても、それら自体で直ちに懲戒解雇に該当するとまではいえないにしても、Xが事務長から繰り返し注意を受けていたにもかかわらず、これらの行為に及んだことからすれば、これらの行為も軽視することはできない規律違反行為であるといえる
以上を総合すると、上記各事実を懲戒事由とする本件懲戒解雇には合理的な理由があるというべきであるし、それが社会通念上相当性を書くということもできない。

3 Y社は、Xに時間外労働手当を支払ってこなかったが、他方で、Xが管理監督者とはいえないものの、Y社がXに職務手当として月額5万円を支給していたほか、休日ないし深夜労働についてXから求めがあれば承認し、これに対する手当を支払っており、その額は、期間累計で約260万円、月平均でみれば約10万円に上るという事情がある。
また、本件請求期間にかかるXの時間外労働が相当長期間に及んでいることは事実であるが、Xが、少なくともY社から積極的に残業を強いられた形跡はない(X自身もそのような供述はしていない。)。Xは、特に上司である事務長との確執があって意思の疎通を欠いていたところ、Xが必要のない残業を行っていたとは言わないまでも、両者間で業務に関する十分な打ち合わせがなされていれば、そこまで長期間の残業を行う必要性はなかった可能性も高い。
さらに、Y社は、品川労働基準監督署監督官の調査を受けた際にも、Xが管理監督者であるとの認識を示し、
同監督署監督官も一応の理解を示していた

このような事情を総合的にみると、Y社の時間外・深夜・休日手当の不払が付加金の支払を命ずる必要があるといえる程度に悪質であるとはいえない。したがって、本件においては、Y社に対し付加金の支払いを命じないこととする。

本件では、懲戒解雇が有効であると判断されました。

Y社側が提示したXの懲戒事由は多岐にわたりますが、数が多いから懲戒解雇が有効になるというわけではありません。

軽微な懲戒事由をたくさんかき集めても、解雇は有効にはなりません。

また、本件では、300万円以上の未払残業代の支払を命じました。

Y社は明確に残業をするように命じていませんが、黙示の業務命令に基づくものであると認定されています。

会社が、従業員の残業を認識していながら禁止していないと、黙示の業務命令と判断される可能性があります。

付加金については、諸事情を考慮して、今回はなしとなりました。

ラッキーでしたね。

仮に付加金の支払いを命じられても、Y社とすれば、控訴して、その間に、未払残業代を全額支払えば、付加金の支払は免れられます。

付加金の支払いを命じられたら、とりあえず控訴することをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。