Monthly Archives: 4月 2011

有期労働契約18(学校法人加茂暁星学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、高校非常勤講師の雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

学校法人加茂暁星学園事件(新潟地裁平成22年12月22日・労判1020号14頁)

【事案の概要】

Xらは、Y高校の非常勤講師として期間を約1年間とする有期雇用契約を毎年更新してきた。

Xらの勤務年数は、それぞれ25年間と17年間であった。

Y高校は、平成19年2月、Xらに対し、「平成19年度の雇用に関しては学級減等のため、理科の非常勤講師時数は0時間となります」「あなたの雇用は平成19年3月25日までとなりますのでお知らせ致します。」旨の内容を記載した内容証明郵便を郵送した。

Xらは、本件雇止めは不当であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件雇止めは無効

【判例のポイント】

1 期間の定めのある雇用契約であっても、期間満了ごとに当然更新され、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には、期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり、その実質に鑑み、その効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推適用すべきであり、また、労働者が契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が存続、維持されてきた場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、期間満了後の更新拒絶(雇止め)について、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される。

2 整理解雇とは、使用者が経営不振の打開や経営合理化を進めるために、余剰人員削減を目的として行う解雇をいうところ、Xらの雇止めにおいて、Xらに非違行為等の落ち度は全くないのであって、Y学校も使用者側の経営事情等により生じた非常勤講師数削減の必要性に基づく雇止めであること自体は否定していない以上、Xらの雇止めは使用者が経営合理化を進めるために余剰人員削減を目的として行った雇止めであるとみることが相当である。
したがって、Xらが主張するとおり、Xらの雇止めには整理解雇の法理を類推適用すべきと解する。すなわち、Xらの雇止めの「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」の有無は、(1)人員削減の必要性、(2)雇止め回避努力、(3)人選の合理性、(4)手続の相当性の4つの事情の総合考慮によって判断するのが相当であると解する。

3 もっとも、非常勤講師は、Y学校との間の契約関係の存続の要否・程度に、専任教員とはおのずから差異があるといわざるを得ないので、Xらの雇止めが解雇権の濫用に当たるか否かを判断するに際しても、専任教員の解雇の場合に比べて緩和して解釈されるべきであり、それまで雇用していたXらを雇止めにする必要がないのに、Xらに対して恣意的に雇用契約を終了させようとしたなど、その裁量の範囲を逸脱したと認められるような事情のないかぎり、「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在するといえ、解雇権の濫用に当たると認めることはできない

4 非常勤講師の雇止めの場合に要求される「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が、専任教員の解雇の場合に比べて緩和して解釈されるべきことからすれば、雇止め回避努力として、Y学校において希望退職者募集等の具体的な措置をとることまでは必要なかったというべきである。
しかしながら、Y学校がXらを雇止めするに当たって、財政上の理由からして非常勤講師の人件費をどれだけ削る必要があるか等についておよそ検討したとは認められないことからすれば、Y学校が、非常勤講師の大量雇止め以外に財政状況改善手段を検討したという事情は認められない。また、その他Xらの雇止めに際し、何らかの回避措置がとられたことを認めるに足りる証拠はない。
以上からすれば、Y学校において、何らかの雇止め回避努力をしたとは到底認められない。


期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態にある期間の定めのある雇用契約の雇止めの意思表示は、実質的には解雇の意思表示にあたります。

そのため、解雇権濫用法理が類推適用されます。

整理解雇の場合と同じように、手順をしっかり踏まないと、このような結果になります。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

管理監督者19(デンタルリサーチ社事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

デンタルリサーチ社事件(東京地裁平成22年9月7日・労判1020号66頁)

【事案の概要】

Y社は、歯科を中心とする医療に関する情報処理サービス業および情報提供サービス業等を主要な業務とし、具体的には、歯科医として開業を検討している者に対し、人材紹介事業、不動産事業、情報誌発行事業などを行っていた。

Xは、平成9年5月にY社に雇用され、人材事業部に所属していたが、Y社が平成13年に不動産事業部を立ち上げたことに伴い、同部に移籍し部長に就任し、不動産物件の紹介、賃貸借契約書の作成・チェック、市場調査や事業計画の策定、融資手続や開設に必要な書類作成、諸手続の代行等の業務を一手に行っていた。

なお、Xが、不動産事業部の従業員の労務管理や人事考課を担当していたことはない。

Xは、平成19年7月、Y社に対し、退職願を提出した。

退職後、Xは、Y社に対し、在職中に行った時間外・休日労働につき、割増賃金および付加金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容。
→Xは管理監督者にはあたらない。

付加金の支払いを命じる。

【判例のポイント】

1 Xは、その労働時間の立証としてタイムカードを提出し、概ねその打刻に沿う内容の労働時間の主張をする。タイムカードの打刻により打刻時刻が機械的に印字される以上、X自身が打刻する限り、タイムカードの打刻時刻はXの出勤、退勤時刻をほぼ正確に示すものということができるから、この意味で、上記タイムカードはXの労働時間を端的に立証する信用性の高い証拠資料ということができる

2 割増賃金の基礎となる賃金から除外される賃金として「家族手当」「通勤手当」「別居手当」「子女教育手当」「住宅手当」などが定められているところ、Xに対し家族手当及び住宅手当という名目で支給されている。
これらの規定は、労働の内容、量と無関係な事情で支給される手当が割増賃金額を左右するのは不当であるとして、これを除外賃金とするとの趣旨に基づくものであることから、その名称にかかわらず実質的に判断されるべきものであり、家族手当、住宅手当と称していても、扶養家族の有無・数や、持家・賃貸の別や、住宅ローン・家賃の額に応じた金額が支給されていないような場合には、上記の立法趣旨にかんがみ除外賃金には含まれないと解するのが相当である

3 労基法41条2号の管理監督者が時間外手当等支給の対象外とされるのは、その労働者が経営者と一体的な立場において、労働時間、休日等の規制を超えて活動することを要請されてもやむを得ない重要な職務や権限を付与され、賃金等の待遇及び勤務態様の面においても、他の一般労働者に比べてその職務や権限等に見合った優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制を行わなくても、その保護に欠けるところはないという趣旨に出たものと考えられる。したがって、管理監督者に該当するというためには、単に管理職であるだけでは足りないことはもとより当然であって、その業務の態様、与えられた権限、待遇等を実質的にみて、上記のような労基法の趣旨が充足されるような立場であるかが検討されなければならない
Xはその権限の面でも労働時間に対する裁量という面でも管理監督者にふさわしい立場にあるということはできず、その待遇面を最大限強調しても管理監督者であることが基礎付けられるとはいえない。

4 付加金については、裁判所の裁量により支払を命じる性質のものであり、使用者側にその支払を命じることが酷である事情が存する場合にまでこれを命じることは相当ではないものの、本件においては、Y社が長年にわたって時間外手当の未払を続け、かつ、管理監督者と認識している旨述べる管理職の者以外の従業員に対しても時間外手当等を支払っていなかったことなどの本件記録上顕れた諸般の事情を考慮すれば、Y社に対しては、付加金の支払を命じるのが相当である
Y社は、XがY社の営業に関する様々なデータを持って退職したことなどにより甚大な損失を被った旨主張するが、仮にそうであったとしても、そのこと自体がY社において従業員に時間外手当を支給しなかったことを正当化するものではないから、その主張については採用することができない

いつもながら管理監督者性が否定されております。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

配転・出向・転籍6(芝実工業事件)

おはようございます。

今日も配転に関する裁判例を見てみましょう。

芝実工業事件(平成7年6月23日・大阪地裁平成7年6月23日)

【事案の概要】

Y社は、自動車、農機具、工作機械部品用のコントロールケーブル等の製造を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員であり、入社後一貫してY社大阪事業所において勤務し、ケーブル製造の業務に従事してきた。

Y社は、Xらに対し、文書で平成7年5月から、本社工場に勤務せよとの配転命令を行った。

Xらは、本件配転命令は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件配転は無効

【判例のポイント】

1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものであるが、労働契約等により労使間で就労場所が特定されている場合には、その変更には、従業員の同意を必要とする
また、使用者は、労働者に対する指揮命令権に基づき配転命令をすることができるとしてもこれを濫用することが許されないことはいうまでもなく、当該配転命令につき業務上の必要性が存在しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機、目的をもってなされたものであるとき、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情の存する場合は権利濫用として無効になるというべきである。

2 Y社は、平成5年3月付、本件組合との間で、大阪事業所の縮小に伴い、同事業所を縮小して存続させて、当時大阪事業所に勤務するXらを含む4名の従業員が定年退職するまで存続させることを合意する旨の協定をしており、Y社は、Xらの同意がないかぎり、就労場所を変更することはできない

3 Y社において経営の合理化による収益性を高めることは企業として当然考慮すべき事項ではあるが、そのことから直ちに、Xらの同意及び本件組合の事前協議のなされていない本件配転命令を適法にするものではない。

とても興味深い裁判例です。

経営の合理化を進める必要がある場合であっても、勤務場所の限定がされている場合には、当然には、配置転換をすることはできない、というものです。

とはいえ、合意が得られない場合も考えられます。

この場合には、合意を得ようと真摯に努力したことが裁判所の判断に影響を及ぼすことになるのでしょう。

プロセスが非常に重要になってくるわけです。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍5(古賀タクシー事件)

おはようございます。

今日も、昨日に引き続き、配転に関する裁判例を見てみましょう。

古賀タクシー事件(福岡地裁平成11年3月24日)

【事案の概要】

Y社は、タクシー運送事業を営む会社である。

Xは、Y社に採用された従業員で、タクシー乗務員としてY社に勤務していた。

Y社は、平成7年7月、Xに対し、Xの同意を得ることなく従来のタクシー乗務員から営業係(営業補助)への配転命令をした。

Xは、本件配転命令が無効であるとして、命令後から旧職務に復帰するまでの期間の賃金を請求した。

【裁判所の判断】

本件配転は無効

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、「会社は業務の必要により、従業員に職務、職種、勤務地等の異動、又は出向を命ずることがある。この場合、正当な理由なくこれを拒否することはできない。」と規定されている。
Y社は、この規定を根拠に、労働者の同意なく配置転換ができると主張するが、この規定は、一般的に使用者が労働者に対し、配置転換を命ずる根拠となるものであるが、職種を限定された労働者を同意なく自由に配置転換することができる根拠となるものとは解されず、Y社の主張は採用できない。

2 そこで、Xの職務が限定されたものであるかについて検討する。
Y社がXを本採用するに当たっては作成された契約書には不動文字で、表題として「労働契約書(乗務員)」、業務内容として「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」と記載されていることが認められる。この契約書の文言によれば、採用時に右文言によらないt区別な合意がない限り、本件労働契約においてはXの職種は「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」に限定されていたものと解するのが相当である。
前記認定のとおり、営業補助の職務はタクシー乗務員の職務とは別の職務と解すべきであるから、本件の配置転換は職務の限定を越えるものであり、労働者の同意なく一方的に使用者が配置転換を命ずることはできないものである。

3 もっとも、労働契約において職務の限定が認められる場合でも、労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められ、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用と認められる場合は、労働者の同意がなくても、配転命令が許される場合がありうると解される。

4 Y社に(1)ジャンボタクシーの運行増加、(2)営業係の不足、(3)乗務員の過剰という事情があったことが認められる。しかしながら、Xの意思を無視してまで、配置転換を強行するほどの必要性や、営業補助にX以外の余人をもっては代え難いという職務の特殊性はなく、本件命令に強い合理性があるとは認められない部長はXに対し賃金体系が異なるのにその十分な説明もしていないし、Xが妻と相談するから待ってくれと言っているのに、翌日から担当車を取り上げて、タクシー乗務を禁止していることが認められるが、この対応は性急であり、労使関係の信義則に反するといえるものである
以上のとおり、本件には労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められるべき事情はなく、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用とはならないというべきである。

本件裁判例では、職種が限定されている場合の配転命令には、「強い合理性」が要求されています。

会社側に広い裁量を認めていません。

また、この裁判例の特徴は、配転命令をする際の手続きを非常に重視している点です。

最高裁の3要件とは異なった視点です。

この裁判例を一般化することは難しいと思いますが、参考にはなります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍4(東京サレジオ学園事件)

おはようございます。

今日は、配置転換に関する裁判例を見てみましょう。

東京サレジオ学園事件(東京地裁八王子支部平成15年3月24日)

【事案の概要】

Y社は、養護施設の設置経営を目的とする社会福祉法人である。

Xは、Y社に雇用され、Y社が設置経営する児童福祉施設において児童指導員として18年間勤務していた。

Xは、平成11年4月、Y社から、厨房で勤務する調理員への配転を命じられた。

Xは、本件配転命令は無効であることを主張して、その撤回を求めた。

【裁判所の判断】

本件配転命令は無効

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対して配転を命ずる場合であっても、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても当該配転命令が他の不法な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情が存するときには、当該配転命令は権利の濫用として無効となると解するのが相当である。

2 Y社は、Xが児童指導員としての適格性を欠いているから本件配転命令につき業務上の必要性があったと主張しているが、前記のとおり、Xの児童指導員としての適性の欠如を窺わせるような具体的事実が存在するとは認められないから、結局のところ、本件配転命令は上記必要性が存しないものであったといわざるを得ない

3 本件配転命令は、業務上の必要性を欠いている上、現場での経験をもとに信念を通そうとするXを短絡的に児童養護の現場から排除する目的でなされたものと解されるのであって、配転命令権の濫用にあたるといわざるを得ない。 

配転命令が権利濫用にあたり無効とされた裁判例です。

配転命令は、会社に広い裁量が認められているので、無効とされた裁判例を検討すると大変勉強になります。

本件で、Y社は、Xの児童指導員としての適性の欠如を示す事実をいくつも主張していますが、いずれも配転を認めるだけの業務上の必要性を基礎づけるものではありませんでした。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

解雇41(洋書センター事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き解雇協議条項に関する裁判例を見てみましょう。

洋書センター事件(東京高裁昭和61年5月29日・労判489号89頁)

【事案の概要】

Y社は、洋書の販売等を目的とする会社である。

Y社において、4名の従業員のうち、Xを含む3名により労働組合が結成された。

組合は、Y社との間で、「会社は運営上、機構上の諸問題、ならびに従業員の一切の労働条件の変更については、事前に、組合、当人と充分に協議し同意を得るよう努力すること」との条項を結んだ。

Y社は、入居中のビルの取り壊しによる社屋移転を組合に明らかにした。その後、Y社は、仮店舗へ移転するため営業を停止し、移転作業を始めたいと組合に申し入れたが、組合は移転による労働条件の悪化などを理由に反対し、労使の協議により移転作業は中止された。

Y社は、休憩室・女子更衣室・組合事務所として別にワンルームを借りるとの最終案を組合に提示したが、組合が拒否し、交渉は行き詰まった。

Y社は、Xらに知らせずに連休中に移転を行い、作業終了後にXらへ仮店舗に出社するよう電報で連絡した。

Xらは仮店舗での就労を命じた業務命令を拒否し、旧社屋が職場であるとして、施錠をはずして旧社屋内に入った上、社長を旧社屋に連行し、役16時間にわたって軟禁して暴行を加え、その後も業務命令を無視して旧社屋を占拠し続けた。これらのことから、Y社は、Xらを懲戒解雇とした。

Xらは、正当な理由がない懲戒解雇であり、事前協議約款が存在するにもかかわらず、Y社はXらの解雇に際して、組合および本人らと一切協議をせず、同意も得ていないから手続的に違法であり、懲戒解雇は無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件事前協議約款の締結に至るまでの前記経過及びその文言・趣意等に徴し、信義則に照らして考察すれば、右事前協議の対象事項には、事柄の性質上事前協議にしたしまない場合、あるいは事前協議の到底期待できない特別な事情の存する場合を除いて、従業員の解雇、処分を含むものと解するのが合理的である

2 組合の構成員は、パートタイマーを除けば、本件解雇をされたXら2名のみであり、組合の意思決定は主として右両名によって行われ、組合の利害と右両名の利害とは密接不可分であったところ、Xら両名は、本件解雇理由たる社長に対しての長時間に及ぶ軟禁、暴行傷害を実行した当の本人であるから、その後における組合闘争としての、右Xら両名らによる旧社屋の不法占拠などの事態をも併せ考えると、もはや、Y社と組合及び右Xら両名との間には、本件解雇に際して、本件事前協議約款に基づく協議を行うべき信頼関係は全く欠如しており、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく本件解雇については、組合及び当人の同意を得ることは勿論、その協議をすること自体、到底期待し難い状況にあった、といわなければならないから、かかる特別の事情の下においては、Y社が本件事前協議約款に定められた手続を履践することなく、かつ、組合及び当人の同意を得ずに、Xらを即時解雇したからといって、それにより本件解雇を無効とすることはできない

非常に参考になる裁判例です。

本件は、例外が認められるための「特別の事情」が存在するとされた裁判例です。

あくまで例外ですので、厳格に解釈しなければいけません。

容易に「特別の事情」を認定すると、原則と例外がひっくり返ってしまいます。

とはいえ、本件については、明らかにXらはやりすぎです。

自分たちの要求が通らなかったからといって、犯罪を犯すことは許されません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇40(石原産業(ごみ収集車乗務員・解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合との事前協議条項に違反する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

石原産業(ごみ収集車乗務員・解雇)事件(大阪地裁平成22年9月24日・労判1018号87頁)

【事案の概要】

Y社は、清掃業等を目的とする会社であり、地方公共団体や事業所から受託ないし受注したごみ収集運搬業務を行っている。

Xは、平成12年、Y社に採用され、ごみ収集車の乗務員として稼働していた者である。

Xは、全日本建設運輸連帯労働組合簡裁地区生コン支部に加入した。

Y社と本件組合は、本件組合の組合員の身分・賃金・労働条件の変更については、本件組合と事前に協議し同意の上、決定する旨(本件事前協議・同意条項)を含む労働協約を締結した。

Xは、ごみ収集車運転中に物損事故を起こしたうえにY社に報告しなかったことを理由に解雇された。

Y社は、Xを解雇するにあたり、事前に、本件組合と協議をすることはなかった。

Xは、本件解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、そもそも使用者の単独行為である解雇について、労働組合の同意を要する事項とするのはなじまない旨主張する。
しかし、本件事前協議・同意条項の趣旨は、Y社が本件組合に加入している従業員を解雇しようとする場合、Y社に対し、事前に本件組合との間でその同意が得られるように誠実に交渉することを義務づけることにあり、Y社が、かかる義務を十分に尽くした上で解雇を行った場合には、本件組合の同意がなかったとしても、本件事前協議・同意条項の違反にはならないと解されるから、Y社の上記主張は当たらないというべきである。

2 本件事前協議・同意条項所定の「身分の変更」は、解雇を含むものと解されるから、Y社は、本件組合に加入している従業員を解雇する場合、事前に本件組合との間でその同意が得られるように誠実に交渉しなければならない。しかるに、Y社が本件組合との間で本件解雇について事前協議を行っていないことは、当事者間に争いがない。したがって、本件解雇は、解雇手続に重大な瑕疵があるというべきであるから、労働契約法16条により無効である。

組合との事前協議条項に違反した解雇について判断されています。

特に異論はないと思います。

労働協約で決めたのであれば、それを会社が守らなければいけません。

守らないでいきなり解雇したら、当然、裁判で負けますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

継続雇用制度18(学校法人大谷学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人大谷学園事件(横浜地裁平成22年10月28日・労判1019号24頁)

【事案の概要】

Y社は、平成18年8月頃、継続雇用制度を導入する新たな就業規則を作成し、それによれば、定年退職日以降も引き続き勤務を希望し、かつ、所定の基準に該当する場合は再雇用するとした。

再雇用の対象となる基準の中には、「過去10年間に第52条に定める懲戒処分を受けていないこと」の定めがある。

Xは、定年退職が近づいた平成20年10月、組合を通じて、Y社に対し、60歳定年後の雇用延長を願い出る旨記載した個人意向調査票を提出した。

これに対し、Y社は、Xに対し、平成21年3月31日をもって定年となり、再雇用はしない旨の通知をしたため、Xは、同日、定年により退職することとなった。

Xは、Y社が導入した継続雇用制度は、高年齢者雇用安定法9条2項等に違反し無効であるとして、雇用契約上の地位確認、あるいは、雇用上の権利の侵害を理由に損害賠償を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 高年齢者雇用安定法9条1項が私法的強行性を有するか否かについて検討するに、同項の規定上、これに違反した場合に、労働基準法のような私法的効力を認める旨の明文規定も補充的効力に関する規定も存在しない。また、同項各号の措置に伴う労働契約の内容や労働条件について規定していない。むしろ、継続雇用制度について、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度であると定義付けるだけで、制度内容を一義的に規定せず、多様な制度を含み得る内容となっており、直ちに私法上の効力を発生させるだけの具体性を備えているとは解し難い。このように、同項の規定自体、私法的強行性を認める根拠は乏しいといわなければならない。

2 しかも、高年齢者雇用安定法は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もって高年齢者等の職業の安定をその他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とし(1条)、事業主のみならず国や地方公共団体も名宛人として、種々の施策を要求しており、社会政策誘導立法、政策実現型立法として、公法的性格を有している。そして、高年齢者雇用安定法9条1項が事業主に対する公法上の義務を課す形式をとり、義務違反に対する制裁としては、緩やかな指導、助言、勧告を規定するのみであること(10条)、高年齢者雇用安定法9条2項は、一定の場合に、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを許容して、希望者であっても、継続雇用制度の対象としないことを容認していること、高年齢者雇用安定法8条は、平成16年法律第103号による改正後も65歳未満定年制を適法としていることを考慮すると、高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保については、その目的に反しない限り、各事業主の実情に応じた労使の工夫による柔軟な措置を許容する趣旨であると解されるのであり、高年齢者雇用安定法9条1項に、Xらが主張するような私法的強行性を認める趣旨ではないことを裏付けている

3 以上のように、高年齢者雇用安定法9条1項の規定自体からも、同条の全体構造からも、Xが主張するような同項の私法的強行性を肯定する解釈は成立しない。

結論としては、これまでの多くの裁判例と同じです。

特徴的なのは、理由を具体的に述べている点ですね。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

労災43(富士通事件)

おはようございます

今日は、午前中は、裁判が1件入っているだけです。

午後は、掛川に移動し、離婚調停をし、夕方、事務所で1件打合せです

夜は、中・高の同級生であり、現在、税理士をしているH君と会食です

学生時代の友人と一緒に仕事ができるのは、本当に嬉しいことです。

多くの仲間が各方面でがんばっているので、僕も負けてられません

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、いじめによる精神障害罹患に関する裁判例を見てみましょう。

富士通事件(大阪地裁平成22年6月23日・労判1019号75頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社に入社した。

Xの職務内容は、主にパソコン操作の講師等を行う業務に従事し、顧客先に訪問してパソコン操作の講習を行うほか、社内でのインストラクター業務にも従事してきた。

Xは、自己の仕事の幅を広げようと考えて営業部の部内勉強会に参加した際、部内の全員が参加していたのに、同僚の女性社員から「あなたが参加して何の意味があるの」等と文句を言われた。

京都国際会議場で開催された会場の受付を担当した際、同じく受付支援にきていた京都支社の社員から悪口を言われたり、いやがらせをされる等のいじめにあった。

社内の女性社員らの間で、Xに対する陰口がIPメッセンジャーを利用して行き交い、同社員らはメッセージ授受の直後にお互いに目配せをして冷笑するなどしたことから、Xは、上記IPメッセンジャーによる女性社員ら間の悪口について認識していた。

Xは、Y社を休職し、病院を受診して自律神経失調症との診断を受け、精神科の専門医から「不安障害、うつ状態」との診断を受けた。

Xは、平成17年6月、「休職期間満了により、解雇する」旨の辞令を受けた。

【裁判所の判断】

京都下労働基準監督署長がした療養補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。
→業務起因性肯定。

【判例のポイント】

1 業務と精神障害の発症・増悪との間に相当因果関係が認められるための要件であるが、「ストレス-脆弱性」理論を踏まえると、ストレスと個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であるといえることが必要とするのが相当である。

2 そこで、如何なる場合に業務と精神障害の発症・増悪との間で相当因果関係が認められるかであるが、今日の精神医学において広く受け入れられている「ストレス-脆弱性」理論に依拠して判断するのが相当であるところ、この理論を踏まえると、業務と疾病との間の相当因果関係は、ストレスと個体側の反応性、脆弱性とを総合的に考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして認められるのに対し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であると認められない場合は、精神障害は業務以外の心理的負荷又は個体側要因に起因するものといわざるを得ないから、それを否定することとなる。

3 Xに対するB等同僚の女性社員のいじめやいやがらせであるが、個人が個別に行ったものではなく、集団でなされたものであって、しかも、かなりの長期間、継続してなされたものであり、その態様もはなはな陰湿であった。以上のような事実を踏まえると、Xに対するいじめやいやがらせはいわゆる職場内のトラブルという類型に属する事実ではあるが、その陰湿さ及び執拗さの程度において、常軌を逸した悪質なひどいいじめ、いやがらせともいうべきものであって、それによってXが受けた心理的負荷の程度は強度であるといわざるをえない。しかも、Xに対するいじめやいやがらせについて、Y社の上司らは気づいた部分について何らかの対応を採ったわけでもなく、また、Xからその相談を受けた以降も何らかの防止策を採ったわけでもない。Xは、意を決して上司等と相談した後もY社による何らの対応ないしXに対する支援策が採られなかったため失望感を深めたことが窺われる

社内におけるいじめ、いやがらせは、一般的に立証が難しいです。

今回は、IPメッセンジャーの履歴が残っていました。

勤務時間中に何をやっているんですかね・・・。

よほど暇なんでしょうかね。

Xが会社に対し、別途、損害賠償請求をする可能性もあります。

会社としては、社員間のいじめや理不尽ないやがらせに目を光らせなければいけません。

また、当事者から相談があった場合には、迅速に適切な対応をとる必要があります。

この裁判例を教訓にしてください。

会社の社会的評価を著しく低下させることになります。

会社にとって、優秀な社員を失うことほど大きな損失はありません。

解雇39(メッセ事件)

おはようございます

さて、今日は、経歴詐称を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

メッセ事件(東京地裁平成22年11月10日・労判1019号13頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業を目的とする会社である。

Xは、Y社との間で、雇用期間を1年とする雇用契約を締結し、平成20年5月からY社において就労し始めた。

Y社は、アメリカで経営コンサルタントをしていたとする略歴書を信用してXを採用した。しかし、当時のY社の代表取締役Y1は、本件雇用契約締結後、Xが会議において他の従業員に対し強く意見を述べた際、その発言内容が理解しがたかったことなど、Xの態度や発言等から、Xが従前経営コンサルタントをしていたとの経歴に疑問を感じるようになった。

そこで、Y1は、インターネットでXの氏名を検索したところ、食品菓子販売大手のA社の役員を中傷するファックスを流したために、平成16年6月、自称経営コンサルタントX容疑者を逮捕した、などと記載された記事を発見した。

Y1は、平成20年5月、Xに対し、本件記事記載の人物がX本人かを確認したところ、Xは、これを認め謝罪するとともに自身は無罪であると主張した。

Y1は、Xの経歴詐称は、本件雇用契約締結の動機づけを覆すものであるからXを解雇しようと考えたが、Xが円満に退職することを望み、30万円を一括して支払うことを条件にXに対して退職勧奨をしたが、Xは退職条件について記載した書面の交付を求め続けた。

そこで、Y社は、Xを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるといえることからすると、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項や、これに加え、企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うものというべきである。したがって、労働者が前記義務に違反し、「重要な経歴をいつわり採用された場合」、当該労働者を懲戒解雇する旨定めた本件就業規則の規定は合理的であるといえる。

2 Xは、信用毀損被告事件で起訴されたことはないから、同起訴を理由としてした本件解雇は無効である旨主張する。
確かに、本件解雇通知書には、信用毀損罪で起訴された旨記載されていることが認められる。しかし、本件解雇の事由に該当するXの所為は、本件服役等の期間中について、渡米して経営コンサルタント業務に従事していた旨及び「賞罰なし」との虚偽の記載をした本件履歴書を提出したことであるところ、当該事実について、本件解雇通知書の記載内容に誤りはない。さらに付言すると、本件前科の罪名は名誉毀損罪であり、信用毀損罪による未決勾留中に求令状起訴されたことからすると、被疑事実と本件前科の犯罪事実は、同一の社会的事象について法的評価が変更されたものと推認され、犯状は異なるものではないから、前記罪名が異なることによって、経歴詐称の程度、悪質性等が左右されるものでもないといえる。

3 労働者が雇用契約の締結に際し、経歴について真実を告知していたならば、使用者は当該雇用契約を締結しなかったであろうと客観的に認められるような場合には、経歴詐称それ自体が、使用者と労働者との信頼関係を破壊するものであるといえることからすると、前記のような場合には、具体的な財産的損害の発生やその蓋然性がなくとも、「重要な経歴をいつわり採用された場合」に該当するというべきである

4 Xは、Y社に対し、本件服役等について秘匿したのみならず、その間、渡米して経営コンサルティング業務に従事していたと自己の労働力の評価を高める虚偽の経歴を記載した本件略歴書及び本件履歴書を提出したことが認められ、その態様は悪質であるといえる。また、Y社は、本件服役等の事実が発覚した後、Xに対し、弁解の機会を与え、さらに、30万円の支払を提示して自主退職の機会も与えたことが認められ、本件解雇に至るまでに相当な手続を履践したといえる。これに対し、Xは、本件前科について無罪である旨主張しながら、その根拠となる資料をY社に提示することを拒否し、また、Y社からの退職勧奨に対し、退職条件について協議するでもなく、退職条件を記載した文書の送付に拘泥するなど、経歴詐称発覚後のXの対応も、Y社との信頼関係を破壊するに足りるものであったといえる。

本件は、本人訴訟のようです。控訴はしていません。

本件事実を見る限り、悪質性が極めて高いので、懲戒解雇は相当であると考えます。

インターネットで情報が半永久的に残ってしまい、それを誰でも簡単に確認できてしまう現代特有の問題ですね。

本件裁判例では、冒頭で、労働者が負うべき真実告知義務の範囲について判断しています。

典型的には、学歴、職歴、前科、年齢などの詐称が問題となります。

それ以外の事項について、詐称があった場合、懲戒処分の対象となるか否かは、ケースバイケースです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。