おはようございます。
さて、今日は、退職金の減額に関する裁判例を見てみましょう。
小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高裁平成15年12月11日・労判867号5頁)
【事案の概要】
Y社は、鉄道事業等を主たる業務とする会社である。
Xは、Y社の従業員として、退職までの間、普段はまじめに勤務してきた。
Xは、京王井の頭線において、電車で痴漢行為を行い、警察に逮捕勾留され、20万円の罰金刑が言い渡されていた。
Y社は、昇給停止、および降格の処分を行った。
Xは、後日、JR高崎線の電車において、痴漢行為を行い、逮捕勾留され、起訴された。
Xは、勾留中、Y社の従業員らの面会を受け、その際、痴漢行為を認め、Y社が用意した自認書に署名指印して交付した。
Y社は、「業務の内外を問わず、犯罪行為を行ったとき」に該当するとしてXを懲戒解雇するとともに、「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない」と定める退職金支給規則4条にもとづき退職金を支給しなかった。
Xは、退職金全額の支払いを求めた提訴した。
【裁判所の判断】
退職金支給基準の3割を認容
【判例のポイント】
1 退職金の支給制限規定は、一方で、退職金が功労報償的な性格を有することに由来するものである。しかし、他方、退職金は、賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。
2 そして、その場合、従業員は、そのような退職金の受給を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。それは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから、そのような期待を剥奪するには、相当の合理的理由が必要とされる。
3 退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど・・・強度な背信性を有することが必要である。このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反する。
4 退職金が功労報償的な性格を有するものであること、そして、その支給の可否については、会社の側に一定の合理的な裁量の余地があると考えられることからすれば、当該職務外の非違行為が・・・強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、・・・当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、退職金のうち、一定割合を支給すべきものである。本件条項は、このような趣旨を定めたものと解すべきであり、その限度で、合理性を持つと考えられる。
5 本件では、相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないが、他方、職務外の行為であるとはいえ、会社および従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるY社にとって相当の不信行為であることは否定できない。本件については、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきであり、その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割が相当である。
退職金の減額については、その是非及び程度の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。