おはようございます。
さて、今日は、団交応諾義務に関する最高裁判例を見てみましょう。
住友ゴム工業事件(最高裁平成23年11月10日・労判1034号98頁)
【事案の概要】
X組合には、Y社の元従業員A、B及び元従業員の妻Cが加入している。
X組合は、Y社に対し、(1)会社における石綿使用実態の明確化、(2)退職労働者全員に対する健康診断の実施、(3)定年後の老妻認定者に対する企業補償制度の創設を求めて団交の開催を申し入れた。
Y社は、X組合からの団交の申し入れに対し、X組合には、Y社と雇用関係にある労働者は含まれていないことを理由として申入れに応じなかった。
そのため、X組合は、労働委員会に対し不当労働行為の救済申立てを行ったが、労働委員会は救済申立てを却下する旨の決定をしたため、X組合はその取消しを求めて訴訟を提起した。
【裁判所の判断】
Y社の上告を棄却、上告受理申立も不受理
→Y社の団交応諾義務を肯定
【判例のポイント】
(一審判決)
1 労組法7条の目的は、労働者の団結権を侵害する一定の行為(不当労働行為)を排除、是正して正常な労使関係を回復することにある。
2 同条2号にいう「使用者が雇用する労働者」とは、基本的に、使用者との間に現に労働契約関係が存在する労働者をいうと解されるが、労働契約関係が存在した間に発生した事実を原因とする紛争(最も典型的なものは、退職労働者の退職金債権の有無・金額に関する紛争である。)に関する限り、当該紛争が顕在化した時点で当該労働者が既に退職していたとしても、未精算の労働契約関係が存在すると理解し、当該労働者も「使用者が雇用する労働者」であると解するのが相当である。
3 本件では、A及びBは、労働契約関係が存在した間に業務により石綿を吸引したことにより健康被害が発生している可能性があると主張し、Y社に対し、石綿の使用実態を明らかにすることとともに、石綿による被害が生じている場合にはその補償を求めているのであり、両名の心配はもっともであるから、本件団交要求は、A及びBの在職中に発生した事実に起因する紛争に関してされたものであって、両名が加入しているX組合は「使用者が雇用する労働者」の代表者であると解される。
4 ただし、死亡した元従業員については、同人がX組合に加入した事実はないから、その遺族であるCがX組合に加入しているとしても、Y社は、Cの代表者としてのX組合が団体交渉を求めても、これに応じる義務を負わない。
(二審判決)
1 労組法7条2号にいう「使用者が雇用する労働者」とは、原則的には、現に当該使用者が雇用している労働者を前提としているが、雇用関係の前後にわたって生起する場合(雇い入れが反復される臨時的労働者の労働条件を巡る紛争等)においては、当該労働者を「使用者が雇用する労働者」と認めて、その加入する労組と使用者との団交を是認することが、むしろ労組法上の趣旨に沿う場合が多い。
2 使用者がかつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争として、当該紛争を適正に処理することが可能であり、かつ、そのことが社会的にも期待される場合には、元従業員を「使用者が雇用する労働者」と認め、使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当であるといえる。
3 その要件としては、(1)当該紛争が雇用関係と密接に関連して発生したこと、(2)使用者において、当該紛争を処理することが可能かつ適当であること、(3)団体交渉の申入れが、雇用期間終了後、社会通念上合理的といえる期間内にされたことを挙げることができる。そして、上記合理的期間は、雇用期間中の労働条件を巡る通常の紛争の場合は、雇用期間終了後の近接した期間といえる場合が多いであろうが、紛争の形態は様々であり、結局は、個別事案に即して判断するほかはない。
内容的にも非常に参考になるものですね。
高裁が示した判断基準(上記二審判決の判例のポイント3)は重要ですね。
組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。