派遣労働5(日本化薬事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働者と派遣先会社間の労働契約の成否と雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

日本化薬事件(神戸地裁姫路支部平成23年1月19日・労判1029号72頁)

【事案の概要】

Y社は、平成16年7月、A社との間で、業務委託基本契約を締結し、同社に対し、姫路工場で生産する製品の製造業務を委託した。そして、Y社は、上記基本契約に基づき、平成17年6月、A社との間で、Xにつき、自動車安全部品の製造及び付帯業務に関する業務委託契約を締結し、同契約は平成18年10月まで更新・継続された。

Y社は、平成18年8月、A社との間で、労働者派遣基本契約を締結し、業務委託から労働者派遣に切り替えた。そして、Y社は、上記基本契約に基づき、同年10月、A社との間で、Xにつき、労働者派遣契約を締結し、平成21年1月まで更新・継続した。

Y社は、受注の減少等を理由として、姫路工場の派遣労働者につき、派遣期間が満了する者の打ち切りを実施することとし、就業状況等を勘案してXについては派遣契約を更新しないこととした。

これを受けて、A社は、平成20年12月、Xに対し、雇用契約も更新しない旨を伝えた。

Xは、平成21年1月、姫路工場の管理部長らと面談し、期間3年を超える違法な労働者派遣なので、自らを正社員として直接雇用してほしい旨を要請した。これを聞いたA社は、Xに対し同月末日までの賃金は保障しつつ当日から出勤停止とし、同月31日をもってXを解雇した。

【裁判所の判断】

XとY社間には労働契約は成立していない。

Y社の行為は、不法行為には該当しない。

【判例のポイント】

1 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないというべきである。
そして、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである(最高裁判所平成21年12月18日第二小法廷判決)。

2 Y社は、Xの姫路工場就労後、一貫してXに対する作業上の指揮権を有しており、Xの出退勤につき、ある程度の管理をしていたことも明らかであるから、Y社とA社間の関係は、当初から業務委託(請負)と評価することができず、これにXを加えた三社間の関係は、労働者派遣に該当するというべきである。

3 A社によるXの採用につき、Y社による事前面接があったとは認められず、これを根拠にX・Y社間には黙示の労働契約が成立したとのXの主張には、理由がない。

4 X、Y社及びA社の三社の関係は、Xが姫路工場での就労を開始した当初から、労働者派遣であったと認められるところ、当時、物の製造業務に関する派遣可能期間は1年であったことからすれば、Y社には、平成18年6月の時点で、Xに対し直接雇用を申し込む義務が発生していたと解するほかはない。
しかし、労働者派遣法40条の4は、その文言からして、派遣先の派遣労働者に対する雇用契約の申込義務を規定したにとどまり、申込の意思表示を擬制したものでないことは明らかであって、Xの主張は、立法論としてならともかく、現行法の解釈としては採り得ないものといわねばならない

裁判所は、当初の業務委託契約が偽装請負であったことは認めたものの、そのあとは、お決まりのコースです。

本件では、A社、Y社は何のお咎めもありません。

会社側としては、派遣契約に関する各種裁判例を研究し、敗訴リスクを実質的に検討した上で、現場対応することになります。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。