おはようございます。
今日は、労働時間に関する裁判例を見てみましょう。
R社事件(大阪地裁平成22年10月29日・労判1021号21頁)
【事案の概要】
Y社は大阪府下で小中学生を対象とする学習塾を経営する会社である。
Xは、文系講師として、Y社に16年間勤務し、平成15年3月、自己都合で退職した。
Xは、他の学習塾勤務等を経て、平成19年7月、Y社に再入社し、期間の定めのない雇用契約を締結した。
Y社では、年に4回、生徒アンケートを実施しており、Xは、生徒アンケートで文系講師のうち最下位が続いた。
Y社は、Xには授業能力向上、改善の意欲が認められず、生徒アンケートの評価は最低線から向上しなかったことを理由として、Xに対し、解雇を通告した。
Xは、本件解雇は無効であると主張し争うとともに、時間外労働や休日労働の割増賃金を請求した。
【裁判所の判断】
解雇は有効
割増賃金の請求は認容。付加金も全額支払を命じた。
【判例のポイント】
1 Y社は、Xの給与の中には、週8時間分の固定時間外手当が含まれていると主張する。しかし、給与明細書上、基本給と時間外手当が明確に区別されているとはいえないこと、賃金規程上も固定時間外手当に関する規程は存在しないこと、その他にY社の上記主張を根拠付ける的確な証拠は見出し難いことからすると、Y社の同主張は理由がない。
2 Y社は、休憩時間の取得については各講師の裁量に委ねられており、予習時間、経営会議への参加、勉強会への参加は、いずれも労働時間には該当しないと主張する。
休憩時間とは、労働者が使用者による時間的拘束から解放されている時間を指すのであって、例えば、具体的な業務がなされていなくとも、使用者の指揮命令下におかれている限りは休憩時間ではなく労働時間であると解される。
3 本件についてみると、Xを含む講師は、生徒からの質問があれば、これに対応する必要があったこと、受付事務職員がいたとしても、来訪者が講師との面談等を求めることもあり、その場合には各講師が対応しなければならないこと、Y社においては、休憩時間が明確に設定されていなかったこと、Xの配属先である各教室では、昼食時間中における生徒等に対する対応に関し、当番等を決めて対応していたとは認められないこと、各講師は、授業時間以外の時間において、生徒の成績をつけたり、成績分析をしたり、授業の準備のための予習をしたりする必要があったこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、Xは、在社時間中、Y社の指揮監督下から解放される時間を有していたとは認め難い。
4 塾講師が、その業務を遂行する(具体的には授業を行うということ)ために、その授業内容の事前準備を行う時間が不要であるとはいえないこと、予習をして授業の質を高めることは塾講師にとって必須事項であること、講師経験の長短によって予習に必要な時間が異なることはあるということは窺われるものの、全く経験豊富な講師であったとしても、予習が不要となるとは考え難く、Xについても、授業のために必要があればそれに応じて十分な予習を行ってきたこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、授業を行うことに必要な予習を行うことは、Xの業務の一環であって、同時間については、労働時間であると評価するのが相当である。
全国の塾関係者とすれば、この裁判例は困りますね・・・。
私も司法試験の勉強をしていた頃、塾講師をしていたので、状況はよくわかります。
在社時間は、授業を実際にやっていなくても、生徒の質問に対応したり、来客者の対応をするので、労働時間にあたると思います。
ただ、予習時間が労働時間かと言われると、違和感を感じます。
授業内容の事前準備は当然必要ですが、仕事の準備が必要なのは、塾講師に限りません。
塾側とすれば、当然納得できないと思います。
というわけで、Y社は控訴しております。
労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。