Daily Archives: 2011年12月6日

賃金39(技術翻訳事件)

おはようございます。

さて、今日は、賃金減額の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

技術翻訳事件(東京地裁平成23年5月17日・労判1033号42頁)

【事案の概要】

Y社は、翻訳、印刷及びその企画、制作等を行う会社である。

Xは、昭和56年、Y社に採用され、以来、Y社の制作部において、翻訳物の手配、編集等を行ってきたが、平成21年9月、Y社を退職した。

Y社は、会社の業績悪化を理由に、Y社の役職者全員を対象として、平成21年6月分以降の報酬ないし賃金を20%減額することを代表者会議等において提案し、実際にXの賃金は、同月分以降20%減額支給された。

本件賃金減額に際し、就業規則又は給与規程の改定が行われた事実はない。

【裁判所の判断】

本件賃金減額は無効

本件退職は、自己都合による退職である

【判例のポイント】

1 賃金の額が、雇用契約における最も重要な要素の一つであることは疑いがないところ、使用者に労働条件明示義務(労働基準法15条)及び労働契約の内容の理解促進の責務(労働契約法4条)があることを勘案すれば、いったん成立した労働契約について事後的に個別の合意によって賃金を減額しようとする場合においても、使用者は、労働者に対して、賃金減額の理由等を十分に説明し、対象となる労働者の理解を得るように努めた上、合意された内容をできる限り書面化しておくことが望ましいことは言うまでもない。加えて、就業規則に基づかない賃金の減額に対する労働者の承諾の意思表示は、賃金債権の放棄と同視すべきものであることに照らせば、労働基準法24条1項本文の定める賃金全額払の原則との関係においても慎重な判断が求められるというべきであり、本件のように、賃金減額について労働者の明示的な承諾がない場合において、黙示の承諾の事実を認定するには、書面等による明示的な承諾の事実がなくとも黙示の承諾があったと認め得るだけの積極的な事情として、使用者が労働者に対し書面等による明示的な承諾を求めなかったことについての合理的な理由の存在等が求められるものと解すべきである

2 Y社の退職金規程によると、退職金の支給率は、退職事由によりA、Bの2種類に区分され、会社都合の退職、在職中の死亡、業務上の負傷等による退職、定年退職の場合はA、それ以外の場合はBを適用するものとされているところ、そこでいう「会社の都合で退職したとき」とは、解雇、使用者の退職勧奨による退職等、使用者側の意向ないし発案に基づく退職を意味するものと解するのが相当である
本件退職は、確かにY社による本件雇用条件通告を契機とするものではあるが、最終的には、基本給の減額により退職金額が減額することを避けて、従来の基本給に基づいた比較的高額の退職金を得るという経済的目的に加え、「こういった環境にいたくない」、「一刻も早く辞めたい」というX自身の意思に基づく退職、すなわち自己都合による退職であったと認めるほかないというべきである。

3 Xは、Y社が本件賃金減額に引き続いて、本件雇用条件通告をしたことによりXは退職を余儀なくされたものであってこうしたY社の行為は、Xに対する不法行為に該当する旨を主張する。
そこで検討すると、本件賃金減額及び本件退職に関する経緯を総合すれば、Y社は、業績が近年下降線をたどる中、本件雇用条件通告により人件費を抑制することによって利益率を向上するとの意図を有していたものと見られるが、人件費の抑制を目指した労働条件の切下げ自体は、当事者の合意に基づくなど適法な方法で行われる限りは、許容されるというべきであるし、労働条件の切下げを労働者に提案する行為についても、その方法、態様が適法なものである限り、労働者に対する不法行為に該当しないことは言うまでもない

会社側としては、賃金を減額する際、上記判例のポイント1は参考になると思います。

要するに、そう簡単には賃金減額はできないよ、ということです。

ちゃんと準備をしなければ、裁判で争われた場合、たいてい負けることになりますので、顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。