Daily Archives: 2011年5月8日

賃金28(月島サマリア病院事件)

おはようございます。

さて、今日は、倒産の危機に瀕していたとまではいえない場合の退職金の減額に関する裁判例を見てみましょう。

月島サマリア病院事件(東京地裁平成13年7月17日・労判816号63頁)

【事案の概要】

Y社は、個人経営の病院である。

Xは、Y社を平成11年に自己都合退職した看護師である。

Y社は、生命保険会社との契約による企業年金と就業規則上の退職金制度を有し、後者から前者を控除した金額を支給することになっていた。

ところが、Y社は、経営状況悪化のため、退職金の算定基礎を基本給の100%から80%に引き下げ、勤続年数ごとの支給比率も削減する就業規則の変更を行った。

これにより、Xの退職金額は、674万円から359万円と47%削減された。

Xは、Y社に対し、変更前の算定方法に基づく退職金額の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 就業規則の変更に関し、変更部分の規定文言そのものを従業員に個別に周知しない限り変更の効力が生じないとするのは、労働条件の統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質に照らし相当ではなく、掲示板への掲示程度の周知であっても、変更の効力が生じたものとみることが相当である。

2 一般に、就業規則の作成及び変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に関することは、原則として許されないと解されるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないというべきである。

3 ここでいう当該条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金という労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

4 この合理性の判断要素として本件においてあらわれている事情としては、本件就業規則の変更による不利益性の程度のほか、Y社の経営状態等、代償措置の有無、従業員の側の対応が挙げられる

5 本件就業規則の変更については、その不利益性は相当程度大きいところ、Y社がこれに対する代償措置を講じた事実が認められず、かつ、従業員の対応等によって変更の合理性が基礎付けられるものではないと解される下で、本件就業規則の変更当時のY社の経営状態が、必ずしも芳しくなかったとはいえ、倒産の危機に瀕しているとまではいえないのであって、他に本件就業規則の変更の効力がXに及ぶことを根拠付ける主張、立証のない本件においては、この変更が合理的なものであると解することはできないものといわざるを得ない。

本裁判例は、とても参考になりますね。

上記判例のポイント4の判断要素のうち、代償措置と従業員側の対応について、Y社がもう少し工夫すれば、結果が変わった可能性があります。

「周知」するだけではなく、「協議」する機会を与えるべきでした。

また、Y社としては、慰労金・功労金付加の規定、10年後見直し措置を講じましたが、裁判所は、代償措置として不十分であると判断しました。

ここは、従業員の不利益の程度とのバランスが求められるところなので、本件のように、不利益が大きい場合には、相応の代償措置が求められるわけです。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。