こんにちは。
さて、今日は、育休取得・復職後の降格、賃金減額に関する裁判例を見てみましょう。
コナミデジタルエンタテイメント事件(東京地裁平成23年3月17日・労判1027号27頁)
【事案の概要】
Y社は、平成18年3月、コナミ株式会社からその営業部門の事業全てを譲り受けて設立された、電子応用機器関連のソフトウェア、ハードウェア及び電子部品の研究、制作、製造及び販売等を目的とする会社である。
Y社の従業員であるXは、育児休業後に復職したところ、Y社は、Xを降格させ、年俸を120万円減給した。
Xは、Y社の人事措置について、妊娠・出産をして育児休業等を取得した女性に対する差別ないし偏見に基づくものであって、人事権の濫用にあたり、不法行為であると主張し争った。
【裁判所の判断】
降格は人事権の濫用に当たらない。
成果報酬ゼロ査定は、裁量権の濫用に当たる。
差額賃金請求については棄却した。
【判例のポイント】
1 育児・介護休業法22条および同法の指針(平16.12.28厚労省告示460号)の「原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることに配慮すること」は、努力義務を定める規定であって、原職または原職相当職に復帰させなければ直ちに同条違反になるとは解されない。
2 産休・育休からの復職に当たって担務変更をしたことは、業務上の必要性に基づいて、配転にかかる人事上の権限の行使として行われたものであって、育休等の取得を理由としてされたものではなく、担務変更が休業取得を理由とする不利益取扱いには該当しない。
3 使用者が有する従業員の配置、異動等の人事権の行使は、雇用契約に根拠を有し、従業員をY社の会社組織の中でどのように活用、統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事項であり、従業員に周知された就業規則の規定に基づき行われる職種・職位の変更(役割グレード引下措置)につき労働者本人の同意を要するものとは解されない。
4 労働の対価たる賃金は、労働条件における最も重要な労働条件であり、その年俸査定期間に産休や育休が含まれる場合には、法がこれらの休業を規定し、休業取得を理由とする不利益取扱いを禁止した趣旨を考慮した成果の査定をするのが相当である。
5 Xの平成21年度の成果報酬について、査定期間のうち9ヶ月間は産休・育休により休業して業務実績はないが、休業前の3ヶ月は一定の内容、程度の業務を引き継いだFマネージャーらはXの実績を利用しまたは踏まえて残りの業務を行ったということができるから、同年度の成果報酬ゼロ査定は、成果報酬の査定にかかる裁量権の濫用に当たり無効である。
6 差額賃金請求権は、Y社が前年度成果評価に基づく査定によって具体的な額が決定されるものであるから、本件成果報酬ゼロ査定しかされていないという本件事実関係の下においては、Xはいまだ成果報酬が定まっていないという状態にあり、これについて損害が発生する余地はないというべきである。
以上によると、Xの従前年俸額と新年俸額との差額の支払請求は理由がない。
育休後の労働条件に関する争点は、労働者側としては、いろいろと難しい問題があります。
どちらかといえば、やりにくい問題だと思います。
ただ、本件では、成果報酬の査定に関し、裁量権の濫用にあたり無効であるとの判断がされています。
差額賃金請求については、このような判断もやむなしといったところでしょうか。
不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。