おはようございます。
さて、今日は、仕事のミスを理由とする退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。
京電工諭旨解雇事件(仙台地裁平成21年4月23日・労判988号53頁)
【事案の概要】
Y社は、平成8年に設立された電気工事業・通信設備工事業・配管工事業及びこれに付随する一切の業務を業とする会社である。
Xは、平成17年12月、Y社に採用され、東北6県及び新潟県の現場で電気通信設備工事に従事していた。
Xは、Y社に対し、Y社から自主退職の名目で懲戒解雇理由がないのに懲戒解雇同様の不利益処分を下されたとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした。
【裁判所の判断】
不法行為が成立する
【判例のポイント】
1 Y社がXに対して退職届の提出を命じたのは、Xに対して懲戒処分の一種である諭旨解雇処分を行ったものと認めることができる。
2 規則上、諭旨解雇事由は明確には規定されていない。しかし、その諭旨解雇処分の内容は、説諭の上で自発的に退職させるというものであり、自発的という文言が使われてはいるものの、懲戒処分としてなされるものである以上、労働者の自由意思が入り込む余地は少ないと言え、労働者にとっては懲戒解雇に準ずる程度の不利益を与えるものということができる。したがって、その事由も、規則38条2項の懲戒解雇事由に準ずるものと解するのが合理的である。
3 Xには諭旨解雇処分を行うに足りる合理的な理由があったというべきであるが、本件処分は懲戒処分の一種であるから、これをXに対して行う際には、懲戒処分であることを明示した上で、その根拠規定と処分事由を告知すること、及び諭旨解雇事由のあることについて労働基準監督署長の認定を受けた場合のほかは、少なくとも30日前に予告をするか、又は平均賃金の30日以上の予告手当をXに支払うことが必要であったというべきである(労働基準法20条、規則27条2項)。
本件処分においてはY社の過失によって上記手続がとられていないことが認められるから、本件処分はその手続において違法といわざるを得ず、Xに対する関係で不法行為が成立するというべきである。
4 Xは、本件不法行為による逸失利益として、1年間の減収額252万円と年次有給休暇の取得権侵害による40万0890円を請求するが、Xには諭旨解雇処分の対象とされるに足りる合理的な理由があったというべきであるから、本件処分が上記の手続を遵守してなされていさえすれば、上記逸失利益は発生する余地はなかったと言える。したがって、本件不法行為と相当因果関係の認められるXの逸失利益としては、予告手当相当額(平均賃金の30日分)の限度でこれを認めるのが相当である。
5 上記のとおり、Xには諭旨解雇処分の対象とされるに足りる合理的な理由があったものであり、本件処分の違法性は手続的違法にとどまることを考慮すると、本件不法行為によってXが被った精神的苦痛の慰謝料は、10万円と認めるが相当である。
会社としては、単なる退職勧奨と認識していたのだと思いますが、裁判所は、諭旨解雇処分と認定しました。
退職勧奨の違法性を争うというやり方のほかに、退職勧奨は、実質的には諭旨解雇処分であるという争い方があるんですかね。
また、判決理由を読むと、この会社の就業規則には、諭旨解雇処分についての規定がないようですが、裁判所は、懲戒解雇の規定の準用を認めています。
罪刑法定主義は?
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。