Daily Archives: 2011年6月8日

解雇43(セコム損害保険事件)

おはようございます。

さて、今日は、従業員の礼儀・協調性の欠如と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

セコム損害保険事件(東京地裁平成19年9月14日・労判947号35頁)

【事案の概要】

Y社は、損害保険業を営む会社である。

Xは、平成17年4月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結した。

Y社は、平成18年4月、Xに対し、即日解雇(懲戒解雇)するとの意思表示をした。

解雇通知書によれば、解雇事由は、「礼儀と協調性に欠ける言動・態度により職場の秩序が乱れ、同職場の他の職員に甚大なる悪影響を及ぼしたこと」「良好な人間関係を回復することが回復不能な状態に陥っていること」「再三の注意を行ってきたが改善されないこと」の3点である。

Xは、本件懲戒解雇は、解雇事由がなく、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1  Xの職場における言動は、会社という組織の職制における調和を無視した態度と周囲の人間関係への配慮に著しく欠ける者である。そして、Xがこのような態度・言辞を入社直後からあからさまにしていることをも併せ考えると、
、X自身に会社の組織・体制 の一員として円滑かつ柔軟に適応していこうとする考えがないがしろにされていることが推認される。換言すれば、このようなXの言動は、自分の考え方及びそれに基づく物言いが正しければそれは上司たる職制あるいは同僚職員さらには会社そのものに対してもその考えに従って周囲が改めるべき筋合いのものであるという思考様式に基づいているものと思われる。

2 そのため、ことごとく会社の周囲の人間からの反発を招いている。しかも、そのような周囲の反応はXの入社後間もなく示されていて、X自身もそのこと自体には気がついているにもかかわらず、上記のような自己の信念なり考え方にXは固執して、自己の考えなり立場を周囲の人間に対して一方的にまくし立てて周囲の人間の指導・助言を受け入れたり従う姿勢に欠けるところが顕著である。

3 上記のようなXの問題行動・言辞の入社当初からの繰り返し、それに対するY社職制からの指導・警告及び業務指示にもかかわらずXの職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると、X・Y社間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず、少なくとも平成18年3月末時点ではもはや回復困難な程度に破壊されているものと見るのが相当である。
それゆえ、Y社によるXに対する本件解雇は合理的かつ相当なものとして有効であり、解雇権を濫用したことにはならないものというべきである

4 Y社は、当初懲戒解雇と通告しておきながらその後普通解雇であると主張しているところには、処分の性格の就業規則に照らしたあいまいさが残るものの、本件解雇の趣旨は、懲戒解雇の意思表示の中には普通解雇をも包含するものと解釈することも可能であり、本件解雇が懲戒解雇ではなく普通解雇として何等効力を持ちえないものとまではいうことができない

5 懲戒解雇としては就業規則に明示されたものでなければ原則として当該規則に則った処分をすることができないものというべきところ、普通解雇は通常の民事契約上の契約解除事由の一つとして位置づけられ、就業規則に逐次その事由が限定列挙されていなければ行使できないものではない

このケースでは、Y社は、当初、懲戒解雇としていたのを、途中から普通解雇に変更しています。

このケースで、懲戒解雇を維持した場合、結果はどうなったのでしょうか?

通常、本件と同様のケースの場合、会社としては普通解雇を選択するのが無難です。

それにしても、X・Y社間の信頼関係は採用当初から成り立っていないというのは、すごいですね。

採用時に判断できなかったことを考えると、採用の難しさを考えさせられます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。