解雇51(加西市(職員・懲戒免職)事件

おはようございます。

さて、今日は、公務員の酒気帯び運転と懲戒免職に関する裁判例を見てみましょう。

加西市(職員・懲戒免職)事件(大阪高裁平成21年4月24日・労判983号88頁)

【事案の概要】

Xは、市の職員であったが、休日に行った酒気帯び運転を理由に、懲戒免職処分を受けた。

Xは、本件懲戒免職処分は違法なものであり、取り消されるべきであると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す

【判例のポイント】

1 地方公務員法29条1項は、地方公務員に同項1号ないし3号所定の非違行為があった場合、懲戒権者は、戒告、減給、停職又は免職の懲戒処分を行うことができる旨を規定するが、同法は、すべての職員の懲戒について「公正でなければならない」と規定し(同法27条1項-公正原則)、すべての国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われなければならない(同法13条-平等原則)と規定するほかは、どのような非違行為に対しどのような懲戒処分をすべきかについて何ら具体的な基準を定めていないし、同法29条4項に基づいて定められた本件条例や本件規則にも、その点の具体的な定めはない。

2 したがって、加西市長は、非違行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、加西市職員の非違行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する懲戒処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分をすべきかを、その裁量により決定することができると解される

3 もっとも、その裁量も全くの自由裁量ではないのであって、決定された懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠いて苛酷であるとか、著しく不平等であって、裁量権を濫用したと認められる場合、公正原則、平等原則に抵触するものとして違法となると解される

4 本件の非違行為というのは、Xが職務とは無関係に、休日に行った本件酒気帯び運転であり、約400メートルを時速約40キロメートルで走行したもので、運転時間も走行距離も極く短く、速度も高速ではなく、酒気帯び運転以外の法律違反を犯したわけでもない。しかも、Xの呼気から検知されたアルコールの量は、道路交通法違反として処罰される最下限の水準(呼気1リットル中0.15ミリグラム)にすぎなかったのである。したがって、本件酒気帯び運転の非違行為の性質、態様、結果という点で、悪質さの程度が高いわけではない

5 非違行為の原因や動機についてみるに、Xは飲酒後に運転することが分かっていながら自動車を運転して出かけたとか、あるいは自ら積極的に飲酒を提案したり酒を注文したわけではなく、休日に知人の草刈りの手伝いをしたことをきっかけとして、たまたま当該知人に勧められて飲酒したにすぎないのであって、また、飲酒後すぐに運転するのを躊躇して店内で30分ないし40分程度時間を過ごして運転を開始したものであって、非違行為に躇して店内で30分ないし40分程度時間を過ごして運転を開始したものであって、非違行為に至った原因や動機について、重い非難に値するとか、破廉恥な事情があったとまではいえない

6 Xは、本件酒気帯び運転の事実を翌日直ちに職場に報告しており、非違行為を隠蔽していないし、Xには前科前歴もなく過去に懲戒処分等の処分歴もないのであって、これらの事情はXに有利に汲むべきものである。

本件は、一審では、懲戒免職処分は有効であると判断されました。

高裁は、上記判例のポイントにある事情等を考慮して、処分を取り消しました。

会社の従業員が、本件同様に、酒気帯び運転をした場合、いかなる処分をすべきか、会社としては決断しなければなりません。

なんでもかんでも懲戒解雇でいいのか。 会社として、モラルハザードを防ぐという観点と、訴訟リスク、敗訴リスクという観点の両方から、実質的な判断が求められます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。