Monthly Archives: 8月 2011

不当労働行為21(JR西日本(和歌山・転勤)事件)

おはようございます。

さて、今日は、配置転換と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

JR西日本(和歌山・転勤)事件(和歌山県労委平成23年4月6日・労判1027号95頁)

【事案の概要】

Y社は和歌山支社の和歌山列車区は運転業務および車掌業務を担当する現業機関であり、橋本運転区は運転業務を担当する現業機関である。

平成21年5月、Y社は、和歌山列車区の運転士であるXに対し、橋本運転区へ配置転換する旨の通知を、6月、本件転勤を発令した。

Xは、JR西日本労働組合関西地域本部およびその下部組織である和歌山地方本部ならびに和歌山分会の組合役職を歴任した。

Xは、本件配置転換は、不当労働行為であると主張し争った。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Xの通勤時間は片道約1時間50分となったから、この通勤時間を短いとは言えないし、Xの組合活動従事可能時間の減少もあるから、本件転勤がXにとって不利益であるとは言えるものの、それらはいずれも和歌山列車区から橋本運転区への転勤という通常の転勤に伴って発生しているものであるから、本件転勤に通常の転勤を超えた不利益を認めることはできない

2 Y社は組合に嫌悪の情を抱いており、したがって、組合が行った追悼ミサについて不快な念を持って見た可能性は否定できない上、追悼ミサとY社が本件転勤の人選を開始した時期とは符合するから、全く影響がなかったとは断定できない。しかも、本件転勤はこれまでの組合とY社の厳しい労使対立を背景に、最近まで組合の中心的な人物であったXも、転勤対象者たり得る本件転勤の対象者として充てたものと推認することもできる
しかしながら、業務上の必要性が明確であり、転勤先が通常の転勤範囲内である本件転勤において、Xの組合活動への嫌悪の情が、Y社の行った本件転勤命令の決定的動機であったとまでは認定することはできない

3 本件転勤が法第7条第1号の不当労働行為であると言いうるためには、本件転勤がXの組合活動に対する嫌悪を決定的な動機としたものであること、本件転勤が不利益な取扱いであることの双方を充足する必要があるが、前者については、組合活動への嫌悪が本件転勤の人選に影響しなかったわけではないにしても、それが決定的な動機であるとは言えず、後者については、本件転勤がXにもたらした不利益は通常の転勤の範囲内であり、他の転勤とは格差もない以上、不利益取扱いがあったとは評価できないから、本件転勤が法第7条第1号の不当労働行為に該当するとは判断できない。

なかなか微妙な判断ですね。

会社の組合嫌悪の情の存在を推認できるとしても、それが本件転勤命令の「決定的動機」とまではいえないという判断です。

「決定的動機」というのは、規範的概念ですので、その存在は一概には判断できません。

結局のところ、総合考慮ということになります。

今回は、「それほど大きな不利益ではない」という発想が根底にあるのだと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

退職勧奨3(サニーヘルス事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。

サニーヘルス事件(東京地裁平成22年12月27日・労判1027号91頁)

【事案の概要】

Y社は、医療機関・薬局等との提携を通して、生活習慣の改善、ダイエットを志向する健康食品の卸・小売販売をすることを目的とする会社である。

Xは、平成20年10月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、東京本社新事業開発部に配属された。

Y社は、平成21年2月ころ、正社員約250名を150名程度に削減するために、希望退職制度を策定し、これを実行した。そして、Xの属する東京本社新事業開発部は、閉鎖されることとなった。

平成21年5月、Xは、上司から、希望退職制度に応じることを勧奨されたが、これを断った。

その後、Y社人事部長Aは、Xに対し、退職勧奨の面談を合計7回行った。

Xは、平成21年7月、Y社人事部長と面接を行った上で退職する旨を告げ、退職申入書に署名押印した。

Xは、退職の意思表示は、Y社からの違法な退職強要を受けたものであるから無効であると主張した。

【裁判所の判断】

退職勧奨は違法ではない。

【判例のポイント】

1 意思表示の取消原因である強迫が成立するには、害悪が及ぶことを告げて、相手方に畏怖を与え、その畏怖によって意思を決定させることが必要であるところ、Xが主張する強迫の要素として、A部長がXに対して、頻繁に、かつ、長時間の面談により、退職勧奨を行ったことを挙げる。しかし、A部長とXとの面談は、週に1回程度、両者の日程調整をした上で行っているし、その時間も、基本的には30分程度であり、しかも、その内容も、XがこのままY社に残っていても居場所がなくなるから、本件制度による希望退職に応じた方が良いということを繰り返し説得したという内容のものであって、上述の意味での強迫と評価できるものではない

2 Xは、A部長が、他の従業員のいるところで決心がついたかと声をかけられたことも、強迫行為の要素として挙げるが、仮にこの事実が認められたとしても、この行為がXにとって不本意なものであるものの、上記の意味での強迫行為と評価であるといわざるを得ない

3 もとより、本件退職が、Xの意に沿わない意思表示であることは確かであるが、上記判断のような事情を考慮すると、退職勧奨が、違法な強迫行為に該当するとまで評価することは困難であるといわなければならない。

裁判所が示している強迫の定義を頭に入れ、また、本件事案を参考にしながら、退職勧奨を行うことをおすすめします。

面談の頻度、時間、任意性等を考慮し、「害悪を告げて、相手方に畏怖を与え」ていない見せ方が重要になります。

退職勧奨の際は、顧問弁護士に相談しながら、慎重に対応することが大切です。

管理監督者25(エイテイズ事件)

おはようございます。

さて、今日も、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

エイテイズ事件(神戸地裁尼崎支部平成20年3月27日・労判968号94頁)

【事案の概要】

Y社は、衣料品及びスポーツ用品のデザイン、製造、加工、販売等を業とする会社である。

Xは、Y社の従業員であったが、その後、退職した。

Xは、Y社に対し、未払いの時間外、休日および深夜の割増賃金の支払いを求めた。

Y社は、Xが管理監督者にあたる等と反論し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者にはあたらない。

認容金額と同額の付加金の支払いを命じる。

【判例のポイント】

1 Xは現場のいわば職長という立場にすぎず、その具体的な職務内容、権限及び責任などに照らし、Xが管理監督者であるとすることはできない。

2 Xが1か月に2回程度実施される経営会議に出席していたことは当事者間に争いがない。そして、この経営会議は、月々の営業目標の設定、売上げノルマの到達度の確認などを行う会議であることが認められ、この会議において、Xが、Y社の経営についての重要事項に関して何らかの積極的な役割を果たしたことを認めるに足りる証拠はない

3 Y社は、Xに支給されていた給与が社内でも屈指のものであった旨を主張する。しかし、その比較の対象を、Y社と労働契約を締結しているわけではない代表取締役・取締役に求めるのは相当ではない。Xが課長に昇進した前後の比較や、他の平社員との比較をしなければ、Xが管理監督者として処遇されているというに足りる給与を得ているかどうかは明らかとはならない。そして、この点に関する証拠はまったく存在しない。

4 Xの時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数は非常に大きく、そのほとんどが現実でのプリント作業に費やされている。また、Y社は、タイムカードを通じてXのこのような労働状態を認識していたところ、Y社が、このような状態を改善しようとしたり、Xの健康管理に意を払ったりしたことを認めるに足りる証拠はない
そして、これらの事情に照らすと、Xが請求する労働基準法114条所定の付加金は、646万3150円の限度で理由があるというべきである。

5 また、Xは、付加金の支払についても仮執行宣言を求めるが、同条所定の付加金は、裁判所の判決が確定してはじめて発生するものであるから、その性質上、仮執行宣言を付することはできない。

いろいろ参考になる裁判例です。

判例のポイント3は、会社側のポイントです。 給与が十分かというのは、相対評価であるということです。

比較の対象をあげてくれています。

あとは、判例のポイント5は、付加金と仮執行宣言について、再認識できますね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者24(丸栄西野事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

丸栄西野事件(大阪地裁平成20年1月11日・労判957号5頁)

【事案の概要】

Y社は、織ネーム、プリントネームの製造及び販売、美術印刷製品の製造及び販売、経営コンサルタント及び販売促進の企画、各種コンテンツ・アプリケーションの製作等を業とする会社である。

Xは、Y社に採用され、大阪本社で勤務し、企画営業グループに所属し、その後Y社を退職した。

Xは、Y社に対し、未払いの時間外手当、深夜勤務手当、休日勤務手当等及び付加金の支払を求めた。

Y社は、Xが管理監督者に該当する等と反論し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者にはあたらない。

付加金の支払いは命じない。

【判例のポイント】

1 Y社の主張のうち、勤務時間について厳格な規制をすることが困難であることをいう点については、そもそもXの業務は時間管理が困難なものとはいえない。また、デザイナーであることが管理監督者性を基礎付けるとはいえないところ、Y社の主張する点は、Xがデザイナーであることに由来するものであって、これをもって管理監督者性を基礎づけることはできない。

2 パーティションで区切っていたために、勤務態度についての管理が困難であったことについても、Xらデザイナーが仕事に集中するためにパーティションが設置されていたものであり、自由に休憩をとったりするために設置されていたものではないことからすると、これをもって管理監督者性を基礎づけることはできない。

3 Xの待遇が、Y社の従業員の中では、相対的に上位にあることは認められる。しかしながら、月々の時間外労働の時間数に見合うほどに高額であるとはいえない。また、Xの月額賃金は、おおむね定期的にほど同額で上昇してきた結果とみられ、管理監督者としての地位に就任したことによるものとみるのは困難である。

4 ・・・以上の検討によれば、多少なりとも管理監督者性を基礎付けることのできる事情としては、Xの待遇及び採用面接を担当したことの2点が挙げられるが、これらの点を総合考慮しても、Xが(1)労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、(2)労働時間、休憩、休日などに関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の職務が労働時間の規制になじまないような立場にあって、(3)管理監督者にふさわしい待遇がなされているとは認められないので、Xが管理監督者であると認めることはできない。

5 Xは、Y社における時間外手当不払いがY社の体質に由来する根深いものであるから、付加金の支払を命じるべきである旨主張する。
・・・しかしながら、ともかくもタイムカードや勤怠管理表のほとんどはY社より証拠として提出されていること、Xの勤務態度等についてY社から具体的な主張や立証がなされているわけではないこと、Y社側は和解による解決を最後まで模索していたこと等の点からすると、付加金については、これの支払いを命じないのが相当であると判断した

やはり、会社側の対応の難しさを感じます。

「だってしょうがないじゃないかー」という会社の声が聞こえてきそうです。

でも仕方ありません。 裁判所としてはこのように判断するんでしょうね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

労働時間23(B社事件)

おはようございます。

さて、今日は、宿直勤務の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

B社事件(東京地裁平成17年2月25日・労判893号113頁)

【事案の概要】

Y社は、建設施設の保守運行業務並びに修理工事、警備業務並びに防災防犯設備の施設管理等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員であり、警備業務に従事していた。

Xは、Y社に対し、更衣時間・朝礼時間・休憩時間及び仮眠時間が労基法上の労働時間に当たると主張し、未払賃金等の請求をした。

【裁判所の判断】

休憩時間は、労基法上の労働時間に該当しない。

仮眠時間は、労基法上の労働時間に該当する。

【判例のポイント】

1 労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれる時間をいうが、上記労働時間に該当するか否かは、労働者が当該時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定めるものというべきである。

2 ・・・当該時間が非労働時間である休憩時間といえるためには、単に実作業に従事しないということだけでは足らず、使用者の指揮命令下から離脱しているといえる時間、すなわち、労働者が権利として労働から離れることを保障されていると評価できることを要すると解される。そして、労働からの解放が保障されている休憩時間といえるためには、当該時間における労働契約上の役務提供が義務づけられていないと評価される必要がある。
・・・しかしながら、・・・休憩時間には、飲食店で外食する者がいたり、食事を持参していない者が食事を購入するために外出したり、あるいは仮眠をとる者もいるなど自由であったこと、休憩時間には、警備員が警備服上着(ジャケット)を脱ぐことは認められており、ネクタイを緩めることもあった旨認められるのであって、これらの事実に照らせば、休憩時間は事業場外への外出も可能であるなど、労働契約上の役務提供が義務づけられていなかったものと評価することができる

3 Xは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対し直ちに相当の対応をすることを義務づけられていると認められるのであるから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価することができる。したがって、Xは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めてY社の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。

4 Y社は、宿直した警備員に対し、宿直1回当たり2300円の特定勤務手当を支払っている。仮に、時間外労働が存在しているというのであれば、特定勤務手当の趣旨からして、その支払金額をXの請求額から控除すべきである、と主張する。
しかしながら、特定勤務手当は、「変形労働時間制の適用による勤務において宿泊した場合は、特定勤務手当1日につき、2300円を支給する」と規定されている上に、Y社は、仮眠時間中に実作業が30分以上に及ぶ場合に限って時間外勤務手当を支給しているが、その場合であっても、特定勤務手当が支給されていると認められるから、特定勤務手当の趣旨は、24時間勤務に伴う勤務に対する対価と解されるのであって、時間外賃金とは趣旨が異なるものと認められるから、これを時間外賃金の一部払いであると認めることはできず、Y社の主張は採用できない

オーソドックスな感じです。

未払時間外手当の請求に対して、会社側で「既に●●手当に含まれている」と主張することがよくあります。

上記判例のポイント4のようにです。

ここは、会社側が事前に対策をとっていれば、必ず対応できる部分です。

訴訟になってからでは、どうしようもありません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

管理監督者23(アイマージ事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

アイマージ事件(大阪地裁平成20年1月14日・労経速2036号14頁)

【事案の概要】

Y社は、カラーコピーサービス業務及びコンピュータのプリントアウトサービス、広告、出版及び印刷業等を営む会社である。

Xは、Y社の従業員としてコピーサービス店の店長をしていた。

Xは、Y社を退職後、Y社に対し、未払時間外手当の支払を請求した。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定

付加金の支払いは命じない

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、そもそも労働時間の管理になじまない者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきである。
Y社の主張するXの待遇に関する点は、いずれもXが本件店舗の店長であったことによって説明することも可能なものである。Xは、店長であるといって、その権限は、本件店舗の3階部分に及んでいたことをうかがわせる証拠はなく、1階部分に限定されていたものと推認される。また、Y社と強い結びつきがあり、Y社の経営に強い影響力を有していたことがうかがわれるAも頻繁に本件店舗を訪れていたことからすると、店長である以上に経営者と一体的な立場にあったとまでは認められない

2 Y社の主張するXの賃金待遇に関する点は、いずれもXが本件店舗の店長であったことによって説明するkとも可能なものである。他方で、合計26万円の月額賃金は、他の従業員に比べると好待遇であるとはいえ、店長であることを超えて管理監督者としての地位にあることを裏付けるものとしては不十分である

3 Xがタイムカードの打刻を懈怠することが少なかったことは事実であるが、打刻されている限りでは、所定の勤務時間は、きちんと就労しており、契約上も実態上も、時間管理がなされていなかったとは認められない。また、Xの意識においても、時間管理がなされていないとの認識はうかがわれない

4 Xの業務内容のうち、従業員の採用や従業員の給料の決定を行っていたことを認定するに足りる証拠はない。経理業務を担当していたことについては争いがないが、これのみを以て、Xが管理監督者の地位にあったと認めることはできない。
以上の検討によれば、Xが管理監督者の地位にあるとのY社の主張は採用できない。

5 事情はどうあれ、Xは、格別、困難を来すような事情がうかがわれないにもかかわらず、タイムカードをきちんと打刻しておらず、Y社が的確に時間外労働時間数を把握することを困難にしていることを考慮すると、Y社に付加金の支払いを命じるのは相当でない

付加金に関しては、珍しい判断のしかたです。

裁判所の裁量なので、ありなんでしょうけど、Xがタイムカードをきちんと打刻していなかったこととY社が残業代を支払ってこなかったことって、関係あるんでしょうか?

よくわかりません・・・。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者22(ゲートウェイ21事件)

おはようございます。

さて、今日は管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

ゲートウェイ21事件(東京地裁平成20年9月30日・労判977号74頁)

【事案の概要】

Y社は留学・海外生活体験商品の企画、開発、販売等を業とする会社である。

Xは、Y社に勤務し、銀座支店の支店長であり、Y社社内では、シニアブランチマネージャー(SBM、部長相当、非役員では最高等級)の地位にあり、営業を担当していた。

Xは、Y社を退職後、Y社に対し、未払時間外手当等の請求をした。

【裁判所の判断】

管理監督者には当たらない

付加金として、請求認容額とほぼ同額を認めた

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに勤務上の広い裁量があり、Xに残業を命じる立場の者はいないので、残業命令がないところを自らの意思で残業したにすぎないと主張する。
しかし、Y社代表者は、午前10時ころのみならず、遅い時刻にもメールや電話で、Xらに、営業成績の報告等をするよう、強く求めていたことが認められる。Xの地位からすれば、具体的に何日の何時まで残業せよという命令が出ることはないと考えられる。けれども、Y社では、全社的に営業成績(ノルマ)の達成を強く義務づけ、従業員一般に対して、これを達成するよう叱咤激励を繰り返したことが認められるところ、その達成には所定労働時間内の勤務では不十分であることは明らかであるから、Xに対して残業命令が出ていないという理由により、Y社が時間外手当の支払を免れることはないというべきである。

2 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであると解される。具体的には、(1)職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、(2)部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、(4)自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること、以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。

3 Xの職務内容は、部門の統括的な立場にあり、部下に対する労務管理上の決定権等はあるが、それは小さなものにすぎないといえる。また、時間外手当が支給されないことを十分に補うだけの待遇を受けておらず、出退勤についての自由も大きなものではないといえる。これを総合すれば、Xは、経営者との一体的な立場にあり、労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されるような地位とそれに見合った処遇にある者とはいえず、労働時間等に関する規定の適用を除外されることが適切であるとはいうことができない。したがって、Xは管理監督者には当たらないというべきであるから、Y社はXの時間外労働に対する手当の支払を免れられないというべきである。

4 本件において、Y社は、X1に対し時間外手当を支払わず、本件訴訟提起後も、X1の時間外労働自体を争うなどし、弁論の全趣旨によれば、逆に損害賠償訴訟を提起するという態度をとるなど、時間外手当を支払う姿勢が見られないから、付加金の支払いを命ずるのが相当である。なお、時間外手当の総額は、386万8621円と認められるが、請求の趣旨の範囲内(370万1571円)で認容する

この裁判例は、とても参考になります。

特に、判例のポイント1は、労働者側にとって非常に参考になります。

ノルマの達成が強く義務づけられていたという事実を裁判所は重く評価しています。

付加金に関する裁判所の判断は、会社にとっては、痛いところです。ただ、やむを得ないといった感じでしょうか。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

不当労働行為20(JR東日本(千葉動労・安全運転闘争)事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒処分と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

JR東日本(千葉動労・安全運転闘争)事件(中労委平成23年4月20日・労判1026号181頁)

【事案の概要】

Y社は、鉄道事業法等の法令に従い、列車運転速度表および運行図表を定めるとともに運転作業要領等の各種規程を設けて、これらを運転士全員に配布し、列車を利用する乗客に対して駅での列車の発着時刻を列車時刻表として公表している。

X組合は、運転保安確立を求めて平成18年3月、千葉支社管内の全線区で列車の最高速度を制限する安全運転闘争を行った。

これに対し、Y社は、組合所属の運転士の乗務する列車に管理者を添乗させて運転状況を確認した。その結果、乗務区間において1分以上の遅れが生じた列車は15本、関与した運転士はAら12名の組合員であった。

Y社は、安全運転闘争を決定・指示した組合本部役員であるBら6名を戒告処分に、また、安全運転闘争に参加したAら組合員12名を厳重注意処分に付した。

【労働委員会の判断】

戒告処分、厳重注意処分は、不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

1 本件争議行為は、意図的に会社における列車の定時運行体制に支障を生じさせるものであり、単に不完全な労務提供や労務の一部のみの提供という消極的態様にとどまるものではない。また、本件争議行為への会社の対応に照らすと、本件において会社が組合員らの就労を受け入れたからといって、本件争議行為を容認したとか、これが正当性を有するということにはならない。さらに、本件争議行為は、乗務員等の連携作業を乱すものであり、その結果として、列車事故等を招来しかねないという内在的危険性を有するものである。

2 以上のとおりであるから、本件争議行為は、いわゆる怠業という範疇を超えたものであり、争議行為として正当性の範囲を逸脱するといわざるを得ない。したがって、本件争議行為は労働組合の行為として正当性を有しないものである

3 ・・・そうすると、Bら6名に対する戒告処分については、その根拠や処分の程度等において相当性が認められ、また、上記各処分に当たって、会社がことさら組合員を萎縮させることにより、組合の弱体化を企図したとする事情はうかがえないから、労働組合法7条3号の支配介入に当たるとすることもできない。

4 したがって、Aら12名に対する厳重注意処分は、労働組合法7条3号の支配介入には当たらない。

本件では、組合員による争議行為が正当ではないと判断されたため、戒告処分等については、不当労働行為性が否定されています。

「安全運転闘争」により、かえって危険運転となってしまうと判断されたわけです。

皮肉なものです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為19(飛鳥交通神奈川(井土ヶ谷営業所)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合別残業抑制と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

飛鳥交通神奈川(井土ヶ谷営業所)事件(神奈川県労委平成23年4月27日命令)

【事案の概要】

Y社は、従業員465名(井土ヶ谷営業所に262名)をもってタクシー事業を営んでいる。

X組合は、Y社に対し、団交において、深夜勤務の残業代を支払うよう求め、その後、時間外割増賃金の支払を求める訴訟を提起した。

Y社は、訴訟の原告であるか否かにかかわらず、自交総連組合の組合員全員を対象に残業抑制等を開始した。

【労働委員会の判断】

組合別残業抑制は、不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 時間外勤務が禁止されたことで、自交総連組合の組合員には賃金額の減少という経済的不利益性が存在する。また、公休出勤についても、休日における所定時間外労働であるから、これを禁止することは、前記時間外勤務の禁止と同様の理由で賃金が減額となり、経済的不利益性があるものと言える。

2 以上のことからすると会社は、個々の組合員が残業代について異議があること及び自交総連組合の組合員であることのゆえをもって残業抑制等の不利益取扱いを行っているものであり、また、本件残業抑制等の措置は、残業代未払請求という労働組合の活動方針に対する重大な妨害行為に当たるとともに、組合員を自交総連組合から脱退させようとの意図に基づく支配介入に当たると言うほかない。

3 すなわち、残業代未払請求という自交総連組合及びその組合員の行為は、その請求に係る法的結論の帰趨はともかくとして、労働基準法に基づく正当な権利主張と言うことができる。したがって、労働組合の正式な活動方針に従い、当該組合員が裁判所に支払請求を提起することは、労働組合の正当な行為に当たるから、本件残業抑制等の措置は、正当な組合活動を理由とする報復的な不利益取扱いに該当する。また、会社が、個々の組合員が別件訴訟の原告となっているか否かを問うことなく、自交総連組合の組合員であることのみをもって一律に残業抑制等を行っていることは、労働組合の組合員であることを理由とする不利益取扱いに該当する

4 さらに、会社が別件訴訟を取り下げさせるために本件残業抑制等の措置を取っていることは、労働基準法に基づく残業代未払請求という組合の自主的な活動方針に対する露骨な妨害行為に当たる。と同時に、本件残業抑制等の措置は、自交総連組合を脱退した者が直ちに残業抑制等の対象から外されていることからすれば、同組合員に自交総連組合からの脱退を強く促す悪質な脱退工作というべきであり、これらの点でも労働組合法7条3号で禁止された支配介入に該当する

やり方が露骨だと、このような結果になってしまいます。

会社としては、もう少し「見せ方」を工夫しなければいけません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

労働時間22(奈良県(医師・割増賃金)事件)

おはようございます。

さて、今日は、産婦人科医の宿日直勤務や宅直勤務の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

奈良県(医師・割増賃金)事件(大阪高裁平成22年11月16日・労判1026号144頁)

【事案の概要】

Y病院は、奈良県が設置運営する病院である。

Xらは、Y病院の産婦人科に勤務する医師である。

Xらは、奈良県に対し、宿日直勤務および宅直勤務は労働時間であるとして、労基法37条の定める割増賃金の支払いを請求した。

【裁判所の判断】

宿日直勤務については、割増賃金の請求を認める。

宅直勤務については、割増賃金の請求を認めない。

【判例のポイント】

1 労働基準法41条3号の監視労働とは、原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない者、断続的労働とは、休憩時間は少ないが手待ち時間は多いものをいうと解されるところ、これらの労働は労働密度が薄く、精神的肉体的負担も小さいことから、当該労働時間は、全て使用者の指揮命令下にある労働時間であることを前提とした上で、所轄労働基準監督署長の許可を受けることを条件として、労働基準法32条その他同法上の労働時間に関する規定、休憩やや休日に関する規定の適用を免れるとしたものと解される。

2 Y病院の産婦人科医師の宿日直勤務は、その具体的な内容を問うまでもなく、外形的な事実自体からも、奈良労働基準監督署長が断続的な宿直又は日直として許可を行う際に想定していたものとはかけ離れた実態にあった、ということができる。このことに照らすと、奈良労働基準監督署長がY病院の宿日直勤務の許可を与えていたからといって、そのことのみにより、Xらの宿日直業務が労働基準法41条3号の断続的業務に該当するといえないことはもちろん、上記許可の存在から、Y病院における宿日直業務が断続的業務に当たると推認されるということもできない。

3 マンションの住み込み管理員が、雇用契約上の休日に断続的な業務に従事していた場合において、使用者が、管理員に対し、管理員室の証明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には、休日に業務を行うべきことを明示に指示していなかった事実関係の下では、使用者が休日に行うことを明示又は黙示に指示したと認められる業務に管理員が現実に従事した時間のみが、労働基準法32条の労働時間に当たる
ところが、本件で問題となっている宅直については、Y病院長がY病院の産婦人科医らに対し、明示又は黙示の業務命令に基づき宅直勤務を命じていたものとは認められないのであるから、Xらが宅直当番日に自宅や直ちにY病院に駆けつけることが出来る場所等で待機していても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができない
・・・以上のとおり、Xらの宅直勤務は、Y病院の明示又は黙示の業務命令に基づくとは認められないので、これが労働基準法上の労働時間に当たると認めることはできない。

4 とはいっても、Y病院の宅直制度が、医師は緊急の措置を要請された場合にはこれに応ずべきであるとする、プロフェッションとしての医師の職業意識に支えられた自主的な取組みであり、Y病院における極めて繁忙な業務実態からすると、現行の宅直制度の下における産婦人科医の負担は、プロフェッションとしての医師の職業意識から期待される限度を超える過重なものなのではないか、との疑いが生ずることも事実である(また、そもそも、雇用主である奈良県が、雇用される立場のXらのプロフェッションとしての医師の職業意識に依存した制度を運用することが正当なのかという疑問もある。)。
奈良県においては、Y病院における1人宿日直制度の下での宿日直担当医以外の産婦人科医の負担の実情を調査し、その負担(宅直制度の存否にかかわらない。)がプロフェッションとしての医師の職業意識により期待される限度を超えているのであれば、複数の産婦人科宿日直担当医を置くことを考慮するか、もしくは宿日直医の養成に応ずるため、自宅等で待機することを産婦人科医の業務と認め、その労働に対して適正な手当を支払うことを考慮すべきものと思われる。

少し前に、この事件の記事についてこのブログで取り上げました。

裁判所は、宿日直勤務を、労基法41条3号の断続的労働とは認めず、その全体についてY病院の指揮命令下にある労基法上の労働時間であるとして、割増賃金の請求を認容しました。

他方、宅直勤務については、医師の自主的な取組みであり、Y病院からの黙示の業務命令によるものとは認められないとして、労基法上の労働時間に当たらないとしました。

このような判断をしておきつつ、裁判所は、上記判例のポイント4で、バランスを保とうとしています。

こういうのを「蛇足」とかいわれちゃうんでしょうか・・・。 僕は、いいと思うんですけど。

なお、本件では、上告受理申立てがされているようです。 最高裁の判断が待たれます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。