Monthly Archives: 4月 2011

職場のメンタルヘルス対策ガイドブック

おはようございます。

さて、今日は、愛知県から出されたメンタルヘルスのガイドブックを紹介します。

職場のメンタルヘルス対策ガイドブック(PDF)

特に内容として新しいものではありませんが、見やすくまとまっています。

是非、参考にしてくださいませ。

メンタルヘルス対策については、顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ丁寧に進めましょう。

解雇38(小野リース事件)

おはようございます。

さて、今日は、幹部従業員に対する勤務態度・飲酒癖を理由とする解雇に関する最高裁判例を見てみましょう。

小野リース事件(最高裁平成22年5月25日・労判1018号5頁)

【事案の概要】

Y社は、建設機械器具の賃貸等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、営業部次長、営業部長を務めた上、平成19年5月には、統括事業部長を兼務する取締役に就任した。

Xは、Y社に雇用された当時から、糖尿病に罹患していて、アルコールの分解能力が健康な人より低く、医師から飲酒を控えるように指導されていたにもかかわらず飲酒を続けていた。そのため、Xは、酒に酔った状態で出勤したり、勤務時間中に居眠りをしたり、同行訪問、社外での打合せ等と称し、嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒をしたり、取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまったりすることがあった。

Xの勤務態度や飲酒癖について、従業員や取引先からY社に対し苦情が寄せられていたが、Y社の社長は、Xに対し、飲酒を控えるよう注意し、居眠りをしていたときには社長室で寝るように言ったことはあるが、それ以上に勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしたことはなかった。

Xは、19年6月、取引先の担当者と打合せをする予定があったのに出勤しなかった。

社長は、Xに代わって取引先の担当者と打合せをしたが、その後、取引先の紹介元であり、Y社の大口取引先でもある会社の代表者から、Xを解雇するよう求められた。Xは、同日の夜、社長と電話で話をした際、酒に酔った状態で「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べた。

社長は、Xの上記発言を退職の申し出ととらえ、退職を承認した。

Y社は、Xが自主的に退職願を提出しなかったため、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は、違法であるとして、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

請求棄却

【事案の概要】

1 本件解雇の時点において、幹部従業員であるXにみられた本件欠勤を含むこれらの勤務態度の問題点は、Y社の正常な職場機能、秩序を乱す程度のものであり、Xが自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから、Xに本件規定に定める解雇事由に該当する事情があることは明らかであった。

2 そうすると、Y社がXに対し、本件欠勤を契機として本件解雇をしたことはやむを得なかったものというべきであり、懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても、本件解雇が著しく相当性を欠き、Y社に対する不法行為を構成するものということはできない。

最高裁の判断は妥当であると考えます。

ちなみに、一審、二審ともに、Xの勤務態度は普通解雇事由に該当するが、Y社が解雇理由となり得ることを警告したり、そのことを理由とする懲戒処分をすることで改善が図れるか見極めることをすべきであったにもかかわらず、これらの手段を講じることなく本件解雇をしたことから、相当性を欠くと判断し、不法行為と認めました。

できることなら、下級審が示しているような手続をとるべきだったと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

賃金23(学校法人実務学園ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、年俸制の内容の相当性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人実務学園ほか事件(千葉地裁平成20年5月21日・労判967号19頁)

【事案の概要】

Y社は、私立学校法に基づいて設立された学校法人である。

Xは、Y社に採用され、建築実務専門学校に教員として配属され、東京校の教員として勤務している。

Y社は、就業規則を変更し、Xらの給与を年俸制とした。

Xは、給与体系の変更(成果主義型の賃金制度の導入)は、本件就業規則の不利益変更にあたり、合理性がなく無効であるとして、差額分の賃金を請求した。

【裁判所の判断】

請求一部認容

【判例のポイント】

1 労働基準法上、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、法定の事項について就業規則を作成し、・・・これを労働者へ周知させる義務があり、就業規則を変更する場合も同様である(同法89条、90条、106条)。
しかし、就業規則に法的規範として関係者に対する拘束力を生じさせるためには、適用を受ける労働者にその内容を周知させる手続が採られていることが絶対的要件と解すべきであるが、労働者代表の意見聴取や労基署長への届出義務は、就業規則の内容を整備させるとともに行政の監督を容易にしようとするものと解されるから、上記拘束力を生じさせるための要件ではないものと解するのが相当である。また、上記効力発生要件としての労働者への周知の方法については、法定のものに限定されず、実質的に周知されれば足りると解すべきである

2 平成14年規定は、給与を基本給、能力給、実績給の3種に分け、毎年4月1日にこれを見直すこととし、成果主義型の賃金制度を導入した形になってはいるが、基本給につき、その者の学歴、経歴、職務の内容及び責任の度合に基づいて理事長が決定するものとされているものの、能力給、実績給については何らの定めも置かず、その後の平成15年規定及ぶ平成16年規定において、能力給につき、その者の担当業務、業務遂行の難易度に基づいて理事長が決定する旨、実績給につき、前年の実績・学園への貢献度に基づいて理事長が決定する旨の定めが置かれたものの、これら規定はいずれも抽象的なものに止まり、これら3種の給与ついて具体的な決定基準、ランクやそれに対応する具体的金額等を定めた下位規定も存在しない。このような定めは、使用者が従業員の賃金を恣意的に変更・決定することが可能とするものといえる
・・・このような給与決定方法を可能とするような平成14年規定及び平成16年規定は、その内容において相当なものと評価することはできない。

3 消滅時効の援用が権利濫用となり得るのは、債務者がその態度・言動により債務の弁済が確実になされるであろうとの信頼を惹起させ、債権者に時効中断の措置を採ることを怠らせた後、時効期間が経過するや態度を変えて時効を援用するなど、例外的な事情が認められる場合に限られると解されるところ、関係各証拠によっても、本件においてそのような例外的な事情の存在を認めることはできない。

4 本件誓約書は、その作成の経緯及び内容からしてもXの意に反して作成されたことが明らかである上、賞与の返還や翌年度の雇用契約の辞退という、本来Xに義務なき事項まで誓約させる不当な内容のものである。そして、Y社が平成16年度に支給したXの賞与が予定された額の2分の1にとどまった事実も考え合わせると、Aは、本件誓約書をXに手書きさせることによって、Xに屈辱感を与えるとともに、併せて平成16年度におけるXの年収をさらに減額させることを意図し、かつこれらを通じてXに自主退職を余儀なくさせる状況を作り出すことも意図したものと推認される。Aのこの行為は、Xの人格権を侵害する違法な行為として不法行為に該当するというべきである

ポイントは、上記判例のポイント2です。

成果主義型の賃金体型を採用する際、あまりにも恣意的な判断基準の場合、相当性を否定される可能性があります。

いろいろな裁判例を検討してみると、つくづく賃金制度は難しいですね。

どのような賃金体系を採用するのがいいのか、答えが見つかりません。

その分、大変興味深い分野です。

賃金制度の変更については、必ず事前に顧問弁護士に相談して、慎重に対応しましょう。