Daily Archives: 2011年9月20日

派遣労働4(積水ハウスほか(派遣労働)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働と黙示の労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

積水ハウスほか(派遣労働)事件(大阪地裁平成23年1月26日・労判102号24頁)

【事案の概要】

Y1社は、人材派遣、人材紹介等を事業内容とする会社である。

Y2社は、建築工事の請負及び施行、建築物の設計および工事管理等を事業内容とする会社である。

Xは、Y1社に対して派遣登録をしていたところ、Y2社の正社員を募集する紹介予定派遣に応募したが、採用されず、その後Y2社の大阪南カスタマーズセンターに派遣されて就労していた。

XとY1社の間の派遣労働契約は、平成16年12月に締結された後、3か月ごとに15回、平成20年8月まで約3年8か月にわたって更新された。

平成17年3月以降についてY1社らの間で結ばれた労働者派遣契約および派遣通知書には、業務内容は、「5号OA機器オペレーション業務(付随業務を含む)」と記載されていた。

Y2社の本件センター所長であるBは、平成20年7月頃、Xに本件労働者派遣契約を同年9月以降更新しない旨Y1社の担当者Fに伝えたが、その際に、いったん本件労働者派遣契約を終了するが、3か月のクーリングオフ期間をおいた後の同年12月から再度Xの派遣を受け入れたいとの希望を伝えた。

その後、XとY1社らの本件労働者派遣契約は、平成20年8月をもって期間満了により終了した。

同年10月にいたって、Y2社は12月からのXにかかる労働者派遣契約は締結しないとの意思決定をし、これを通されたFは、Xに対し再契約がないことがはっきりした旨連絡した。

Xは、Y2社におけるXの業務内容は、労働者派遣法40条の2で制限する就労期間について制限のない労働者派遣法施行令4条で定める26の業務に該当しないにもかかわらず、Y1社らは労働者派遣の役務提供を受ける期間を潜脱する目的で派遣業務を偽装した違法な派遣を行ったものであり、Y1社らの労働者派遣契約およびXとY1社の間の派遣労働契約が無効であるなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

派遣労働契約、労働者派遣契約は無効ではない。

XとY2社との間には、黙示の労働契約は成立しない。

Y2社に対する、30万円の損害賠償請求を認容。

【判例のポイント】

1 政令には政令5号業務として「電子計算機、タイプライター、テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務」と定めるのみで、派遣先の労働者の地位との関係で政令26業務の場合に派遣期間の制限が解除された趣旨を踏まえても、主としてパソコン操作がその業務となっている場合について政令5号業務から外れるとまで解することはできない

2 派遣労働者であるXが従事した業務が政令26業務(政令5号業務)に該当せず、また、それに従った派遣期間の制限違反等の労働者派遣法違反の事実があったとしても、労働者派遣法の趣旨およびその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等を踏まえると、特段の事情のないかぎり、そのことだけでXと派遣元であるY1社との間の派遣労働契約が、また、Y1社と派遣先であるY2社との労働者派遣契約が直ちにに無効となるものではない

3 派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否を判断するに当たっては、派遣元に企業としての独自性があるかどうか、派遣労働者と派遣先との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうか等を総合的に判断して決するのが相当である。

4 労働者が派遣元との派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先に派遣された場合であっても、派遣元が形式的な存在にすぎず、派遣労働者の労務管理を行っていないのに対して、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の労働条件を決定し、配置、懲戒等を行い、派遣労働者の業務内容・派遣期間が労働者派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正社員と区別しがたい状況となっており、派遣先が派遣労働者に対し労務給付請求権を有し、賃金を支払っている等派遣先と派遣労働者間に事実上の使用従属関係があると認められるような特段の事情がある場合には、派遣先と派遣労働者との間において、黙示の労働契約が成立していると認めるのが相当である

5 XとY2社との関には黙示の労働契約の成立は認められないが、Y2社がXに対し派遣労働契約終了後3か月の期間をおいて再度就労が可能であると告げたこと等から、Xの復職就労に関する期待が法的保護に値するものであり、Y2社による平成20年12月以降のXの就労の拒否はこれを侵害した違法行為であるとされ、30万円の損害賠償請求が認容された。 

今後、派遣労働に関してもいっぱい検討していこうと思います。

本件では、いろいろと参考になるポイントがあります。

上記判例のポイント3、4は、小難しいことを言っているように見えますが、よく読むと、たいしたことは言っていません。

たぶん、判例のポイント3、4の基準をみたすのは、よほどの場合でない限り、現実には存在しないように思います。

結局、派遣労働者の期待権侵害による30万円の損害賠償請求だけを認めたわけです。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。