おはようございます
昨日は、すごい雨でしたね
島田の裁判所から車で帰る途中、前がほとんど見えず、怖かったです
今日は、午前中は、顧問先でK・MIXラジオの打合せです
午後は、簡裁で、民事調停1件、裁判1件、他の事務所で裁判の打合せが1件という流れです。
というわけで、あまり事務所におりません。
今日も一日がんばります!!
さて、今日は、精神疾患・自殺と労災に関する裁判例を見てみましょう。
川崎重工業事件(神戸地裁平成22年9月3日・労判1021号70頁)
【事案の概要】
Y社は、従前より、鉄道車両の製造の受注はしていたが、鉄道車両のみならず、電力設備、車両整備基地、軌道設備、通信・案内設備、信号・保安設備及び総合管理室等を一体とした鉄道システムを受注・納入する事業を行うことを目的として、平成9年1月、同事業の準備のため、交通システム推進部が東京本社に設置された。
Xは、昭和46年、Y社に入社し、その後、プラントビジネスセンター産機プラント部輸送空港システムグループ等で勤務した。
Xは、平成12年12月、医師の診察を受け、うつ病の診断を受けた。
Xは、その後も治療を受けながら職務を遂行していたが、平成14年5月、自宅で自殺した。
Xの妻は、Xの自殺は、過重な業務に起因するうつ病によるものであると主張した。
【裁判所の判断】
神戸東労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定
【判例のポイント】
1 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡について行われるが、業務上死亡した場合とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される。
また、労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、上記にいう、業務と死亡との相当因果関係の有無は、その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。
2 そして、同法による労働災害補償制度が使用者等の過失の有無を問わず、業務に内在する危険が現実化したことにより、当該労働者に生じた損害を一定の範囲で填補するという危険責任の法理に依拠したものであること、また、うつ病をはじめとする精神障害の発症については、単一の病因ではなく、素因、環境因の複数の病因が関与すると考えられていること、さらに、精神障害の病因としては、個体側の要因としてのストレス半の反応性、脆弱性等もあり得ることからすれば、上記相当因果関係があるというためには、これらの要因を総合考慮した上で、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、当該災害の発生が業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したことによるものとして、これを肯定できると解すべきである。
3 業務に内在する危険性の判断については、上記の危険責任の法理にかんがみれば、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきである。
4 このような平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発症させる程度に危険度を有しており、他方で、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、精神障害の発症は、まさに業務に内在する危険が現実化したものであるといえ、業務と精神障害発症及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。
5 被告は、うつ病発症後の業務上の負荷については、業務起因性の判断に用いるべきではないと主張する。また、判断指針及び改正判断指針も、概ね精神障害の発症前6か月間の業務による心理的負荷について検討するとし、精神障害の発症後、自殺に至るまでの間における業務による心理的負荷を考慮していない。
しかし、例えば、業務上の負荷によりうつ病等の精神障害を発症した者が、まだ完全に行為選択能力や自殺を思いとどまる抑制力を失っていない状態において、改めて、社会通念上、平均的労働者がうつ病を発症する程度の心理的負荷を受けた結果、希死念慮を生じ、自殺を行う場合があり、そのような場合には、相当因果関係を認めるのがむしろ合理的であるといえる。そうすると、精神障害の発症後においては、業務上の負荷を、その程度にかかわらず業務起因性の判断の際の考慮要素としてはならないとする被告の主張は、採用することができない。
6 平成12年7月、韓国案件を担当するようになった後のXの心理的負荷は非常に大きなものであったと認められ、その平均的負荷の強度は、判断指針によれば「Ⅱ」と評価されるが、Y社から嘱望されて再入社し厚遇を受けている以上、それに見合う実績を上げることを自他ともに期待されていたXが、失敗が許されないというだけでなく、失敗すればY社における自らの存在価値も問われかねないことが予想され、他方で、当該業務の内容は、Xが過去にY社で経験してきた製鉄関連業務とは全く異なり、ギャップを生じていたこと等からすれば、Xの負担していた業務量そのものが恒常的な長時間労働をするようなものではなかったとしても、上記の事情は、平均的な労働者にとって同様の立場に置かれた場合には心理的負荷の強度の修正要素となるというべきであり、「Ⅲ」に修正されるべきである。
上記判例のポイント5は、参考になります。
また、業務起因性の判断にあたり、見落としがちな事実をしっかり拾えるか、その事実を適切に評価できるかにより、結果が変わってくるのがよくわかります。