配転・出向・転籍5(古賀タクシー事件)

おはようございます。

今日も、昨日に引き続き、配転に関する裁判例を見てみましょう。

古賀タクシー事件(福岡地裁平成11年3月24日)

【事案の概要】

Y社は、タクシー運送事業を営む会社である。

Xは、Y社に採用された従業員で、タクシー乗務員としてY社に勤務していた。

Y社は、平成7年7月、Xに対し、Xの同意を得ることなく従来のタクシー乗務員から営業係(営業補助)への配転命令をした。

Xは、本件配転命令が無効であるとして、命令後から旧職務に復帰するまでの期間の賃金を請求した。

【裁判所の判断】

本件配転は無効

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、「会社は業務の必要により、従業員に職務、職種、勤務地等の異動、又は出向を命ずることがある。この場合、正当な理由なくこれを拒否することはできない。」と規定されている。
Y社は、この規定を根拠に、労働者の同意なく配置転換ができると主張するが、この規定は、一般的に使用者が労働者に対し、配置転換を命ずる根拠となるものであるが、職種を限定された労働者を同意なく自由に配置転換することができる根拠となるものとは解されず、Y社の主張は採用できない。

2 そこで、Xの職務が限定されたものであるかについて検討する。
Y社がXを本採用するに当たっては作成された契約書には不動文字で、表題として「労働契約書(乗務員)」、業務内容として「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」と記載されていることが認められる。この契約書の文言によれば、採用時に右文言によらないt区別な合意がない限り、本件労働契約においてはXの職種は「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」に限定されていたものと解するのが相当である。
前記認定のとおり、営業補助の職務はタクシー乗務員の職務とは別の職務と解すべきであるから、本件の配置転換は職務の限定を越えるものであり、労働者の同意なく一方的に使用者が配置転換を命ずることはできないものである。

3 もっとも、労働契約において職務の限定が認められる場合でも、労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められ、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用と認められる場合は、労働者の同意がなくても、配転命令が許される場合がありうると解される。

4 Y社に(1)ジャンボタクシーの運行増加、(2)営業係の不足、(3)乗務員の過剰という事情があったことが認められる。しかしながら、Xの意思を無視してまで、配置転換を強行するほどの必要性や、営業補助にX以外の余人をもっては代え難いという職務の特殊性はなく、本件命令に強い合理性があるとは認められない部長はXに対し賃金体系が異なるのにその十分な説明もしていないし、Xが妻と相談するから待ってくれと言っているのに、翌日から担当車を取り上げて、タクシー乗務を禁止していることが認められるが、この対応は性急であり、労使関係の信義則に反するといえるものである
以上のとおり、本件には労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められるべき事情はなく、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用とはならないというべきである。

本件裁判例では、職種が限定されている場合の配転命令には、「強い合理性」が要求されています。

会社側に広い裁量を認めていません。

また、この裁判例の特徴は、配転命令をする際の手続きを非常に重視している点です。

最高裁の3要件とは異なった視点です。

この裁判例を一般化することは難しいと思いますが、参考にはなります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。