おはようございます。
さて、今日は、時間外労働手当の算定基礎からの除外ないし減額が問題となった裁判例を見てみましょう。
淀川海運事件(東京地裁平成21年3月16日・労判988号66頁)
【事案の概要】
Y社は、自動車運送事業等を主たる目的とする会社である。
Xらは、いずれもY社に期間の定めなく雇用され、トレーラーの運転手等として、稼働してきた。Xらはいずれも組合員である。
Y社は、組合は、皆勤手当と無事故手当を廃止し、代わりに2カ月ごとに査定の上、2カ月ごとに支給される精皆勤報奨金・無事故報奨金を設けることを内容とする協定を締結した。
【裁判所の判断】
各手当を廃止して報奨金とした制度変更は無効。
【判例のポイント】
1 労基則21条は、・・・「別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を掲げる。ここにいう「臨時に支払われた賃金」とは、臨時的、突発的事由に基づいて支払われるもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいう(昭和22年9月13日発基第17号)と解される。上記規則12条に列挙されたものは、労基法の強硬法規的性格からいって、限定列挙又はそれに近いものと考えられる。したがって、ここに列挙された手当以外の費目は、基本的に時間外手当の算定の基礎となるものというべきである。そして、算定の基礎となるか否かは、手当の名称にかかわらず、その実質によって判断されるべきである。
2 平成19年7月以前に、前記皆勤手当、無事故手当、住宅手当及び乗車手当が、運転手である各従業員に一律支給されていたものであることは、争いのない事実である。したがって、これら手当のうち皆勤手当及び無事故手当は、基本給と同様な賃金の一部であるということができ、これを時間外手当の算定の基礎から除外して計算して時間外手当を支給する行為は、労基法37条4項及び同項施行規則21条に違反するというべきである。
3 一般的に、各種手当のうち、毎月支給していたものを、評価の期間を変更してそれ以上の期間で評価し、支給することは許されないものではないと考えられる。しかしながら、本件においては、Y社が皆勤手当と無事故手当を時間外手当算定の基礎から除外したことはXらが労基署に申告したことから、Y社は労基署から是正勧告を受け、そのような中で、これら各手当を廃止し、2か月ごとに査定の上、2か月ごとに支給される精皆勤報奨金・無事故報奨金の制度に変え・・・。もともとそれまで1か月単位で評価していたものを2か月単位にすることの合理的な理由は、証拠によっても、明らかでない。しかも、それまでの皆勤手当と無事故手当は、一律支給で賃金の一部を構成していたのであるから、このようなものを廃止して報奨金の制度に変えることについてはなおさら慎重であるべきである。その上、Y社代表者本人によれば、現在でも1か月ごとに査定しているというのであるから、実態にどの程度変更があるのか疑問なしとしない。とすれば、このような事実関係の下においては、上記制度変更は、労基法37条を潜脱するためのものと解するのが相当であり、脱法行為として無効というべきである。
裁判所から、時間外労働手当の算定基礎から除外することが目的であると判断されてしまいました。
法律の条文には抵触しませんが、裁判所は、法の潜脱、脱法行為は許してくれません。
気になるのが、上記判例のポイント3の冒頭部分です。
「一般的に、各種手当のうち、毎月支給していたものを、評価の期間を変更してそれ以上の期間で評価し、支給することは許されないものではないと考えられる」
ということは、本件でY社がやろうとしていたことが絶対に許されないというわけではなさそうです。
・・・脱法行為ではないんですかね。
残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。