おはようございます。
さて、今日は、退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。
サニーヘルス事件(東京地裁平成22年12月27日・労判1027号91頁)
【事案の概要】
Y社は、医療機関・薬局等との提携を通して、生活習慣の改善、ダイエットを志向する健康食品の卸・小売販売をすることを目的とする会社である。
Xは、平成20年10月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、東京本社新事業開発部に配属された。
Y社は、平成21年2月ころ、正社員約250名を150名程度に削減するために、希望退職制度を策定し、これを実行した。そして、Xの属する東京本社新事業開発部は、閉鎖されることとなった。
平成21年5月、Xは、上司から、希望退職制度に応じることを勧奨されたが、これを断った。
その後、Y社人事部長Aは、Xに対し、退職勧奨の面談を合計7回行った。
Xは、平成21年7月、Y社人事部長と面接を行った上で退職する旨を告げ、退職申入書に署名押印した。
Xは、退職の意思表示は、Y社からの違法な退職強要を受けたものであるから無効であると主張した。
【裁判所の判断】
退職勧奨は違法ではない。
【判例のポイント】
1 意思表示の取消原因である強迫が成立するには、害悪が及ぶことを告げて、相手方に畏怖を与え、その畏怖によって意思を決定させることが必要であるところ、Xが主張する強迫の要素として、A部長がXに対して、頻繁に、かつ、長時間の面談により、退職勧奨を行ったことを挙げる。しかし、A部長とXとの面談は、週に1回程度、両者の日程調整をした上で行っているし、その時間も、基本的には30分程度であり、しかも、その内容も、XがこのままY社に残っていても居場所がなくなるから、本件制度による希望退職に応じた方が良いということを繰り返し説得したという内容のものであって、上述の意味での強迫と評価できるものではない。
2 Xは、A部長が、他の従業員のいるところで決心がついたかと声をかけられたことも、強迫行為の要素として挙げるが、仮にこの事実が認められたとしても、この行為がXにとって不本意なものであるものの、上記の意味での強迫行為と評価であるといわざるを得ない。
3 もとより、本件退職が、Xの意に沿わない意思表示であることは確かであるが、上記判断のような事情を考慮すると、退職勧奨が、違法な強迫行為に該当するとまで評価することは困難であるといわなければならない。
裁判所が示している強迫の定義を頭に入れ、また、本件事案を参考にしながら、退職勧奨を行うことをおすすめします。
面談の頻度、時間、任意性等を考慮し、「害悪を告げて、相手方に畏怖を与え」ていない見せ方が重要になります。
退職勧奨の際は、顧問弁護士に相談しながら、慎重に対応することが大切です。