Monthly Archives: 6月 2011

解雇43(セコム損害保険事件)

おはようございます。

さて、今日は、従業員の礼儀・協調性の欠如と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

セコム損害保険事件(東京地裁平成19年9月14日・労判947号35頁)

【事案の概要】

Y社は、損害保険業を営む会社である。

Xは、平成17年4月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結した。

Y社は、平成18年4月、Xに対し、即日解雇(懲戒解雇)するとの意思表示をした。

解雇通知書によれば、解雇事由は、「礼儀と協調性に欠ける言動・態度により職場の秩序が乱れ、同職場の他の職員に甚大なる悪影響を及ぼしたこと」「良好な人間関係を回復することが回復不能な状態に陥っていること」「再三の注意を行ってきたが改善されないこと」の3点である。

Xは、本件懲戒解雇は、解雇事由がなく、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1  Xの職場における言動は、会社という組織の職制における調和を無視した態度と周囲の人間関係への配慮に著しく欠ける者である。そして、Xがこのような態度・言辞を入社直後からあからさまにしていることをも併せ考えると、
、X自身に会社の組織・体制 の一員として円滑かつ柔軟に適応していこうとする考えがないがしろにされていることが推認される。換言すれば、このようなXの言動は、自分の考え方及びそれに基づく物言いが正しければそれは上司たる職制あるいは同僚職員さらには会社そのものに対してもその考えに従って周囲が改めるべき筋合いのものであるという思考様式に基づいているものと思われる。

2 そのため、ことごとく会社の周囲の人間からの反発を招いている。しかも、そのような周囲の反応はXの入社後間もなく示されていて、X自身もそのこと自体には気がついているにもかかわらず、上記のような自己の信念なり考え方にXは固執して、自己の考えなり立場を周囲の人間に対して一方的にまくし立てて周囲の人間の指導・助言を受け入れたり従う姿勢に欠けるところが顕著である。

3 上記のようなXの問題行動・言辞の入社当初からの繰り返し、それに対するY社職制からの指導・警告及び業務指示にもかかわらずXの職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると、X・Y社間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず、少なくとも平成18年3月末時点ではもはや回復困難な程度に破壊されているものと見るのが相当である。
それゆえ、Y社によるXに対する本件解雇は合理的かつ相当なものとして有効であり、解雇権を濫用したことにはならないものというべきである

4 Y社は、当初懲戒解雇と通告しておきながらその後普通解雇であると主張しているところには、処分の性格の就業規則に照らしたあいまいさが残るものの、本件解雇の趣旨は、懲戒解雇の意思表示の中には普通解雇をも包含するものと解釈することも可能であり、本件解雇が懲戒解雇ではなく普通解雇として何等効力を持ちえないものとまではいうことができない

5 懲戒解雇としては就業規則に明示されたものでなければ原則として当該規則に則った処分をすることができないものというべきところ、普通解雇は通常の民事契約上の契約解除事由の一つとして位置づけられ、就業規則に逐次その事由が限定列挙されていなければ行使できないものではない

このケースでは、Y社は、当初、懲戒解雇としていたのを、途中から普通解雇に変更しています。

このケースで、懲戒解雇を維持した場合、結果はどうなったのでしょうか?

通常、本件と同様のケースの場合、会社としては普通解雇を選択するのが無難です。

それにしても、X・Y社間の信頼関係は採用当初から成り立っていないというのは、すごいですね。

採用時に判断できなかったことを考えると、採用の難しさを考えさせられます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇42(京都たつた舞台事件)

おはようございます。

さて、今日は、業務能率不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

京都たつた舞台事件(大阪高判平成18年11月22日・労判930号92頁)

【事案の概要】

Y社は、演劇に使用する舞台装置(大道具、小道具)の製作、施工などを業務とする会社である。

Xは、平成14年5月、Y社との間で期間定めのない雇用契約を締結した。

Y社は、平成15年6月、Xに対し、再三の注意にもかかわらず、業務能率が著しく不良であることを理由に、解雇予告をした。

なお、Y社就業規則43条には、解雇事由として、「勤務成績又は業務能率等が著しく不良で、従業員としてふさわしくないと認められたとき」と規定されている。

Xは、本件解雇は解雇権の濫用にあたり、無効であると主張し争った。 




【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xの行為は、舞台稽古中の出来事ではあったが、Xは、何度も指示されても、演者との間が合わないままであり、きっかけ(合図)を出してもらっても、うまく障子を開閉することができなかったものであるから、演者と裏方との緊密な共同作業の中で、他の職人であれば取ることができるようになるタイミングを、最後までつかめなかったものと認められる。舞台芸術では、演者と裏方とが、間あるいはタイミングを合わせることを必要不可欠な要素とするものであるが、Xには、この裏方に必要な演者と一体となって作業するために必要な時間的感覚が欠けているために、上記の都おどりの件が生じたものと認められる。
そして、Xの上記行為の結果、舞台の進行をすべて止めてしまうような事態を引き起こしたり、さらには、主催者らからXを担当から替えるよう求められる事態に至っているのであるから、Xの上記行為は、「業務能率が著しく不良である」場合に当たることは明白である。

2 Xの各行為は、いずれも「業務能率等が著しく不良である」場合に当たるか、それをうかがわせる事実ということができるところ、これらの事実を総合して勘案すると、Xは、他の従業員と協調して作業するという特殊性があるY社での勤務について適合せず、しかもそれはX本人の素質によるものが多いものと認められるから、。Xは、就業規則43条1項が規定する「業務能率等が著しく不良である」場合に該当し、それを理由とするY社のXに対する本件解雇には解雇権の濫用はなく、正当というべきである。

3 なお、Xは、Y社に入社した当初から本件解雇がなされるまでの間、遅刻や欠勤などを一切しなかった旨主張し、その事実は認められるが、そのことを考慮しても上記判断を左右するには至らない。 

成績不良の従業員の解雇については、通常、裁判所は厳しい判決を出します。

しかし、本件では、解雇は有効であると判断されました。

ポイントは、Xの業務能率不良が与える影響の大きさ、顧客からのクレームの存在、他の従業員との協調性が重要であるという業務内容の特殊性、業務能率不良の原因がX本人の素質によること、などです。

この裁判例をどこまで一般化すべきか、悩ましいところです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為14(函館厚生院事件)

おはようございます。

今日は、終日、事務所で仕事をする予定です。 途中、接見に行ってきます。

今日も一日がんばります!!

さて、組合員参加型団体交渉(大衆交渉)の拒否と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

函館厚生院事件(東京地裁平成20年3月26日・労判969号77頁)

【事案の概要】

Y社は、社会福祉法人であり、函館中央病院を設置・運営している。

X組合は、Y社の従業員によって結成され、組合員数は605名である。

X組合は、平成16年3月、5月、7月、北海道地方労働委員会に対し、(1)X組合が、団体交渉手続の変更、労働協約の解約、就業規則の変更について団体交渉を申し入れたにもかかわらず、Y社がこれを拒否したこと、(2)Y社が、上記団体交渉に応じないまま、労働協約を解約し、就業規則を変更したこと、(3)Y社が、平成16年1月の労使協議会において、X組合に対し、労使協議会の設置目的を逸脱した対応をしたこと、(4)Y社が、X組合に対し、春闘時の組合旗掲揚及び腕章の着用等を許可しなかったこと、(5)X組合が、平成16年度春闘要求について団体交渉を申し入れたにもかかわらず、Y社がこれを拒否したこと、(6)Y社が、X組合に対し、定期昇給等を求める署名活動に抗議し、その中止を求めたこと、がそれぞれ不当労働行為に当たるとして、救済を申し立てた。

道労委及び中労委は、いずれも、一部について不当労働行為にあたると判断したため、Y社は、行政訴訟を提起した。

【裁判所の判断】

請求棄却(不当労働行為にあたる)

【判例のポイント】

1 団体交渉とは、労働組合と使用者又は使用者団体が自ら選出した代表者(交渉担当者)を通じて労働協約の締結を目的として行う統一的交渉のことであるから、使用者は、労働組合から交渉担当者以外に多数の組合員が参加する方式の団体交渉を申し入れられた場合には、原則として、交渉体制が労働組合に整っていないことを理由として、交渉体制が整うまでの間団体交渉を拒否することができるというべきである。

2 しかし、団体交渉が労使間の話合いであるという性質上、団体交渉においては、労使間の自由な意思(私的自治)ができる限り尊重されるべきであるから、交渉の日時、場所、出席者等の団体交渉手続について、労働協約に定めがある場合はもちろん、そうでなくても労使間において労使慣行が成立している場合には、当該労使慣行は労使間の一種の自主的ルールとして尊重されるべきであり、労使双方は、労働協約又は労使慣行に基づく団体交渉手続に従って団体交渉を行わなければならないというべきである

3 組合員参加型団体交渉は、相当長期間にわたって反復継続して行われたものとして、労使慣行となっていたというべきであるから、Y社は、参加人から労働条件等の義務的団体交渉事項について組合員参加型団体交渉の申入れがあった場合には、正当な理由がない限り、これに応じなければならないというべきである

4 Y社は、平成15年12月、参加人から組合員参加型団体交渉手続の変更等について組合員参加型団体交渉の申入れを受けたにもかかわらず、これに応じない旨回答し、その後も組合員参加型団体交渉に応じなかったのであるから、かかるY社の対応は、労組法7条2号の団体交渉拒否に当たるというべきである。

原則論について、上記判例のポイント1で述べられています。

原則論は、菅野先生の「労働法」(第9版)559頁が採用されています。

しかし、本件では、労使慣行により、例外が肯定された事案です。

本件では、労使慣行があったと認定されていますが、判決理由を読む限り、労使慣行が存在したかどうかは微妙なところです。

いろんな方法で団体交渉をしており、必ずしも大衆交渉ばかりであったとはいえません。

会社側の教訓としては、最初から適切な対応をしておくべきであり、合理的理由のない譲歩は慎むべきであるということです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為13(日産自動車事件)

おはようございます。

さて、今日は、使用者の中立保持義務に関する裁判例を見てみましょう。

日産自動車事件(最高裁昭和60年4月23日・労判450号23頁)

【事案の概要】

Y社は、乗用車等の製造を業とする会社である。

Y社は、従来から工場の製造部門で昼夜2交替勤務体制および計画残業と称する恒常的な時間外・休日勤務体制をとっていた。

昭和41年8月にA会社を合併したY社は、翌年2月より上記両体制を旧Aの工場の製造部門にも導入した。

合併後のXには従業員の大多数を組織するX組合と、ごく少数の従業員を組織するのみとなったZ組合とが併存していたところ、Z組合は、かねてより深夜勤務に反対しており、Y社は上記両体制の導入に際し、X組合とのみ協議を行い、Z組合には何らの申入れ等を行わなかった。

そして、Y社は、X組合の組合員にのみ交代勤務・残業を命じ、Z組合の組合員については昼間勤務にのみ従事させ、残業を一切命じなかった。

Z組合は、Z組合の組合員に残業を命じないことはX組合の組合員と差別する不当労働行為であると主張した。

【裁判所の判断】

不当労働行為が成立する。

【事案の概要】

1 労組法のもとにおいて、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には、各組合は、その組織人員の多少にかかわらず、それぞれ全く独自に使用者との間に労働条件等について団体交渉を行い、その自由な意思決定に基づき労働協約を締結し、あるいはその締結を拒否する権利を有するのであり、使用者と一方の組合との間では一定の労働条件の下残業に服する旨の協約が締結されたが、他方の組合との間では当該組合が上記労働条件に反対して協約締結に至らず、両組合の組合員間で残業に関して取扱いに差異が生じても、それは使用者と労働組合との間の自由な取引の場において各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果が異なるにすぎず、一般的、抽象的には、不当労働行為の問題は生じない

2 しかし、団体交渉の結果が組合の自由な意思決定に基づく選択によるものといいうる状況の存在が前提であり、この団体交渉における組合の自由な意思決定を実質的に担保するために、労組法は使用者に対し、労働組合の団結力に不当な影響を及ぼすような妨害行為を禁止している。このように、併存する各組合はそれぞれ独自の存在意義を認められ、固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されており、その当然の帰結として、使用者は、いずれの組合との関係においても誠実に団体交渉を行うべきことが義務づけられ、また、単に団体交渉の場面に限らず、すべての場面で使用者は各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取扱いをすることは許されない。

3 複数組合併存下においては、使用者に各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなされるべきではない。

4 しかし、団体交渉の場面においてみるならば、合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であっても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為であり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法7条3号の不当労働行為が成立する

5 本件では、上記特段の事情が認められ、不当労働行為が成立するとした原審の判断は是認できる。

複数組合併存下における使用者の中立保持義務に関する最高裁判例です。

上記判例のポイント4の「当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情」があると認定されないように気をつけなければいけません。

会社としては、中立かつ誠実に各組合と交渉をすることが求められています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。