おはようございます。
さて、今日は、看護師、介護職員らの時間外労働と割増賃金に関する裁判例を見てみましょう。
医療法人大寿会(割増賃金)事件(大阪地裁平成22年7月15日・労判1023号70頁)
【事案の概要】
Y社は、病院と老健施設を設置運営する医療法人である。
Xらは、看護師、看護助手、清掃職員、介護職員およびデイケア職員である。
Y社では、病院に勤務する職員用に、病院地下1階のエレベーター脇にタイムレコーダーを設置しており、老健施設に勤務する職員用に老健施設1階の老健食堂入口付近にタイムレコーダーを設置しているが、老健施設に勤務する職員も更衣室で着替えることになっている。
Xらは、Y社に対し、時間外労働の割増賃金を請求した。
【裁判所の判断】
時間外労働の割増賃金を認めた。
付加金の支払いも命じた。
【判例のポイント】
1 (1)Xらはいずれも、出勤後、着替えた後にタイムカードの出勤打刻をし、終業後、着替える前にタイムカードの打刻をしていたものであること、(2)平成19年12月ことまでの間、Y社においては、始業時間や終業時間の合図等があるわけではなく、それぞれの職員が自らの判断で業務に取り掛かり、業務を終了していたこと、(3)Y社が平成18年9月よりも前に作成した業務マニュアルにおいては、所定始業時間よりも前に業務を開始することを前提とする記載があり、同月より後にY社が作成した業務スケジュールについても、所定始業時間よりも前に行うべき業務が記載されていたり、所定勤務時間と符合しないスケジュールが記載されていたものであること、(4)夜勤の看護師及び介護職員は日勤者から引継ぎを受ける必要があり、逆に日勤の看護師及び介護職員は夜勤者から引継ぎを受ける必要があるが、就業規則上、この引継ぎ又はミーティングのための時間が特に設けられていたわけではなく、所定時間外で行う必要があったこと、(5)この引継ぎ又はミーティング以外にも、看護師は患者の尿の処理や検温のため、看護助手は食事の準備のため、介護職員はベッドメイクやゴミ収集等のため、デイケア職員は名札を机に並べる等の作業のため、清掃作業員は入浴の準備のため、それぞれ所定時間よりも前から業務に就くことがあったし、所定勤務時間内に業務が終了せずに所定終業時間を超えて勤務することもあったこと、(6)Xらはいずれも、通勤バスを利用している者ではなく、勤務が終了したにもかかわらずY社のの施設内にとどまっている必要がある者ではないこと、(7)Y社自身、労基署に対する是正報告書において、一定の時間外労働があったことを前提とする残業代の再計算を行う旨を明らかにし、実際に、Xら各自に対して自らの再計算に基づき残業代を支払ったことが認められる。
2 以上の事実を前提とすると、Xらについては、タイムカードの出勤打刻後、退出打刻までの間、休憩時間を除くほかY社の業務に従事していたと認めるのが相当である。したがって、Xらの労働時間は、タイムカードの打刻時刻を基準として認定するのが相当であり、出勤打刻時から所定始業時間までの間及び所定終業時間から退勤打刻時まではそれぞれ時間外労働として割増賃金支払の対象となると解される。
3 Y社を既に退職したX1は、Y社に対し、未払の割増賃金に対する退職日の翌日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律6条1項及び同法施行令所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、Y社は、同条2項に定める事由があると主張して、同条1項の遅延利息の適用を争っている。
しかしながら、同条6条2項において同条1項の遅延利息の適用の例外とされているのは、賃金の支払の遅滞が「天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものである場合」であるところ、かかる規定の文言及び同法が賃金の支払の確保措置を通じて労働者の生活の安定に資することを目的としていること(同法1条参照)に照らすならば、同法施行規則6条にいう「合理的な理由により、裁判所(中略)で争っていること」とは、単に事業主が裁判所において退職労働者の賃金請求を争っているというのでは足りず、事業主の賃金支払拒絶が天災地変と同視し得るような合理的かつやむを得ない事由に基づくものと認められた場合に限られると解するべきである。
4 本件において、Y社のX1に対する賃金支払拒絶に上記のような合理的かつやむを得ない事由があるものとは本件全証拠によっても認めることができない。
したがって、X1は、Y社に対し、年14.6%の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。
5 Y社は、労基署の指導がなされるまで、Xらに対する時間外労働に対する割増賃金の支払を全くしていなかったものであるところ、その後独自の計算に基づく低額の金員の支払はしたものの、本件訴訟が提起された後においても、Xらの時間外労働の事実自体を争い、裁判所の和解勧告にも応じようとせず、未払の時間外割増手当を支払う姿勢が全く見られない。このような本件の事案に照らすと、本件においては、Y社に対し、労基法114条に基づき付加金の支払を命ずることとするのが相当である。
上記判例のポイント1のような状況は、
本件の病院に限った話ではないと思います。
これまでのいくつかの病院の労働時間に関する裁判例を見てきましたが、どこも同じような問題を抱えています。
裁判所としては、このような判断をすることになります。
病院が、現実に、法律や裁判例で要求されている厳密な労働時間管理ができるか、考えなければいけません。
残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。