退職勧奨5(昭和女子大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。

昭和女子大学事件(東京地裁平成4年2月6日決定)

【事案の概要】

Y社は、学校法人であり、小、中、高校、短大、大学、幼稚園を設置している。

Xは、昭和52年4月、Y社短大国文科専任講師として採用され、その後、短大助教授、同教授に任用された。

Xは、同じ科の助教授と学生に対する指導上の意見に相違を生じ、このことにつき右助教授からY社の学長に対し、Xに非がある旨の報告がなされたため、Xは、学長から呼び出され、さまざまな事柄について叱責を受けた。

Xは、これらの事項はいずれも事実無根あるいは不当な言い掛かりであると考えたが、その場では十分な弁明の機会は与えられなかった。

Xは、学科長から、学長に謝罪するよう言われたが、当初、謝罪する必要性がないとしてこれに応じなかった。

その後、Xは、本気で謝罪している姿勢を見せるため反省の色が最も強く出る文書にした方が良いと判断して、実際には退職する意思はなく勤務継続の意思を有していたが、「退職願」を作成し、学長に提出した。

席上、Xは、「勤務の機会を与えて欲しい」と述べた。

本件では、当該「退職願」の効力が問題となった。

【裁判所の判断】

退職願は、心裡留保により無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの平成3年3月の退職願を同年5月に受理することにより退職の合意が成立し、右合意に基づき同年9月末日に退職を発令したものである旨主張する。しかしながら、右認定事実によれば、Xは反省の意を強調する意味で退職願を提出したもので実際に退職する意思を有していなかったものである。そして、右退職願は勤務継続の意思があるならばそれなりの文書を用意せよとの学長の指示に従い提出されたものであること、Xは右退職願を提出した際に学長らに勤務継続の意思があることを表明していること等の事実によれば、Y社はXに退職の意思がなく右退職願による退職の意思表示がXの真意に基づくものではないことを知っていたものと推認することができる。
そうするとXの退職の意思表示は心裡留保により無効であるから(民法93条ただし書)、Y社がこれに対し承諾の意思表示をしても退職の合意は成立せず、Xの退職の効果は生じないものというべきである。

2 本件疎明資料によれば、Xは、妻、子3名(19歳、18歳、15歳)及び養母を扶養しており、Y社から得る資金を唯一の生計の手段としてきたことが一応認められる。そうすると、Xには賃金の仮払いの必要性があるところ、本件疎明資料によって一応認められる諸般の事情を考慮すると月額60万円の範囲で平成3年12月から平成5年1月までの間に限り仮払いを命じる限度で保全の必要性があると認めるのが相当である。

なかなかすごい事件ですね。

結局、裁判所は心裡留保を理由に退職の意思表示を無効と判断しました。

退職勧奨を注意深くやらないと、このように無効と判断される可能性があること、また、場合によっては、不法行為として損害賠償請求をされる可能性があることを頭に入れておかなければなりません。事前に顧問弁護士に相談することが求められます。