Monthly Archives: 9月 2011

解雇55(日本通運(休職命令・退職)事件)

おはようございます。

さて、今日は、異動内示に伴う不就労に対する休職命令・退職扱いの効力に関する裁判例を見てみましょう。

日本通運(休職命令・退職)事件(東京地裁平成23年2月25日・労判1028号56頁)

【事案の概要】

Y社は、物流事業全般を営む会社である。

Xは、平成元年4月、Y社に入社し、平成13年3月、本件事業所営業係長に任ぜられた。

Xは、Y社から、ビジネスセンターへの異動の内示を受けたが、これに強い拒絶反応を示し、翌日、急性口蓋垂炎による呼吸困難で倒れ、救急搬送されて治療を受け、その後終了しなかった。

Y社は、平成19年2月、Xに対し、就業規則により休職命令を発令し、その後の賃金を支払わなかった。

平成20年2月、Y社は、Xは休務療養の必要がなくなったとはいえないとの理由から、Xに対し1月末付けで退職扱いとする旨通知した。

Xは、Y社が就労可能なXに対し、本件休職命令を発令して本件退職扱いをしたのは違法であると主張し争った。

【裁判所の判断】

休職命令、退職扱いはともに有効

【判例のポイント】

1 Y社は、当初、本件休職命令の発令を、疾病による欠勤開始の1年後である平成18年9月に予定していたが、その直前にY社の労働時間管理に不備があったことが判明して、2年分の割増賃金を支払うなどしたため、平成19年2月まで遅らせた。この過程で、A次長は、Xが直属の上司であるBに対する理不尽ともいうべき避難・攻撃を繰り返していたにもかかわらず、根気よく対応して、本件休職命令発令の直前には、診断書を作成していないと聞いて、再度受診のうえ診断書を提出よう求めた。また、A次長は、Xに対し、発令の内示をした際、あと1年あるという気持ちで復職に前向きに取り組むよう励まして、その後も何度か電話をするなどして接触を図っている。
このような事実によれば、Y社は、Xの当時の状況を踏まえてその立場に配慮した働きかけ等をしたものということができる。そうすると、Y社がXを退職に追い込む目的を有していたとは認められない

2 本件休職命令の発令に当たり、休職を要するという趣旨の診断書等があったわけではない。一方、C医師は、平成年月、「病状は改善し、就労は可能と思われる」という診断をしている。
しかし、この診断書は、上記のほかに「可能であればストレスの少ない職場への復帰が望ましい。尚今後6か月程度の通院加療が必要と思われる」という留保があり、そのまま復職可能診断というのは相当でない。
・・・この事実によれば、A次長は、この診断書の信用性に疑問を抱いたと考えられるが、これは合理的なものということができる。したがって、Y社が、復職可能診断を不当にも無視したとは認められない

3 ・・・以上の事情等に、Xは、休職期間満了日を超えて平成20年9月ころまで、抗不安薬等、C医師から処方された薬を服用していたことも考慮すると、Y社が復職可能診断を不当にも無視したものと認めることはできない
以上によれば、本件退職扱いをすることが信義則に反し許されないというXの主張は失当というべきである。

本件では、Xの主治医とY社の産業医が異なる診断をしています。

Y社の産業医は、Xの主治医から独自に得た情報に基づき、「本人、会社が対立する問題を保留としたまま本人が職場復帰することは、復職にとって重要な本人の信頼感の回復を待たずに職場環境に入ることとなり、症状が増悪し、呼吸困難のような発作が再発する可能性が極めて高い」という意見書を提出しています。

これに対し、Xの主治医は、産業医の意見について、「Xに面談もせずに判断することにも大きな問題がある」という批判的意見を述べてました。

この点について、裁判所は、以下のとおり判断しています。

「確かに、医学的判断をするに当たっては面談(診察)等で得られる情報が重要な要素であることは明らかであるが、前記のとおり、XとY社との信頼関係が失われた原因は、XのCに対して激しい調子で非難・攻撃を繰り返すなどしたところにあり、産業医は、従前の経過に基づきこの点を理解していたのであるから、面談をしなかったことが同医師の意見の説得力を損なうものとはいえない。」

このあたりは、なんともいえません。 

なお、本件は、控訴されています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災46(いなげや事件)

おはようございます 同期の弁護士が無事出産しました Tちゃん、おめでとう。

写真昨夜は、司法書士のS先生とごはんを食べながら、事務所経営について語りました

特に業務の進捗管理、顧客管理についてどのようなシステムを構築すべきかを話しました。

←魚弥長久。 ここもおいしいです。 そんなに高くありません。

今日は、午前中、離婚調停が入っています。

お昼は、顧問先のAさんと食事をしながら、公益財団法人について話し合います。

午後は、刑事事件の打合せが1件入っています。

その後は、書面作成です

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、過労自殺に関する裁判例を見てみましょう。

いなげや事件(東京地裁平成23年3月2日・労判1027号58頁)

【事案の概要】

Y社は、スーパーマーケットチェーンを中心とした生鮮食品・一般食品・家庭用品・衣料品等の小売業等を目的とする会社である。

Xは、大学卒業後、平成11年4月にY社に正社員として入社し、死亡時、鮮魚部チーフとして勤務していた。

Xは、平成15年10月、自殺した。

Xの妻は、三鷹労基署長に対して、Xが精神障害を発病して自殺したのは過重な業務に従事したことに起因するものであると主張し、遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、いずれも支給しない旨の処分を受けたことから、その取消を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

三鷹労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 Xの手帳については、X自身が業務に関して日々記録していたものであり、業務の有無や内容について一応の信用性があるというべきであり、タイムカード外労働時間についても、これを根拠としている部分があるが、家族の記憶については、過去の長期に渡る出来事に係るものであるから、一般に、その信用性は、必ずしも高いとはいえないし、X妻の日記の記載及びこれと一致する家族の記憶についても、Xの外出の事実、出発・帰宅状況等の生活状況全般については一応の裏付けとするには足りないというべきである。また、通話記録及び家族による聞き取り結果については、Xが本件会社関係者と通話した事実及びXに電話で仕事に関する相談などをしていた事実がうかがえるが、通話記録にある時間帯にどのような内容の会話をしたか個別に特定することはできず、結局、Xの就労の事実との関連性が不明であるから、具体的な労働時間の裏付けとするには足りないといわざるを得ない。さらに、給油記録についても、Xが当該時刻に自宅付近にあるガソリンスタンドにおいて給油した事実を認めることができるが、Xの就労の事実との関連性が不明であり、具体的な労働時間の裏付けとするには足りないというべきである。

2 Xの業務について、A店への移動後短期間でのB店への移動と同時に、新任チーフへの就任、新装開店準備業務の担当等といった出来事の重なり、チーフ就任に伴う業務の質的・量的な増加に加えて、自身の人事考課の重要な要素ともなる新装開店後の売上増を期待される立場に置かれたことに伴う強度の精神的プレッシャー、周囲の支援状況、長時間労働による疲労の蓄積等を総合的に検討すれば、その他の原告指摘にかかるその他の業務上の出来事について検討を加えるまでもなく、Xの本件疾病発病前の業務の心理的負荷の創業評価は、「強」であるとするのが相当である。

3 以上のとおり、Xの本件疾病発病前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であり、その他精神障害の発病につながる業務以外の心理的不可や個体側要因もないのであるから、判断指針・改正判断指針によっても、Xの本件疾病発病が同人の業務に起因するものであると認めることができる。

参考になるのは、判例のポイント1です。

本件では、タイムカードに記録されていない労働時間があると原告が主張し、手帳や日記、携帯電話の通話記録等を提出しましたが、裁判所は採用しませんでした。

そして、「平成15年当時はタイムカードの打刻時刻いかんにかかわらず一律の時間外手当しか支給していなかったことからすれば、店長が従業員に対してタイムカードを業務終了よりも早く打刻するように指示する理由もなかった」として、タイムカードの打刻に基づいて、労働時間を算定しています。

判決の結果には影響していませんので、本件に関してはいいのですが、いろいろなことを考えてしまいます。

本当にそうなのかな・・・。

賃金36(タマ・ミルキーウェイ事件)

おはようございます。 

さて、今日は、付加金に関する裁判例を見てみましょう。

タマ・ミルキーウェイ事件(東京高裁平成20年3月27日・労判974号90頁)

【事案の概要】

Y社は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、平成16年9月まで配送運転手の勤務をしていたが、Y社に対し、未払い時間外、深夜、休日労働に係る賃金等を請求した。

一審判決において、裁判所は、Y社に対し、時間外等賃金として約50万円及び同額の付加金の支払いを命じた。

Xは、控訴した。Y社は、控訴後、Xに対し、時間外等賃金を全額支払った。

【裁判所の判断】

付加金の支払いは命じない。

【判例のポイント】 

1 労基法114条の付加金支払義務は、労働者の請求により裁判所が判決でその支払を命じ、これが確定することによって初めて発生するものであるから、使用者に労基法37条等の違反があっても、既にその支払を完了し、使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、使用者に対して付加金の支払を命ずることはできないと解すべきである。
そうすると、原判決後であるとはいえ、本件時間外等賃金を支払ったY社に対し、付加金の支払を命ずることはできないというほかない。 

本件では、付加金に絞ります。

付加金に関するこのような判断は、この裁判例だけがユニークなのではありません。

最高裁こそありませんが、高裁判決でも同様の判断がなされています。

会社側とすれば、すごい金額の付加金が第1審で命じられた場合には、とりあえず控訴し、未払時間外等賃金を支払えば、付加金の支払を免れることができることになります。

当然、このような結論に対し、批判的な見解も多いです。

批判的な見解が多かろうが少なかろうが、現時点では、会社としては、控訴し、未払賃金を支払というのが鉄則ということです。

付加金を支払う前には、必ず顧問弁護士に相談しましょう。

賃金35(コナミデジタルエンタテイメント事件)

こんにちは。

さて、今日は、育休取得・復職後の降格、賃金減額に関する裁判例を見てみましょう。

コナミデジタルエンタテイメント事件(東京地裁平成23年3月17日・労判1027号27頁)

【事案の概要】

Y社は、平成18年3月、コナミ株式会社からその営業部門の事業全てを譲り受けて設立された、電子応用機器関連のソフトウェア、ハードウェア及び電子部品の研究、制作、製造及び販売等を目的とする会社である。

Y社の従業員であるXは、育児休業後に復職したところ、Y社は、Xを降格させ、年俸を120万円減給した。

Xは、Y社の人事措置について、妊娠・出産をして育児休業等を取得した女性に対する差別ないし偏見に基づくものであって、人事権の濫用にあたり、不法行為であると主張し争った。

【裁判所の判断】

降格は人事権の濫用に当たらない。

成果報酬ゼロ査定は、裁量権の濫用に当たる。

差額賃金請求については棄却した。

【判例のポイント】

1 育児・介護休業法22条および同法の指針(平16.12.28厚労省告示460号)の「原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることに配慮すること」は、努力義務を定める規定であって、原職または原職相当職に復帰させなければ直ちに同条違反になるとは解されない。

2 産休・育休からの復職に当たって担務変更をしたことは、業務上の必要性に基づいて、配転にかかる人事上の権限の行使として行われたものであって、育休等の取得を理由としてされたものではなく、担務変更が休業取得を理由とする不利益取扱いには該当しない

3 使用者が有する従業員の配置、異動等の人事権の行使は、雇用契約に根拠を有し、従業員をY社の会社組織の中でどのように活用、統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事項であり、従業員に周知された就業規則の規定に基づき行われる職種・職位の変更(役割グレード引下措置)につき労働者本人の同意を要するものとは解されない

4 労働の対価たる賃金は、労働条件における最も重要な労働条件であり、その年俸査定期間に産休や育休が含まれる場合には、法がこれらの休業を規定し、休業取得を理由とする不利益取扱いを禁止した趣旨を考慮した成果の査定をするのが相当である。

5 Xの平成21年度の成果報酬について、査定期間のうち9ヶ月間は産休・育休により休業して業務実績はないが、休業前の3ヶ月は一定の内容、程度の業務を引き継いだFマネージャーらはXの実績を利用しまたは踏まえて残りの業務を行ったということができるから、同年度の成果報酬ゼロ査定は、成果報酬の査定にかかる裁量権の濫用に当たり無効である

6 差額賃金請求権は、Y社が前年度成果評価に基づく査定によって具体的な額が決定されるものであるから、本件成果報酬ゼロ査定しかされていないという本件事実関係の下においては、Xはいまだ成果報酬が定まっていないという状態にあり、これについて損害が発生する余地はないというべきである。
以上によると、Xの従前年俸額と新年俸額との差額の支払請求は理由がない

育休後の労働条件に関する争点は、労働者側としては、いろいろと難しい問題があります。

どちらかといえば、やりにくい問題だと思います。

ただ、本件では、成果報酬の査定に関し、裁量権の濫用にあたり無効であるとの判断がされています。

差額賃金請求については、このような判断もやむなしといったところでしょうか。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。