賃金20(中山書店事件)

おはようございます。

さて、今日は、年俸制の下における年俸額の合意が成立しない場合に関する裁判例を見てみましょう。

中山書店事件(東京地裁平成19年3月26日・労判943号41頁)

【事案の概要】

Xらは、出版業等を営むY社の正社員である。

Y社においては、主任以上の役職者以外の従業員のほとんどに「一般管理職」の肩書きを付与しており、Xらも「一般管理職」である。

Y社は、平成13年2月頃、一般管理職に新たに年俸制を導入すること、就業規則とは別に個別に年俸契約にすることを表明した。

その後、平成14年8月に就業規則改正が行われ、「労使双方面談のうえ原則として7月中に次年度の年俸を決定する」と定められた。

XらとY社の間では、平成15年8月までの年俸額については合意に基づく決定がなされていたが、同年9月以降についてはY社の提示した年俸額にXらが同意せず、両者間で協議が継続している。

この間、Y社は、提示額を上回る年俸額が確定した場合は差額を支給することとしつつ、提示した年俸額に基づいて月例賃金等を支払っている。

Xらは、次年度以降の年俸額を主張し、差額分の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件年俸制の下での年俸額に関するY社とXらとの合意は、1年という期間を設定してされているのであるから、その合意の効力も、設定された期間においてのみ存在すると解される。

2 本件年俸制において、年俸額を決定するためのY社とXらの協議が整わない場合には、使用者であるY社がXらとの協議を打ち切って、その年俸額を決定することができると解され、この場合、Y社のした決定に承服できない当該社員は、Y社が決定した年俸額がその裁量権を逸脱したものかどうかについて訴訟上争うことができると解される。

3 Y社が上記決定権を行使せず、年俸額に関する社員との協議を継続し、社員もこの協議に応じながら労務の提供を継続する場合には、Y社が提案した年俸額よりも低い金額で合意が成立することは通常想定し得ないから、Y社が提案した金額を年俸額の最低額とする旨の合意がされていると解することができ、社員は、Y社が提案した金額をY社に請求することができるが、これを上回る年俸額についての合意がない以上、Y社提案額を上回る金員をY社に請求することはできないと解される。

裁判所の判断によると、本件年俸制の下では、Y社は、Xらとの合意なしに、一方的な年俸減額が許容され得るわけですね。

そして、このような判断は、Y社とXらがY社による一方的な年俸減額があり得る旨の合意も成立していたことを根拠としています。

Y社では、モーニングミーティングにおいて、年俸制について、従業員の目標達成度、貢献度、賃金原資の変動等によっては、年俸額の減額があり得る制度として、その目的、必要性、実施手順等を従業員らに説明していたと認定されています。

ただ、Y社による「一方的な減額」まで、このモーニングミーティングでの説明を根拠に「合意があった」と認定するのは、強引な気がしますが・・。

通常、使用者による労働条件の不利益変更については、かなり厳しい要件を要求されることとのバランスがとれていないように感じます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。