おはようございます。
さて、今日は、出張旅費不正請求と懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。
NTT東日本(出張旅費不正請求事件)(東京地裁平成23年3月25日・労判1032号91頁)
【事案の概要】
Y社は、電話等の事業会社である。
Xは、昭和57年4月、Y社に入社し、その後関連会社に出向して、営業担当の課長代理を務めていた。
Y社は、平成20年5月、Xに対し、Xが日帰出張旅費を不正に請求して私的流用をしたという理由で懲戒解雇処分をした。
なお、Xは、Y社に対し、旅費を申請して受給しており、平成16年4月から平成19年9月までの42か月間に、171万2560円の旅費を申請し受給した。
Xは、本件懲戒解雇について、旅費を不正に請求して私的流用をしたことはなく懲戒事由が存在しないこと、弁明の機会を一切与えられずに私的流用の事実の自白を強要されたことなどから無効であると主張し争った。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は有効
【判例のポイント】
1 Xは、トップクラスの営業成績を上げて、Y社の利益によく貢献しており、そのために相当の努力を重ねていたものと考えられる。その努力のひとつとして、Xは、顧客を訪問する際、いつも当該顧客に関する資料が整理されたキングファイルを携行していたが、これは非常に分厚く重いものであったから、1日に複数の顧客を訪問する場合、オフィスと各顧客との間をそれぞれ往復する必要があったと主張する。
しかし、通信機器販売の営業活動にはさまざまな段階や場面があるはずであり、いつも分厚く重いキングファイルを携行して各顧客との間を往復する必要があったなどというのは、それ自体説得力に乏しいものといわざるを得ない。G証人の陳述書の記述や法廷での証言には、Xが顧客との間を頻繁に往復していたという部分があるが、この証言等に裏付けはないし、そもそも、Xの主張は、単に携行したことを強調するだけで、ファイルを顧客先でどのように活用したかなど、携行の目的や効果について説明をしておらず、合理的なものとはいえない。
2 Xは、70万円を上回る額の旅費の過大請求をして、その私的流用をしたものと認めることができる。この行為は、就業規則76条1号、7号、11号に該当するものというべきである。したがって、本件懲戒解雇は、懲戒事由の存在が認められる。
3 認定事実によれば、Xは、始末書や旅費請求の内訳の作成過程を通じて、私的流用をしたか否か、営業上の費用の額はいくらか、その内訳はどのようなものかなどについて、弁明の機会を付与されていたことが明らかである。
Xは、J課長がXに対し、事実を認めて謝罪しなければ懲戒解雇になると脅したり、始末書を提出すれば処分が軽くなるなどという利益誘導をしたりして、旅費の私的流用の自白を強要し、その旨の始末書を提出させたなどと主張するが、このような事実を認めるべき証拠はない。
上記判例のポイント1の事実認定は、原告側にとっては納得のいかないものでしょう。
原告は控訴しています。
一般的に、経費の私的流用に対する処分は重くなります。 犯罪なので。
会社とすれば、しっかりとした調査と適正な手続をとることに留意する必要があります。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。