おはようございます。
さて、今日は、海外勤務者の無断帰国等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。
日鯨商事事件(東京地裁平成22年9月8日・労判1025号64頁)
【事案の概要】
Y社は、東京に事務所を有するほか、オマーンにも事務所兼社宅を借りていた。
Xは、Y社との間で雇用契約を締結し、平成19年11月から、主にオマーンにおいて業務に従事していた。
Xは、日本とオマーンを行き来しており、同年3月にも日本からオマーンに向けて出国した。この際の往復旅費はY社の負担である。
Xは、同月、オマーンから日本へ帰国した。この前日、XはY社の取締役であるAと電話でやりとりをし、きちんと引継ぎと今後の業務への対応策を話し合う必要があるので、Y社代表者とAがオマーンに戻る翌日までオマーンに残るよう言われたが、Xは航空券の日程変更ができないとして、同日帰国した。
Y社は、Xに対し、Xの「中東業務契約」を解除する旨のメールを送信し、同日、Y社は、解除メールと同内容の「中東業務契約解除(解任)通知書」と題する書面を発送した。
Xは、Y社による解雇は違法であるとして、損害賠償請求、未払時間外手当の請求等をした。
【裁判所の判断】
Y社の行為は不法行為に該当する。
【判例のポイント】
1 Y社のXに対する中東業務契約解除につき、本件就業規則には解雇規定はあるが、Y社に在籍しつつ一部の業務について契約を解除する旨の規定はないことや、Y社がXに対し退職の意思の有無を確認せずに退職手続を進めたことから、Y社は、契約解除通知書の交付をもって、Xに対し解雇の意思表示をしたものと認められる。
2 Xの出張先からの帰国等が、本件就業規則の解雇事由である「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」には該当しないとし、本件解雇は解雇権を濫用し著しく相当性を欠くものであり、Y社には本件解雇をしたことにつき過失があったものと認められる。
以上によると、本件解雇は、Xに対する不法行為を構成するものということができる。
3 Xは、本件解雇により失職したことによって、合理的に再就職が可能と考えられる時期までの間、本来勤務を継続していれば得られたはずの賃金相当額の損害を受けたものということができる。
Xは、本件解雇当時45歳の男性であったこと、複数回の転職経験があること、語学(英語)能力が高いこと、現に本件解雇後1か月も経過しないうちに再就職することができたことが認められるところ、これらの事情を総合考慮すると、Xが合理的に再就職をすることが可能であると考えられる期間は、本件解雇後3か月であると認めるのが相当である。
4 本件解雇により被った精神的苦痛については、前記財産的損害の賠償により慰謝される性質のものであるというべきである。
本件では、Y社の不法行為責任を認めました。
事案としては、解雇の有効性は否定されてもしかたがないものです。
注目すべきは損害額です(上記判例のポイント3参照)。
Xがこれほど有能でなければ、損害額はもっと多くなったのでしょうか・・・?
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。