Monthly Archives: 10月 2011

有期労働契約24(トーホーサッシ事件)

おはようございます。

さて、今日は、60歳定年再雇用契約後の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

トーホーサッシ事件(福岡地裁平成23年7月13日・労判1031号5頁)

【事案の概要】

Y社は、サッシなどの製造販売を営む、従業員数約40人の会社である。

Xは、平成12年8月に51歳でY社に入社し、平成21年9月に定年を迎えたものである。

XとY社は、定年後、雇用期間を6か月ごとの更新とし、雇用継続は最大65歳の誕生日の前日までとする旨の記載がなされた確認書を作成した。

Y社は、平成22年8月、Xに対し、同年9月をもって、本件雇用契約を更新しない旨通知した。

Xは、本件雇止めは無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件雇止めは無効

【判例のポイント】

1 Xには、定年を迎えた後もY社での就労が認められ、少なくとも64歳に達するまで雇用が継続されるとの合理的期待があったものということができる。したがって、かかるXは、自らの就労能力が衰えるなどそれまでと事情が大きく変化しない限り、再雇用が続けられる期待を持つというべきであり、本件雇止めについては、労働契約法16条の解雇権濫用法理が類推適用されると解することが相当である。

2 いわゆる従業員代表との間の労使協定は、法律上明文がある場合に労働基準法等の法律上の規制を免除する効果を及ぼすものであるが、他の労働者に対して規範的効力が及ぶものではなく、そのような効力までは認めることは困難である

3 Xの陳述どおり、本件雇用継続制度にかかる協定書は公表されておらず、Xは平成22年8月の団体交渉で初めて知ったことを、一応認めることができる。
そうすると、いかに他の従業員との関係で統一的な運用をするためとはいえ、肝心の本件雇用継続制度を周知しないままにその基準を雇止めの要素として考慮することは相当とはいい難い。
したがって、本件基準を満たしているか否かを、本件雇止めが合理的理由を備えるか否かの判断資料とすることは相当ではなく、この点についてのY社の主張を採用することは困難である。

4 ・・・以上によれば、Y社の主張する事実を総合考慮したとしても、少なくともXの就労状況がこれまでに比べて大きく衰えたことを認めるに足りる的確な疎明資料はなく、また、Y社の経営状況がこれまでと比して大きく変動し、ワークシェアリング等の解雇回避努力を行っても、Xの雇用を継続することができなかったとまでは認め難いから、本件雇止めに合理的な理由があるとは認められない

賃金仮払いの仮処分が認められた事案です。

地位確認の仮処分は、従来通り、必要性を否定されています。

上記判例のポイント4ですが、継続雇用した従業員を雇止めする場合、ワークシェアリングまで検討し、解雇回避努力を尽くさなければならないとされています。

もちろん、本件では、Xに解雇事由がないため、整理解雇同様の要件を要求しているわけですが。

嘱託社員であろうとも、整理解雇をするには、厳しい要件を満たす必要があるわけです。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介11 1分間松下幸之助(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。

1分間 松下幸之助 逆境を力に変える不屈の人生哲学77
1分間 松下幸之助 逆境を力に変える不屈の人生哲学77

松下幸之助さんについて書かれている本です。

あっという間に読めてしまいます。

この本の中で、「いいね!」と思った文章はこちら。

大切なのは、今やっていることを最善と思うのではなく、常にもっとよいやり方はないかと追求する姿勢だ。それこそが「自分の再検討」をする前提となる。」(27頁)

この感覚は、みなさんも、共感するところではないでしょうか。

仕事を続けている間はずっと、常に改良を重ねていく姿勢が大切だと思います。

他者のやり方を見たときに、「このやり方はすばらしいな!」と素直に受け入れる姿勢と、一旦、自分のやり方を否定する謙虚さ、他者のやり方ですばらしいと思う方法を直ちに導入できる行動力の3つがあれば、改良はそれほど難しいものではありません。

他者がたとえライバルや敵であったとしても、いいものはいいのです。

改良する気持ちがなくなってきたら、引退を考えようかと思います。

賃金37(リンク・ワン事件)

おはようございます。

さて、今日は、賞与の支給日在籍要件に関する裁判例を見てみましょう。

リンク・ワン事件(東京地裁平成23年2月23日・労判1031号91頁)

【事案の概要】

Xは、平成18年4月、Y社に正社員として採用され、平成20年4月、自己都合により退職した。

Xの入社当時、Y社の旧給与規程には、給与は年俸制度を採用すること等が定められていた。

Y社は、平成19年6月、旧給与規程を変更し、変更後の新給与規程をY社の社内イントラネット上に掲示した。

Xは、Y社の賞与支給日以前に退職していたため、賞与を支給されなかった。

Xは、Y社に対し、賞与の請求を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件支給日在籍要件は、Xに対する本件給与改定通知書に記載があるところ、労働者と使用者が合意した場合には、労働条件を変更することができるから(労働契約法8条)、まず、Xが本件支給日在籍要件に同意したといえるかが問題となる。

2 Xは、平成19年6月ころ、Y社から、本件支給日在籍要件が記載された本件給与改定通知書を示された上で説明を受け、同通知書に署名したのであり、Xは、本件支給日在籍要件を含む、本件給与改定通知書に記載された労働条件に同意したと認めるのが相当である。

3 Xは、新給与規程が周知されておらず、意見聴取や届出もなされていないから、新給与規程には拘束されず、旧給与規程の適用を受けることになることを前提に、本件支給日在籍要件は、旧給与規程で定める基準に達しない労働条件を定めるものであるから、無効である旨主張する。
ここで、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とされるところ(労働契約法12条)、このような就業規則の最低基準効を発生させるには、就業規則が周知されていれば足り、従業員代表からの意見聴取や労働基準監督署長への届出がなされていることまでは必要ないというべきである。本件において、新給与規程は、平成19年6月にY社の社内イントラネット上に掲示され、従業員が見ようと思えばいつでも見ることができる状態になっていたのであるから、周知されていたと認められる。そうすると、同日時点において従業員代表からの意見聴取や労働基準監督署長への届出がなされていなかったとしても、上記最低基準効が生じるのは、新給与規程であるというべきである

4 以上によれば、本件支給日在籍要件は、XとY社の合意により有効であり、Xの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

一般には、賞与は支給日に在籍していないともらえません。

本件では、支給日在籍要件の問題について、給与規程の変更が絡んでいるケースです。

就業規則の最低基準効についての判断は、特に新しいものではありませんが、おさらいとしては参考になります。

それにしても、なんでこの事件、地裁でやっているんだろう・・・?

Xの請求金額は、賞与の30万円ちょっとなのに。

日頃から顧問弁護士に相談することが大切ですね。

退職勧奨5(昭和女子大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。

昭和女子大学事件(東京地裁平成4年2月6日決定)

【事案の概要】

Y社は、学校法人であり、小、中、高校、短大、大学、幼稚園を設置している。

Xは、昭和52年4月、Y社短大国文科専任講師として採用され、その後、短大助教授、同教授に任用された。

Xは、同じ科の助教授と学生に対する指導上の意見に相違を生じ、このことにつき右助教授からY社の学長に対し、Xに非がある旨の報告がなされたため、Xは、学長から呼び出され、さまざまな事柄について叱責を受けた。

Xは、これらの事項はいずれも事実無根あるいは不当な言い掛かりであると考えたが、その場では十分な弁明の機会は与えられなかった。

Xは、学科長から、学長に謝罪するよう言われたが、当初、謝罪する必要性がないとしてこれに応じなかった。

その後、Xは、本気で謝罪している姿勢を見せるため反省の色が最も強く出る文書にした方が良いと判断して、実際には退職する意思はなく勤務継続の意思を有していたが、「退職願」を作成し、学長に提出した。

席上、Xは、「勤務の機会を与えて欲しい」と述べた。

本件では、当該「退職願」の効力が問題となった。

【裁判所の判断】

退職願は、心裡留保により無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの平成3年3月の退職願を同年5月に受理することにより退職の合意が成立し、右合意に基づき同年9月末日に退職を発令したものである旨主張する。しかしながら、右認定事実によれば、Xは反省の意を強調する意味で退職願を提出したもので実際に退職する意思を有していなかったものである。そして、右退職願は勤務継続の意思があるならばそれなりの文書を用意せよとの学長の指示に従い提出されたものであること、Xは右退職願を提出した際に学長らに勤務継続の意思があることを表明していること等の事実によれば、Y社はXに退職の意思がなく右退職願による退職の意思表示がXの真意に基づくものではないことを知っていたものと推認することができる。
そうするとXの退職の意思表示は心裡留保により無効であるから(民法93条ただし書)、Y社がこれに対し承諾の意思表示をしても退職の合意は成立せず、Xの退職の効果は生じないものというべきである。

2 本件疎明資料によれば、Xは、妻、子3名(19歳、18歳、15歳)及び養母を扶養しており、Y社から得る資金を唯一の生計の手段としてきたことが一応認められる。そうすると、Xには賃金の仮払いの必要性があるところ、本件疎明資料によって一応認められる諸般の事情を考慮すると月額60万円の範囲で平成3年12月から平成5年1月までの間に限り仮払いを命じる限度で保全の必要性があると認めるのが相当である。

なかなかすごい事件ですね。

結局、裁判所は心裡留保を理由に退職の意思表示を無効と判断しました。

退職勧奨を注意深くやらないと、このように無効と判断される可能性があること、また、場合によっては、不法行為として損害賠償請求をされる可能性があることを頭に入れておかなければなりません。事前に顧問弁護士に相談することが求められます。

本の紹介10 「事務ミス」をナメるな!(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 また一週間始まりましたね。 がんばりましょう!!

さて、今日は、本の紹介です。

「事務ミス」をナメるな! (光文社新書)
「事務ミス」をナメるな! (光文社新書)

少し前に買った本です。

「いいね!」と思った文章はこちら。

ミスの原因を、作業者個人の能力不足に求めることは、あまり適切ではないのです。『まさか、あの熟練者がミスをするとは』という事態も多く起こっていることを、軽視すべきではありません。
作業者個人の優劣ばかりに目を奪われずに、職場の体勢を改革することでミスの鎮圧を目指すことが、企業のミス対策のあるべき姿と言えます。
」(28頁)

この本にも書かれていますが、昔に比べて、社会全体がおおらかさを失ってきており、ほんの些細なミスでも許されなくなってきています(生活自体は、どんどん進化していく一方で、昔の方が暮らしやすかったと思うこと、ありませんか?)

それゆえ、企業としては、ヒューマンエラーをなくすことに躍起にならざるを得ません。

これは、法律事務所でも同じことです。

他方で、人である以上、常に完璧に仕事を行うことは不可能です(より正確に言えば、機械であっても同様です)。

そのため、私は、従業員に対し、「ミスをするな!」「なんでミスをするんだ!」と大声で叱っても、あまり意味がないと考えています。

もちろん、上司も人間です。ミスが多い部下には、正直、腹が立ちますし、「何度言ったらわかるんだ!!」と思いたくなるのもよくわかります。

しかし、ミスについて叱責することは有害無益です。

従業員は萎縮し、持っている力を十分に発揮できなくなってしまい、更なるミスにつながりかねません。

完全に悪循環です。 

大切なことは、ミスは必ず起こるということを前提に、いかにミスを修正する体制を整えるか、ということです。

会社のトップや上司がこのことを理解しているか否かで、部下の働きやすさは格段に変わってきます。

「この従業員、ダメだな~」ではなく、「俺の会社のチェック体制、ダメだな~」と考えましょう。

従業員のミスは、会社全体のミスなのです。 つまり、トップのミスなのです。 

依頼者からの素朴な質問4

おはようございます。 

さて、今日は、久しぶりに依頼者からの素朴な質問シリーズです。

ご相談に来られた方からこんな質問を受けることがあります。

「先生の事務所には、たくさん本がありますけど、これって、全部頭に入っているんですか?」とか

「この本、全部、読んだんですか?」

というものです。

答えとしては、当然、NOです。

そもそも法律の本は、小説等とは異なり、1頁目からずっと読んでいくものではありません。

何か調べたいことがあった場合に、その疑問点に対するヒントが載っている部分を探し、必要な範囲で読んでいるわけです。

私の事務所ですと、月額の書籍代はだいたい5万円~10万円の間くらいです。

弁護士にとって、書籍は、仕事をする上で、必要不可欠なものですので、ここをけちってもいいことはありません。

いつか自分でも本を書いてみたいものです。

もうちょっと落ち着いてからでいいですけど・・・。

本の紹介9 洞察力の原点(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます

さて、今日は、本の紹介です。

大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉
大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉

一気に読めます。 大前さんの「いい言葉」集みたいな本です。

「いいね!」と思った言葉は、こちら。

『なぜ』に対する答えを出すのは容易ではない。明確な、しかも正当な答えのないものが、チャンスなのである。専門家に聞いても、なぜか、ということが十分に答えられないときは、『常識』はもしかしたら不必要な拘束条件となっている可能性がある。それを取り除いてしまって、別な方法があるかどうか模索することである。」(91頁)

業界の「常識」とされていることに合理性がないと感じた場合、「まあ、そんなものかな」と流してしまうのと、「ん?
待てよ。これって変えてもいいんじゃない。」と思って、実行に移すのとでは、結果は大きく異なります。

今、大きく「常識」を変えようと思っていることが3つあります(ちょっとおおげさかな・・?)。

ただいま準備中ですので、事務所のHPに注目していてください!

本の紹介8 40歳からの適応力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。 将棋の羽生さんの本です。
40歳からの適応力 (扶桑社新書)
40歳からの適応力 (扶桑社新書)

まだ33歳ですが、羽生さんのことはなんか好きなので買いました

「いいね!」と思った文書はこれ。

実は10代のときの私の将棋は、とても投了が遅かったのです。今の目で見ると呆れるくらい絶望的な局面を指し続けていました。そして、あるとき、駄目なときはやはり駄目で、そのときには素直に負けを認めて次に向かっていったほうがよいのではないかと思うようになりました。
それから、少し意識的に投了を早めるようにしたのですが、これにはある種の爽快感があるのです。例えば、赤字ばかり出していた事業から撤退をして、マイナスは出してしまったが、それ以上、傷を深めることはなくなったような安堵感のようなものでしょうか。
早めに投了をすると切り替えもスムーズにいくので、次の対局にもスッキリとした状態で臨むことができます。
しかし、あるとき、毎回、早めに投了をしているのでは一局を理解するには不十分で、美学の名を借りた現実逃避なのではないかと思うようになりました。
」(85~86頁)

こういう素直な文章、だいすきです。

裁判でも、「勝ち筋」「負け筋」があります。

「負け筋」だからといって、簡単に負けるのは、クールでも何でもありません。

「勝ち筋」の事件なんて、誰がやっても勝てます。 勝っても、経験値はまったくあがりません。

いかに困難な事件を多く扱い、もがき苦しむかだと思っています。

そう簡単にはあきらめたくありません。

管理監督者26(エス・エー・ディー情報システムズ事件)

おはようございます。 また一週間始まりました。 がんばっていきましょう!

さて、今日は、プロジェクトマネージャーの管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

エス・エー・ディー情報システムズ事件(東京地裁平成23年3月9日・労判1030号27頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピューターのソフトウェア開発と販売、情報処理サービス業務及び情報提供サービス業務等を業とする会社である。

Xは、平成19年7月、Y社に入社して以降、平成21年2月まで就労した。

Xは、平成20年9月~平成21年2月、Y社が大阪にあるL社から受注したK電鉄・電車ダイヤ作成応援システムのソフトウェアの開発等の業務にプロジェクトマネージャーとして従事した。

Xは、Y社に対し、未払いの時間外および深夜の割増賃金を請求した。

Y社は、Xが管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

Xの管理監督者性を否定。

未払時間外割増賃金と同額の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 行政通達の内容を踏まえると、管理監督者に該当するかどうかについては、(1)その職務内容、権限及び責任が、どのように企業の事業経営に関与するものであるのか(例えば、その職務内容が、ある部門全体の統括的なものであるかなど)、(2)企業の労務管理にどのように関与しているのか(例えば、部下に関する労務管理上の決定等について一定の裁量権を有していたり、部下の人事考課、機密事項等に接したりしているかなど)、(3)その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか(例えば、出退勤を規制されておらず、自ら決定し得る権限があるかなど)、(4)管理職手当等の特別手当が支給されており、管理監督者にふさわしい待遇がされているか(例えば、同手当の金額が想定できる時間外労働に対する手当と遜色がないものであるかなど)といった観点から、個別具体的な検討を行い、これら事情を総合考慮して判断するのが相当である。

2 Xは、従業員の労務管理の一部分(本件月間実績報告書の点検及び確認)を担当してはいるものの、従業員の出退勤の管理自体は、従業員自体の申告(メール送信)によって行われている。そして、前記検討のとおり、本件A社業務に途中から関与したこと、Xについても本件月間実績報告書が作成され管理されていたことを併せ考えると、Xが従業員の労務管理において広範な裁量権を有していたとは解し難く、Y社の従業員の自己申告を取りまとめたもの(本件月間実績報告書)を形式的に点検・確認していたのが実情であったと解される。
これら検討にかんがみると、Xが従業員の労務管理の一部分を担当していたことが、管理監督者性を基礎付ける重要な事情であるとまではいい難い。

3 Xは、他の従業員に比べて、相応の厚遇を受けていたということができる。
しかしながら、Xは、Y社代表Zの要望を受けて、本件A社業務の品質低下・業務遅滞を解消ないし軽減するためにY社に入社したという経緯があること、Y社がXに対し、時間外割増賃金は発生しない旨の説明を行った事実は認められないこと、Y社は、A社に対し、本件月間実績報告書に基づき、超過分(時間外労働分)の請求ないし調整を行っていたこと、Xは、前職(年俸711万円)において、別途、時間外割増賃金の支払を受けていたことが認められることを総合考慮すると、本件労働契約によるXの待遇が、管理監督者該当性を直ちに基礎付けるということはできない。

判決理由を読んでいると、まず、全体から考えると、裁判官は「管理監督者性否定」という心証を持っており、この結論に反する事情を必死に打ち消しているように読めてなりません。

判決なんて、そんなもんですけど・・・。

管理監督者性を肯定するなんて、よっぽどの場合に限られるんだよ、という裁判所の判断が見えてきます。

この事案は、会社側から控訴されています。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

本の紹介7 武器としての決断思考(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。
武器としての決断思考 (星海社新書)
武器としての決断思考 (星海社新書)

著者は、東大助手→マッキンゼー→京大客員准教授という方です。

本の内容としては、ディベートでの物の考え方を応用しよう!という感じです。

弁護士は、相談者からご相談を受けているとき、頭で、常に要件、効果、主張→反論→再反論を考えながら、聴いています。

この本で「いいね!」と思ったのは、こちら。

ブレないことに価値はない」(70頁)

不確実性の高いビジネスで生き残っているベンチャー企業は、ほとんどのケースにおいて、戦略をころころ変えているのです。」(72頁)

同感。

一度踏み出した道を、ルート変更するのは、いろいろな意味で容易ではありません。

ただ、「自分の主義に反する」などというつまらない理由で戦略を変更できないということだけは避けたいものです。